徒然 物語

藤沢はなび

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小説化したもの(する予定) または本編で出せなかった話

砂漠の国で伝えた大丈夫の意味

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 昔見た夢を元に書き、完結させた『砂漠の女王が愛した星』

 何故小姓は女王に、互いが死ぬと分かっていて、最期自分の気持ちではなく「大丈夫」と声をかけたのか、私自身ずっと謎であった。

 夢を参考に書いた小説だから、自分でも、最期なら女王みたく「愛してる」の一言や二言の方がロマンチックなのにな~だなんてずっと内心思っていた。

 小姓の最期の言葉が「大丈夫」であるせいで、小姓が果たして本当に女王を愛していたのか、その描写を書いてもいいのか悩んだ時期もあり、この言葉にはだいぶ苦労させられた。

 夢を見た当時はまだ10代。
 小説を書き、完結させた時期も22歳頃だ。
 好きなら好きと、愛してるなら愛してるとはっきり言うべきだと。
 言葉にしていないことは真実ではない……とまではいかないが、私にはまだその最期の言葉「大丈夫」の意味が分からなかった。
 恐らく女王も分かっていないまま息絶えたことだろう。

 どうしてこの状況でそんな事が言えるのだろうか、誰がどこからどう見ても大丈夫な場面などひとつもなかったのにと。


 最近になって、逆の立場とも言える夢を見た。
 街中で私が突如撃たれ、連れだった男性がパニックに陥り、私を抱き締めながらおいおい泣いているのだ。
 その時私は咄嗟に「大丈夫」と声をかけた。
 愛しているという気持ちはもちろんある。
 でも不安と恐怖に駆られ慟哭する彼を前に、どうして愛を囁けるだろうかと思ったのだ。

 大丈夫だと、私は大丈夫だから、安心してと、私は死を悟りながら彼の心を案じていた。
 自分の彼に対する想いを伝えようなど微塵も思わなかった。
 ただただ、心配だった。


 目覚めた時、なるほどなと思わず口にした。
 すぐに小姓のことが思い浮かんだのだ。
 別に夢だから本当だろうが偽物だろうがどちらでも構わないが、どんな形であれ納得はしたい。
 長年謎だったその言葉の真意が何となく分かった気がしたのだ。

 自分の想いを押し付けるよりも、絶望を前に泣く彼女が心配だった。
 そして、少しでも安心させてあげたかった故に出た言葉がそれだったのだと。


 ただ、夢の中の私は彼に未来があると思ったから「大丈夫」だと伝えた。
 私は死に、彼は生きるのであれば、今の彼を優先したかった。
 しかし恐らく小姓は自分が滅多刺しにされた後、女王が殺されることも分かっていただろう。
 ここに状況の違いはあるものの、似た感覚から小姓は同じ言葉を口にしたのだと思う。


 今まで共に過ごしてきた仲間たちが、自分の選択のせいで目の前で抗うことなく殺され、かつて愛した人までもがこれから殺されようとしている。
 今まで威厳を放っていた顔は涙に汚れ、気丈に立っていた足は崩れ落ちていた。

 愛する人(だと仮定したい)のそんな姿を見て、小姓は何を感じたのだろう。
 絶望の中で彼女を死なせたくは無かったのだろうか。少しでも安心して欲しかったのか。
 それとも自分の想いを伝える事によって、後世の女王の名に傷がつくことを恐れたのか。


 小説を書く上では大それた言葉の方が有難かったが、有り触れた「大丈夫」という言葉を私は敢えて、ほぼ変える事無くそのまま使った。

 その選択は彼の性格を表す上では正解だったなと、今なら思う。

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