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本編その後(番外編)
にわか雨、そして豪雨
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本編の裏話/妹視点/兄妹の過去話
我が家は四人家族。
だけど両親は滅多に家に帰ってこない。もうかれこれ親の顔を二年も見てないような気がする。
まだ幼い頃、私は泣きながらお兄ちゃんに訊ねた。
「何でパパとママは帰って来ないの?」と。自分の家が他の家と比べておかしいのは当時の私すらも分かっていた。毎週月曜日に学校で聞く、『両親に何処に連れて行ってもらった』という自慢話を友達から聞くのがとても苦だった。
この寂しさや虚しさや苛立ちをぶつける相手など、私には一人しか居なかったのだ。唯一家に居てくれるお兄ちゃん。泣きじゃくるそんな私の背を小さい手の平で撫でながら、「すぐに帰ってくるよ。だからパパとママの仕事が早く終わるのを二人で願おうね。」とお兄ちゃんは慰めてくれた。
その時はその言葉を信じていたけれど、一日待てど二日待てど、…そして一週間待っても、両親は家に帰って来なかった。時々様子を見に来てくれたママのお姉さんが来てくれるだけ。
私はその時思った。「お兄ちゃんも嘘吐きだ!」と。
パパもママも最低。お兄ちゃんも最低。私のことを愛してくれる人などこの世に何処にも居ないのだと、当時小学2年生の私は消失感に嘆いていた。
ついにはパパとママはあの日から三週間経っても帰って来なかった。私はそこでパパとママが帰ってくることを諦めた。
そしてその次の日。
私は夜中に目が覚めた。一人でトイレまで行くのは怖かったけれど頼れる人などこの世に誰一人居ない。恐怖を感じながら部屋の扉を開けてトイレに行こうとしていたら、何故だかリビングの電気が点いていることに気が付いた。
もしかしたらパパとママが帰ってきてくれたのかも、と薄れ掛けていた淡い期待を抱きながら、こっそりドアを開けて中の様子を見てみれば、…エプロンを着て汚れたお皿を洗うお兄ちゃんが居た。
使った後のお皿などいつもそのままにしていた。
だけど次の日には何もなかったように綺麗になっていた。それが私の中では普通に思っていたのだ。誰かが、…お兄ちゃんが夜遅くまで洗ってくれていたのなんて、気付きもせずに。
私はどう対応すればいいのか分からず、そして現実をどう見つめていいのか分からず、とても頼りのなさそうなお兄ちゃんの小さい背中を見つめ続けた。
…するとその時、近くに雷が落ちた。
とても大きい音で、私はびっくりして腰を抜かし床に座り込む。どうやらお兄ちゃんも驚いたようで、持っていたお皿を床に落としてしまい、割れた皿を見つめながら放心している。しかしその割れた破片を片すことなく、何故だかお兄ちゃんは焦りながらこちらに向かってきた。
逃げなくちゃ!と本能がそう思ったけれど腰は抜けて動けない。お兄ちゃんは扉を開けて床に座り込んでいる私を見て更に驚いた顔をした。
「何故ここに居るのか」それを不思議に思っているのだろう。
しかしお兄ちゃんはその疑問を口に出すことなく、「大丈夫そうで良かった」と腰を抜かした私の頭を撫でながら笑顔を浮かべたのだ。
その言葉を聞いて、何故割れたお皿を片付ける前にお兄ちゃんがこちらに来たのかは、雷が落ちたことで私が怖がっていると思い、様子を見に行こうとしてくれたことが分かった。
私はそこでどれほどお兄ちゃんが私のことを大事に思ってくれているかを実感した。嬉しさと、そして今までお兄ちゃんのことを信じられなかった自分の醜さに私は泣いた。声を出して泣いた。
そんな醜く自分勝手な私を怒ることなく、お兄ちゃんは「もう大丈夫だから。お兄ちゃんが居るから」と何度も優しい言葉を掛けてくれるものだから、私はその夜ずっと泣き続けたのだった。
私の声は降り続ける豪雨で少しだけ掻き消されながら…。
私はその日から家事を覚えた。
手先は器用な方だったので特に苦労することなく、洗濯も食器洗いも料理も掃除も出来るようにまでなったのだ。
お兄ちゃんに楽をさせてあげたかったから。少しでもお兄ちゃんの役に立ちたかったから。
それから私はもう我侭を言わなくなった。
当時の事を思い出すと自分の不甲斐なさと自己中心的な性格に腹が立ってしまう。でも過去があったからこそ、今の私が居るのだと思うと過去にあった出来事も受け入れられる。
兄に抱いているのは感謝と愛情。
これが恋愛感情なのかと問われれば、……はっきりと答えられない。でも私は紛れもなくお兄ちゃんを愛している。大好き。
それは兄としてでも、一人の人としてでも。
この世で唯一私を愛してくれている人だもの。
……好きにならないはずがないでしょ?
END
我が家は四人家族。
だけど両親は滅多に家に帰ってこない。もうかれこれ親の顔を二年も見てないような気がする。
まだ幼い頃、私は泣きながらお兄ちゃんに訊ねた。
「何でパパとママは帰って来ないの?」と。自分の家が他の家と比べておかしいのは当時の私すらも分かっていた。毎週月曜日に学校で聞く、『両親に何処に連れて行ってもらった』という自慢話を友達から聞くのがとても苦だった。
この寂しさや虚しさや苛立ちをぶつける相手など、私には一人しか居なかったのだ。唯一家に居てくれるお兄ちゃん。泣きじゃくるそんな私の背を小さい手の平で撫でながら、「すぐに帰ってくるよ。だからパパとママの仕事が早く終わるのを二人で願おうね。」とお兄ちゃんは慰めてくれた。
その時はその言葉を信じていたけれど、一日待てど二日待てど、…そして一週間待っても、両親は家に帰って来なかった。時々様子を見に来てくれたママのお姉さんが来てくれるだけ。
私はその時思った。「お兄ちゃんも嘘吐きだ!」と。
パパもママも最低。お兄ちゃんも最低。私のことを愛してくれる人などこの世に何処にも居ないのだと、当時小学2年生の私は消失感に嘆いていた。
ついにはパパとママはあの日から三週間経っても帰って来なかった。私はそこでパパとママが帰ってくることを諦めた。
そしてその次の日。
私は夜中に目が覚めた。一人でトイレまで行くのは怖かったけれど頼れる人などこの世に誰一人居ない。恐怖を感じながら部屋の扉を開けてトイレに行こうとしていたら、何故だかリビングの電気が点いていることに気が付いた。
もしかしたらパパとママが帰ってきてくれたのかも、と薄れ掛けていた淡い期待を抱きながら、こっそりドアを開けて中の様子を見てみれば、…エプロンを着て汚れたお皿を洗うお兄ちゃんが居た。
使った後のお皿などいつもそのままにしていた。
だけど次の日には何もなかったように綺麗になっていた。それが私の中では普通に思っていたのだ。誰かが、…お兄ちゃんが夜遅くまで洗ってくれていたのなんて、気付きもせずに。
私はどう対応すればいいのか分からず、そして現実をどう見つめていいのか分からず、とても頼りのなさそうなお兄ちゃんの小さい背中を見つめ続けた。
…するとその時、近くに雷が落ちた。
とても大きい音で、私はびっくりして腰を抜かし床に座り込む。どうやらお兄ちゃんも驚いたようで、持っていたお皿を床に落としてしまい、割れた皿を見つめながら放心している。しかしその割れた破片を片すことなく、何故だかお兄ちゃんは焦りながらこちらに向かってきた。
逃げなくちゃ!と本能がそう思ったけれど腰は抜けて動けない。お兄ちゃんは扉を開けて床に座り込んでいる私を見て更に驚いた顔をした。
「何故ここに居るのか」それを不思議に思っているのだろう。
しかしお兄ちゃんはその疑問を口に出すことなく、「大丈夫そうで良かった」と腰を抜かした私の頭を撫でながら笑顔を浮かべたのだ。
その言葉を聞いて、何故割れたお皿を片付ける前にお兄ちゃんがこちらに来たのかは、雷が落ちたことで私が怖がっていると思い、様子を見に行こうとしてくれたことが分かった。
私はそこでどれほどお兄ちゃんが私のことを大事に思ってくれているかを実感した。嬉しさと、そして今までお兄ちゃんのことを信じられなかった自分の醜さに私は泣いた。声を出して泣いた。
そんな醜く自分勝手な私を怒ることなく、お兄ちゃんは「もう大丈夫だから。お兄ちゃんが居るから」と何度も優しい言葉を掛けてくれるものだから、私はその夜ずっと泣き続けたのだった。
私の声は降り続ける豪雨で少しだけ掻き消されながら…。
私はその日から家事を覚えた。
手先は器用な方だったので特に苦労することなく、洗濯も食器洗いも料理も掃除も出来るようにまでなったのだ。
お兄ちゃんに楽をさせてあげたかったから。少しでもお兄ちゃんの役に立ちたかったから。
それから私はもう我侭を言わなくなった。
当時の事を思い出すと自分の不甲斐なさと自己中心的な性格に腹が立ってしまう。でも過去があったからこそ、今の私が居るのだと思うと過去にあった出来事も受け入れられる。
兄に抱いているのは感謝と愛情。
これが恋愛感情なのかと問われれば、……はっきりと答えられない。でも私は紛れもなくお兄ちゃんを愛している。大好き。
それは兄としてでも、一人の人としてでも。
この世で唯一私を愛してくれている人だもの。
……好きにならないはずがないでしょ?
END
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