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七空間目
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しおりを挟む「………っ」
だからといって、この体勢はないだろ!と声高々に突っ込みたい。むしろ神田さんは、俺のツッコミ待ちなのだろうか。
「ほら、手を出せ」
「は、はい…」
い、いや、やっぱりこれはこの人からすると普通のことなんだろう。めちゃくちゃ平然としている。
「………」
…今の俺の体勢。
それは胡坐を掻いた神田さんの脚の間にすっぽりと納まっている状態だ。そんな体勢のまま背後から俺の身体を緩く抱き締めている神田さんは、俺の肩に顎を置いて爪を切り出した。
……なんだ、それっ。俺だって逆の立場で女の子にしたい!
「…あ、あの、」
もう片方の手を何処に置けばいいか分からず、俺はとりあえず邪魔にならないように自分の着ている服を握り締めた。
…だって、これではまるで昨日の情事中のようじゃないか。
「神田、さん?」
「………」
「む、無視、しないでくださいよ」
「…なんだよ、痛くねえだろ?」
「痛くはないですけど…」
「だったら黙ってろ」
「………」
間が持たないんだよ。というより気まずいんだ、俺は。
昨夜の激しいセックスのことを思い出しているのは、こんなにも相手の体温を意識しているのは、……俺だけなのだろうか。
「か、神田さんは、」
黙っていろ、と怒られたばかりだというのに、意識しないためにも、俺は再び神田さんに話し掛けた。
「そ、その、爪の手入れが好きなんですか?」
「べつに」
「だけど、ご自分のも丹念に手入れしてましたよね?」
「普段はしねえよ」
「え?そうなんですか?」
「……何だ?そんなにお前は痛いのが好きなのか?」
「………、へ?」
脈略のない、「お前はドMなのか」発言に腹が立つよりも、意味が分からず俺は首を傾げた。
「どういう意味ですか?」
「傷付けねえためだろ」
「…誰を?」
「お前を」
「えっ?」
「中を解すのに邪魔でしかねえからな」
神田さんが喋る度に、熱っぽい吐息が耳と頬に掛かる。くすぐったいのと同時に、俺は神田さんのその発言に、固まってしまった。
……俺のために爪のケア?
それって「あと最低一回はお前は抱くぞ」という死刑宣告か?
「…えーっと」
今の体勢通りの「抱っこ」のことならば色々なことを思い出してしまい恥かしいけれど、まぁ、それなりに安心感があって、…その、あの……、ぶっちゃけ嫌ではない。だけど、“そういう意味”での「抱く」ならば、あと一回も嫌だ。断固拒否したい。
「(でもどうせ拒否しても、力ずくで抱かれちゃうんだろうけど)」
だけど悲しいかな、「嫌、嫌」言ってても、そのまま流されてしまうんだよな。童貞をこじらせ、自慰も滅多にしてこなかったせいで、与えられる刺激にアホみたいに敏感なんだよ俺は…。
「あのー、そのぉ……、それは必要、ないかと…」
「あ?慣らす必要がねえってか?そんなに痛いのが好きなのかお前は?」
「いやっ、ち、違いますよ!」
やんわりと「もう貴様に犯されるのは嫌だ」と言えば、なぜか違う方向に解釈をされてしまい、俺は何度も首を横に振った。
だけどここでそんなことを馬鹿正直に言ってしまえば、再び乱暴されてしまうのは目に見えて分かっているので、俺は押し黙る。
「も、もういいです。俺の爪、切ってください」
「………ふーん。まあ、いいけど」
とりあえずこの件は、一旦保留にしておこう。
俺の身体が万全の状態に戻って、精神的にも落ち着いたら、打開策を見つけることにしよう。
「それにしても、お前は指の先まで柔らけえな」
「………」
「手も白くて、ふにふにしている」
「…馬鹿にしてるんですか?」
「馬鹿に?してねえけど?」
いや、してるだろ。
それ遠回しに「お前デブだな」って言ってるのと同じじゃんか。めちゃくちゃ傷付くんだけど。どうせ俺の指は贅肉たっぷりで太いよ!トッポも驚くほどだよ!!
「褒めてるんだよ」
「……それのどこが褒め言葉なんですか…」
「手触りがいいって言ってるんだ」
そう言った神田さんは爪切りを中断して、俺の手の平を緩く握ったり、指を絡めたりしてきた。
「俺は神田さんの手が、心底羨ましいです」
「俺の?」
「はい」
男らしくゴツゴツしている神田さんの手。指は長いし、手の甲に太い血管が浮き出ているのが羨ましい。
……ふんっ、どうせ俺は真逆ですよ。手をグーにしても、甲の関節は中指くらいしか出てこないしさ…。
「……いいなぁ」
「………」
せめて手だけでも交換してくれないかな。
どうせこの骨太の長い指で、幾多の女をアンアン言わせてきたんだろうなあ。ちくしょう。腹が立つ。
だけどやっぱり、羨ましい。
「神田さんの手、好きです」
神田さんの長い中指をギュッと強く握りながら、そう呟けば……。
背後から俺を抱き締めている神田さんが、一瞬だけ息を呑んだような気がした。
「神田さん?」
「……俺も、好きだよ」
「………?ふぅん?本当に変わってますね、神田さんは」
変な人です、と付け足せば、後ろに居る彼は笑った。
「ああ、そうかもな」
その際に、吹き出した息が頬に掛かって、少しだけくすぐったいと感じた。
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