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カレン=ロロアナ侯爵令嬢が、前世で読んだ『カレン』の物語を思い出したのは物心ついた頃。
意識せず『カレン』の人生を同じように辿り始めたのも同じ頃だった。
「気を付けていたのに、結局『カレン』になっていくのよね」
カレンは自室で紅茶を嗜みながら口の端を歪め笑う。
両親譲りの美貌を誇るカレンは、美しいものには棘があるという言葉を体現しているような華々しい容姿と、苛烈な性格を持ち合わせている。
そんな彼女の下僕は床で正座をしていた。彼の明るい橙色の瞳はカレンを見据えている。
「いわれのないことで糾弾されて婚約破棄を迫られるのは、あと半年後くらいかしら」
カレンは長い指を折り曲げる。そして、わざとらしい溜め息をついた。
「そもそも、婚約者のいる男に親切にされ、その気になる女を責めることの何が悪いのかしら」
「お嬢様の仰るとおりです」
従順な下僕であるケネスは真剣な瞳で頷いた。カレンは眉間に皺を寄せる。
「マシュー殿下も、婚約者がいるのに真実の愛だのなんだのと馬鹿なのかしら」
「そんなことをお嬢様におっしゃったのですか?」
「これから言うのよ」
ケネスは何か言いたげに口を開きかけるが、言葉を呑み込んだ。
カレンは前世の記憶を持っている。
朧気な記憶だが、前世で読んだ物語の中で、『カレン』は悪役として婚約者から一方的に責められていた。
いまだに夢なのか、現実の記憶なのか分からなくなる時がある。しかし、正夢になりそうな予感だけは、年を追うごとに増していくのだ。
「そういった流れを回避しようとしたつもりなのに、おかしいわね……」
記憶という知識を持っていたとしても、カレンは『カレン』だった。
悪役になろうとしていたわけじゃない。しかし、曲がったことが大嫌いで、それらを咎めるときの物言いはきつい。
癇癪持ちで、身分を盾にして物を言う女だ。
悪役になろうとして、悪役の行動をしたわけではないのに、それらしい役割の女に成長してしまった。
前世で読んだ物語の『カレン』は、婚約者であるマシュー第一王子を寝取られた腹いせに罪を犯す。
裏切り行為さえなければ、『カレン』だって罪を犯さなかったはずだ。犯してしまった行為が正しくないことを承知した上で、それでもそこに至った過程が許せない。
「物語の『カレン』はね、婚約者を愛していたのよ。だから罪を犯すの。――そうしたくなった気持ち、私には痛いくらいに理解できる」
「愛する人に裏切られることは、身を引き裂かれるような悲しみなのでしょう」
ケネスは自分のことのように想像したのか、表情を歪めた。
「どうして彼らが責められず、罪を犯したからって『カレン』だけが責め苦を負うのかしら」
「罪を犯したからです」
至極まっとうな返答をされて、カレンはむっとして、手にしていた扇をケネスの顔に投げつけた。
ばしっと強い音がして、扇は床に落ちる。
ケネスは赤くなった頬を押さえることもなく、扇を拾い、壊れていないか確認してカレンに差し出した。
「婚約者がいながら、真実の愛とやらを育むのは罪ではないのかしら」
「当事者にとっては罪でないのです。そして、周囲の者にとっても、そうなって然るべきだったと思い至る状況だったのでしょう」
カレンは差し出された扇をひったくるように受け取る。ケネスはカレンの足元に跪いた。
「まあ、私はどこから見ても悪役ですものね」
「お嬢様は悪役ではありません」
「二人の真実の愛を邪魔する障壁なのよ」
「決められた婚約を邪魔に感じることのほうが、おかしいのです」
「あら、いいことを言うわね」
真実の愛とやらに夢中になるくらい、マシューにとってカレンは魅力的ではなかったのだろう。
彼には地位も名誉もある。容姿端麗で天から愛されて生まれたような男だ。
結婚相手に求めるものは、それなりの地位があり、容姿さえ好みであれば、あとは性格といったところなのだろう。
カレンの目の前で過ぎていく毎日は、『カレン』の物語と同じだ。きっと元々の性格が似ていたのだろう。
はからずも物語の流れには抗えなかった。
婚約者であるマシュー第一王子は、優しく穏やかな清廉潔白なヒロインに惹かれ、それを隠しているつもりなのだろうが、周囲にその関係は筒抜けだ。
けれど、婚約者がカレンならばそうなるだろうという目で見られているせいで、裏で噂になる程度で済んでいる。
「私、お父様から王家に注意していただいたのよ。でも陛下たちは、私に何らかの非さえ見つかれば、婚約を破棄したいと思っているようね」
「横暴な話ですね」
「私って、そんなに嫌な女かしら」
「お嬢様は素敵ですよ」
ケネスは人の良さそうな笑みを浮かべてカレンを見上げる。
カレンは呆れ嘆息した。
「おまえはね、『カレン』の物語には関係ないのよ。私が気まぐれで買ったのだから」
「はい。そう思っていただけたこと、僕の人生で最も幸運なことでした」
カレンの記憶している物語の中に出てこない男。
もしかしたら存在していたかもしれないが、名も無い登場人物を、細かに書き記す物語はないだろう。
だから、カレンは彼を知らない。
態度の悪い侍女を折檻し辞めさせて、後任が決まらないと両親が頭を抱えていた頃、カレンはケネスを手に入れた。
たまたま馬車で通りかかった人だかりの中に、簡単な舞台を設置して奴隷が売られていた。そこでカレンは十三歳だったケネスを買ったのだ。
「おまえが来て、もう五年ね」
前世の記憶があろうが、カレンはこちらの世界の倫理観に染まりきっている。
胸が痛んでも同情はしない。それが身分差の大きい国で生きるということだ。
両親も高位貴族の自覚を持ち凜としている。カレン自身もそんな両親を誇りに思い、綺麗事だけで己の地位が守れないことも深く理解している。
「五年ものあいだ、おそばに仕えられて幸せです」
「心にもないこと言わなくていいわよ」
カレンはそう言いながら、ケネスの真っ直ぐな瞳を見返す。
――この男は本気でそう考えていそうね。
苛烈なカレンの癇癪を一身に受け止め、他の使用人たちに同情されながらも、ずっとへらへらと笑っている。
そんな姿に苛立つけれど従順で気が利く。共にいるのは楽だ。
奴隷だった過去を忘れさせるくらい、五年前よりも背が高くなった。体格も痩身だが捲った袖から覗く腕は筋肉質だ。
蜂蜜色の髪は毎日清潔に保たれていて、まばゆく輝いている。
「おまえの髪を見ていると、あの馬鹿王子を思い出して苛々するわね」
マシューと同じ髪色と瞳。
この国の人間には多い色だが、二人の年齢が近いこともあり、なんとなく意識してしまう。
「何度もそう申されるので、髪を剃り上げたいと思うのですが……」
「それはやめてちょうだい」
さすがに外聞が気になる。
奴隷制が残るくせに、貴族たちは使用人を厚遇に扱ってこそ一流といった矜持がある。
建前だけで中身が伴わない貴族らしい考え方だ。
「見た目だけなら、彼とおまえは同じようなものなのにね」
生まれる前から人は運に左右されている。
その点では、カレンは『カレン』の物語を知っているから幸運なのかもしれない。
「あと半年でどうなるものでもないから、婚約破棄されてからのことでも考えようかしら」
「物語では『カレン』様は復讐をされたようですが、お嬢様はなされないのですか?」
「両親に迷惑をかけたくないのよ。『カレン』の物語を知らなかったら、怒りにまかせて完膚なきまでに叩きのめしてやったと思うけれど」
カレンは物語の未来を思い出し、怒りの感情を必死に腹の奥へ押し込む。
「本当はマシュー殿下に対して、まったく情がなかったわけではないの。幼い頃から婚約していたし、素敵だとも思っていたわ」
「お嬢様……」
「私は私なりに接してきたけれど、やはり駄目ね。相手の求める自分を演じようとすると吐き気がする」
性格の不一致。それは双方の努力で多少は埋められるかもしれない。でも、カレンだけの努力ではどうにもならないものだった。
胸にわずかな痛みを感じて、頬を涙が一筋伝った。涙が出てくるくらいには情を抱いていたようだ。
カレンは指で涙を拭う。
「前にも話したけれど、しばらくしたら、二人は旅行先で愛を育むのよ。なんとかして証拠を掴み王家へ提示してやりたいけれど、今までの態度を考えると証拠も揉み消されてしまうでしょうね」
「件のご令嬢の領地は、今、薔薇の花が見頃ですね」
「雰囲気を盛り上げる演出としては最高じゃないかしら」
だから、『カレン』の物語の中でもそういう場所として描かれていたのだろう。
『カレン』は婚約者の不貞を知り激高して悪手を繰り返す。それを逆手にとられるのだ。
「お嬢様。糾弾されるべきは、お嬢様ではありません」
「……たきつけるのは、やめてちょうだい」
「そんなつもりはありません。どうか、お許しください」
床で土下座をする男。
背の高いケネスは、教えてもいないのに、こうやって床に頭をつける。
私が彼を叱責するとき、癇癪を受け止めるとき。
折檻しやすい体勢をとっているつもりなのだ。
――気持ちの悪い男。
容姿は悪くない。顔立ちも精悍で整っている。年齢の近い使用人の中では、誰かが恋愛対象にしているだろう。
それなのにこの男は、どれほど手酷い扱いをされても、カレンのそばから離れようとはしない。
――この男、何かを起こしたりしないわよね。
そんな不安が脳裏をよぎったけれど、そんなことあるわけないと頭を振る。
これだけ手酷く扱われているのだ。
カレンを裏切ることはあっても、カレンのために何かをしでかすような度胸があるとは思えない。
「来るべき日に備え、結婚相手でも探しましょう。お父様に釣書を揃えてくださるよう伝えてちょうだい」
「承知いたしました」
ケネスは微笑んで、頭を下げた。
意識せず『カレン』の人生を同じように辿り始めたのも同じ頃だった。
「気を付けていたのに、結局『カレン』になっていくのよね」
カレンは自室で紅茶を嗜みながら口の端を歪め笑う。
両親譲りの美貌を誇るカレンは、美しいものには棘があるという言葉を体現しているような華々しい容姿と、苛烈な性格を持ち合わせている。
そんな彼女の下僕は床で正座をしていた。彼の明るい橙色の瞳はカレンを見据えている。
「いわれのないことで糾弾されて婚約破棄を迫られるのは、あと半年後くらいかしら」
カレンは長い指を折り曲げる。そして、わざとらしい溜め息をついた。
「そもそも、婚約者のいる男に親切にされ、その気になる女を責めることの何が悪いのかしら」
「お嬢様の仰るとおりです」
従順な下僕であるケネスは真剣な瞳で頷いた。カレンは眉間に皺を寄せる。
「マシュー殿下も、婚約者がいるのに真実の愛だのなんだのと馬鹿なのかしら」
「そんなことをお嬢様におっしゃったのですか?」
「これから言うのよ」
ケネスは何か言いたげに口を開きかけるが、言葉を呑み込んだ。
カレンは前世の記憶を持っている。
朧気な記憶だが、前世で読んだ物語の中で、『カレン』は悪役として婚約者から一方的に責められていた。
いまだに夢なのか、現実の記憶なのか分からなくなる時がある。しかし、正夢になりそうな予感だけは、年を追うごとに増していくのだ。
「そういった流れを回避しようとしたつもりなのに、おかしいわね……」
記憶という知識を持っていたとしても、カレンは『カレン』だった。
悪役になろうとしていたわけじゃない。しかし、曲がったことが大嫌いで、それらを咎めるときの物言いはきつい。
癇癪持ちで、身分を盾にして物を言う女だ。
悪役になろうとして、悪役の行動をしたわけではないのに、それらしい役割の女に成長してしまった。
前世で読んだ物語の『カレン』は、婚約者であるマシュー第一王子を寝取られた腹いせに罪を犯す。
裏切り行為さえなければ、『カレン』だって罪を犯さなかったはずだ。犯してしまった行為が正しくないことを承知した上で、それでもそこに至った過程が許せない。
「物語の『カレン』はね、婚約者を愛していたのよ。だから罪を犯すの。――そうしたくなった気持ち、私には痛いくらいに理解できる」
「愛する人に裏切られることは、身を引き裂かれるような悲しみなのでしょう」
ケネスは自分のことのように想像したのか、表情を歪めた。
「どうして彼らが責められず、罪を犯したからって『カレン』だけが責め苦を負うのかしら」
「罪を犯したからです」
至極まっとうな返答をされて、カレンはむっとして、手にしていた扇をケネスの顔に投げつけた。
ばしっと強い音がして、扇は床に落ちる。
ケネスは赤くなった頬を押さえることもなく、扇を拾い、壊れていないか確認してカレンに差し出した。
「婚約者がいながら、真実の愛とやらを育むのは罪ではないのかしら」
「当事者にとっては罪でないのです。そして、周囲の者にとっても、そうなって然るべきだったと思い至る状況だったのでしょう」
カレンは差し出された扇をひったくるように受け取る。ケネスはカレンの足元に跪いた。
「まあ、私はどこから見ても悪役ですものね」
「お嬢様は悪役ではありません」
「二人の真実の愛を邪魔する障壁なのよ」
「決められた婚約を邪魔に感じることのほうが、おかしいのです」
「あら、いいことを言うわね」
真実の愛とやらに夢中になるくらい、マシューにとってカレンは魅力的ではなかったのだろう。
彼には地位も名誉もある。容姿端麗で天から愛されて生まれたような男だ。
結婚相手に求めるものは、それなりの地位があり、容姿さえ好みであれば、あとは性格といったところなのだろう。
カレンの目の前で過ぎていく毎日は、『カレン』の物語と同じだ。きっと元々の性格が似ていたのだろう。
はからずも物語の流れには抗えなかった。
婚約者であるマシュー第一王子は、優しく穏やかな清廉潔白なヒロインに惹かれ、それを隠しているつもりなのだろうが、周囲にその関係は筒抜けだ。
けれど、婚約者がカレンならばそうなるだろうという目で見られているせいで、裏で噂になる程度で済んでいる。
「私、お父様から王家に注意していただいたのよ。でも陛下たちは、私に何らかの非さえ見つかれば、婚約を破棄したいと思っているようね」
「横暴な話ですね」
「私って、そんなに嫌な女かしら」
「お嬢様は素敵ですよ」
ケネスは人の良さそうな笑みを浮かべてカレンを見上げる。
カレンは呆れ嘆息した。
「おまえはね、『カレン』の物語には関係ないのよ。私が気まぐれで買ったのだから」
「はい。そう思っていただけたこと、僕の人生で最も幸運なことでした」
カレンの記憶している物語の中に出てこない男。
もしかしたら存在していたかもしれないが、名も無い登場人物を、細かに書き記す物語はないだろう。
だから、カレンは彼を知らない。
態度の悪い侍女を折檻し辞めさせて、後任が決まらないと両親が頭を抱えていた頃、カレンはケネスを手に入れた。
たまたま馬車で通りかかった人だかりの中に、簡単な舞台を設置して奴隷が売られていた。そこでカレンは十三歳だったケネスを買ったのだ。
「おまえが来て、もう五年ね」
前世の記憶があろうが、カレンはこちらの世界の倫理観に染まりきっている。
胸が痛んでも同情はしない。それが身分差の大きい国で生きるということだ。
両親も高位貴族の自覚を持ち凜としている。カレン自身もそんな両親を誇りに思い、綺麗事だけで己の地位が守れないことも深く理解している。
「五年ものあいだ、おそばに仕えられて幸せです」
「心にもないこと言わなくていいわよ」
カレンはそう言いながら、ケネスの真っ直ぐな瞳を見返す。
――この男は本気でそう考えていそうね。
苛烈なカレンの癇癪を一身に受け止め、他の使用人たちに同情されながらも、ずっとへらへらと笑っている。
そんな姿に苛立つけれど従順で気が利く。共にいるのは楽だ。
奴隷だった過去を忘れさせるくらい、五年前よりも背が高くなった。体格も痩身だが捲った袖から覗く腕は筋肉質だ。
蜂蜜色の髪は毎日清潔に保たれていて、まばゆく輝いている。
「おまえの髪を見ていると、あの馬鹿王子を思い出して苛々するわね」
マシューと同じ髪色と瞳。
この国の人間には多い色だが、二人の年齢が近いこともあり、なんとなく意識してしまう。
「何度もそう申されるので、髪を剃り上げたいと思うのですが……」
「それはやめてちょうだい」
さすがに外聞が気になる。
奴隷制が残るくせに、貴族たちは使用人を厚遇に扱ってこそ一流といった矜持がある。
建前だけで中身が伴わない貴族らしい考え方だ。
「見た目だけなら、彼とおまえは同じようなものなのにね」
生まれる前から人は運に左右されている。
その点では、カレンは『カレン』の物語を知っているから幸運なのかもしれない。
「あと半年でどうなるものでもないから、婚約破棄されてからのことでも考えようかしら」
「物語では『カレン』様は復讐をされたようですが、お嬢様はなされないのですか?」
「両親に迷惑をかけたくないのよ。『カレン』の物語を知らなかったら、怒りにまかせて完膚なきまでに叩きのめしてやったと思うけれど」
カレンは物語の未来を思い出し、怒りの感情を必死に腹の奥へ押し込む。
「本当はマシュー殿下に対して、まったく情がなかったわけではないの。幼い頃から婚約していたし、素敵だとも思っていたわ」
「お嬢様……」
「私は私なりに接してきたけれど、やはり駄目ね。相手の求める自分を演じようとすると吐き気がする」
性格の不一致。それは双方の努力で多少は埋められるかもしれない。でも、カレンだけの努力ではどうにもならないものだった。
胸にわずかな痛みを感じて、頬を涙が一筋伝った。涙が出てくるくらいには情を抱いていたようだ。
カレンは指で涙を拭う。
「前にも話したけれど、しばらくしたら、二人は旅行先で愛を育むのよ。なんとかして証拠を掴み王家へ提示してやりたいけれど、今までの態度を考えると証拠も揉み消されてしまうでしょうね」
「件のご令嬢の領地は、今、薔薇の花が見頃ですね」
「雰囲気を盛り上げる演出としては最高じゃないかしら」
だから、『カレン』の物語の中でもそういう場所として描かれていたのだろう。
『カレン』は婚約者の不貞を知り激高して悪手を繰り返す。それを逆手にとられるのだ。
「お嬢様。糾弾されるべきは、お嬢様ではありません」
「……たきつけるのは、やめてちょうだい」
「そんなつもりはありません。どうか、お許しください」
床で土下座をする男。
背の高いケネスは、教えてもいないのに、こうやって床に頭をつける。
私が彼を叱責するとき、癇癪を受け止めるとき。
折檻しやすい体勢をとっているつもりなのだ。
――気持ちの悪い男。
容姿は悪くない。顔立ちも精悍で整っている。年齢の近い使用人の中では、誰かが恋愛対象にしているだろう。
それなのにこの男は、どれほど手酷い扱いをされても、カレンのそばから離れようとはしない。
――この男、何かを起こしたりしないわよね。
そんな不安が脳裏をよぎったけれど、そんなことあるわけないと頭を振る。
これだけ手酷く扱われているのだ。
カレンを裏切ることはあっても、カレンのために何かをしでかすような度胸があるとは思えない。
「来るべき日に備え、結婚相手でも探しましょう。お父様に釣書を揃えてくださるよう伝えてちょうだい」
「承知いたしました」
ケネスは微笑んで、頭を下げた。
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