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3章婚約者9歳、王子12歳
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「……それが婚約者としての姿か」
「はい」
婚約者としての見目をこいつが気にすると考えた俺がバカだったのだろうか。
確かに守護騎士としての姿はない。制服は女用だし、包帯も巻いていないし、髪も白じゃない。というか見えない。
スアンの姿は顔どころか髪と口まで隠された紙袋へと変身していた。包帯、仮面、紙袋、どこまで顔を隠す気か。俺への配慮にしてもやりすぎではと俺ですら思う。婚約者の姿は紙袋……包帯とどちらが将来の王妃としてマシかつい思考したが、貴族も平民も国民全員が呆然とする未来が見える。
まあ紙袋なら王妃としての影武者が大量生産できるだろう。いらないが。
とはいえもはや王妃として仕事ができるならいい気もした。何にしても次期国王として妻も子も必要だ。我儘女で国が傾く可能性すら考えていたことを考えれば見た目を気にする方が馬鹿馬鹿しい。そう思うしかないなんて思ってはいない。でなければ、まるで俺の方が見目ばかり気にする嫌いな女になっているようではないか。思わず吐き気がした。
「まあいい、行くぞ」
「はい」
思考をかき消すようにして馬車で学園へと向かう。程なくして学園の門前に着けば、学園長自らのお出迎えが待っていた。
「よう……こそ?ハブルア学園へ……ここの、学園長をしております………?」
学園長が思わず二度見したのは俺の婚約者。まあ、わからなくもない。動揺してるのを見ればこちらが若干申し訳なくなるぐらいだ。取り合えず、制服を見て女と判断はしただろう。
だが、そうなるとそれは俺の婚約者である可能性が高い。実際不本意にも婚約者だが。ちなみに紙袋を被った変人とはいえ、婚約者の可能性が高くなるのは連れてくる従者は守護騎士と言ってあるからだ。
守護騎士スアンは男と思われているので、これが婚約者?という疑問で学園長は今混乱の渦だろう。
「出迎えごくろう。こちらは私の婚約者だ」
「お初お目にかかります。フィセード・セラント殿下の婚約者にしてアルノード公爵家の娘スフィア・アルノードと申します」
令嬢としての挨拶の仕方も様になっているというのに、いかんせん紙袋の存在が大きすぎて霞む。多少のミスは紙袋で補えそうなほどに。
取り合えず名前はスフィアだったか、今後はそう呼んでも……まあいいだろう。ある程度認めた今、また忘れても敵わない。
「えっと、では、案内しながら、その、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「構わない」
「何故アルノード令嬢は……いえ、えー、守護騎士スアン殿が来ると伺っていたのですが」
学園までの道のりを歩きながら、本来聞くべきことを忘れるほどにまだ混乱が残るのだろう。気持ちはわかる。
「私の婚約者は守護騎士スアンと師匠を同じにする妹弟子なので、護衛は大丈夫だと別行動をさせている。申し訳ないが、既にもう学園へ入っているから気にする必要はない」
既に門の中には入っているので嘘にはならない。
「が、学園に!?さ、さすがに侵入されるのは困ります!」
「侵入?手続きは済んでいるので問題はないはずだが」
「そ、そうでした・・・申し訳ございません。誰にも気づかれず入るとは噂に劣らず凄い方なんですね。学園の警備に穴があれば教えていただきたいものです」
「それも視野に入れている」
「ありがとうございます。それにしてもスアン殿の師匠を共にした妹弟子・・・え、妹弟子ですか」
思わず学園長が止まり、またスフィアを見る。学園に知らぬ間に入っていた驚きで先程はそちらに気がいっていたのだろう。
正直一年もスフィアの規格外を隠せる気もせず学園に来るまでに考えた案だ。婚約者とバラすにしても危険を減らすため、スアンの正体に気づかれるまでの間はスアンの妹弟子扱いということにした。
病弱設定はどこにいったとなるが、病弱な体を鍛えることで健康体になったとごり押しするしかない。スアンみたいな規格外を作れる誰も知らない師匠ならそれも可能そうだと納得できてもおかしくはない……はずだ。
まあそれはそれとして、学園長を見る限りこれならこのままスアンがスフィアであることに勘づくものはいなさそうだななんてことを思う。
勘づかれれば、それはそれでいいと考えもしたのだからどちらでも構わないと言えばそれまでなのだが。スアンだろうが、スアンの妹弟子だろうが、本人の強さは本物。ただ隠せた方が1年経った後にはなるが、婚約者が守護騎士だと思われず、下手に狙われずに済んで楽なのも事実。来るまでに考えていたように、バレるまでは隠す方向でいる。
「スアンには及びませんが、それなりに剣に覚えはあります」
本人が何を言っているんだかと思うが、妹弟子ならその回答が正解だろう。
「その、師匠も顔を隠しているのでしょうか」
「目に頼ってばかりでは限界が来るというのが師匠の教えです」
顔を隠したら目が見えないから鍛えたと言ってなかったか?スアンの時も包帯だが、どちらにしろ顔を隠しているだけに信憑性はあるだろう。スアンの師匠も顔を隠す変わり者とされそうだが。実際師匠が誰かは俺も知らないが、スフィアを見てきた限りではまともじゃない人だろうと推測している。
「なるほど、強さを求めるには視界をまず塞ぐ……学園の剣を学ぶ授業に取り入れましょうか」
やめろと言いたい。国民まで顔を隠し始めたらどうする気だと。ただでさえ、スアンに憧れて顔を隠す騎士が現れているというのに。とはいえ、隠される目は片目だけと中途半端だが。さすがにスフィアのように両目を隠して剣を振るうのは普通に難しいらしい。
それでも片目だけでも隠すことで死角が広がり、死角からの攻撃に対処する術を学べていると好評らしいが。国として強くなれることだからいいことではあるが、国民まで顔を隠し始めれば怪しいやつも国に入り放題になりそうだと頭が痛くなる。
まあ顔を隠しただけの生半可なやつならすぐ捕まりそうだが。
将来の王妃の心配より、国民が紙袋だらけにならない未来にするため俺自身努力しようとななめ上の決意を新たにした。
「はい」
婚約者としての見目をこいつが気にすると考えた俺がバカだったのだろうか。
確かに守護騎士としての姿はない。制服は女用だし、包帯も巻いていないし、髪も白じゃない。というか見えない。
スアンの姿は顔どころか髪と口まで隠された紙袋へと変身していた。包帯、仮面、紙袋、どこまで顔を隠す気か。俺への配慮にしてもやりすぎではと俺ですら思う。婚約者の姿は紙袋……包帯とどちらが将来の王妃としてマシかつい思考したが、貴族も平民も国民全員が呆然とする未来が見える。
まあ紙袋なら王妃としての影武者が大量生産できるだろう。いらないが。
とはいえもはや王妃として仕事ができるならいい気もした。何にしても次期国王として妻も子も必要だ。我儘女で国が傾く可能性すら考えていたことを考えれば見た目を気にする方が馬鹿馬鹿しい。そう思うしかないなんて思ってはいない。でなければ、まるで俺の方が見目ばかり気にする嫌いな女になっているようではないか。思わず吐き気がした。
「まあいい、行くぞ」
「はい」
思考をかき消すようにして馬車で学園へと向かう。程なくして学園の門前に着けば、学園長自らのお出迎えが待っていた。
「よう……こそ?ハブルア学園へ……ここの、学園長をしております………?」
学園長が思わず二度見したのは俺の婚約者。まあ、わからなくもない。動揺してるのを見ればこちらが若干申し訳なくなるぐらいだ。取り合えず、制服を見て女と判断はしただろう。
だが、そうなるとそれは俺の婚約者である可能性が高い。実際不本意にも婚約者だが。ちなみに紙袋を被った変人とはいえ、婚約者の可能性が高くなるのは連れてくる従者は守護騎士と言ってあるからだ。
守護騎士スアンは男と思われているので、これが婚約者?という疑問で学園長は今混乱の渦だろう。
「出迎えごくろう。こちらは私の婚約者だ」
「お初お目にかかります。フィセード・セラント殿下の婚約者にしてアルノード公爵家の娘スフィア・アルノードと申します」
令嬢としての挨拶の仕方も様になっているというのに、いかんせん紙袋の存在が大きすぎて霞む。多少のミスは紙袋で補えそうなほどに。
取り合えず名前はスフィアだったか、今後はそう呼んでも……まあいいだろう。ある程度認めた今、また忘れても敵わない。
「えっと、では、案内しながら、その、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「構わない」
「何故アルノード令嬢は……いえ、えー、守護騎士スアン殿が来ると伺っていたのですが」
学園までの道のりを歩きながら、本来聞くべきことを忘れるほどにまだ混乱が残るのだろう。気持ちはわかる。
「私の婚約者は守護騎士スアンと師匠を同じにする妹弟子なので、護衛は大丈夫だと別行動をさせている。申し訳ないが、既にもう学園へ入っているから気にする必要はない」
既に門の中には入っているので嘘にはならない。
「が、学園に!?さ、さすがに侵入されるのは困ります!」
「侵入?手続きは済んでいるので問題はないはずだが」
「そ、そうでした・・・申し訳ございません。誰にも気づかれず入るとは噂に劣らず凄い方なんですね。学園の警備に穴があれば教えていただきたいものです」
「それも視野に入れている」
「ありがとうございます。それにしてもスアン殿の師匠を共にした妹弟子・・・え、妹弟子ですか」
思わず学園長が止まり、またスフィアを見る。学園に知らぬ間に入っていた驚きで先程はそちらに気がいっていたのだろう。
正直一年もスフィアの規格外を隠せる気もせず学園に来るまでに考えた案だ。婚約者とバラすにしても危険を減らすため、スアンの正体に気づかれるまでの間はスアンの妹弟子扱いということにした。
病弱設定はどこにいったとなるが、病弱な体を鍛えることで健康体になったとごり押しするしかない。スアンみたいな規格外を作れる誰も知らない師匠ならそれも可能そうだと納得できてもおかしくはない……はずだ。
まあそれはそれとして、学園長を見る限りこれならこのままスアンがスフィアであることに勘づくものはいなさそうだななんてことを思う。
勘づかれれば、それはそれでいいと考えもしたのだからどちらでも構わないと言えばそれまでなのだが。スアンだろうが、スアンの妹弟子だろうが、本人の強さは本物。ただ隠せた方が1年経った後にはなるが、婚約者が守護騎士だと思われず、下手に狙われずに済んで楽なのも事実。来るまでに考えていたように、バレるまでは隠す方向でいる。
「スアンには及びませんが、それなりに剣に覚えはあります」
本人が何を言っているんだかと思うが、妹弟子ならその回答が正解だろう。
「その、師匠も顔を隠しているのでしょうか」
「目に頼ってばかりでは限界が来るというのが師匠の教えです」
顔を隠したら目が見えないから鍛えたと言ってなかったか?スアンの時も包帯だが、どちらにしろ顔を隠しているだけに信憑性はあるだろう。スアンの師匠も顔を隠す変わり者とされそうだが。実際師匠が誰かは俺も知らないが、スフィアを見てきた限りではまともじゃない人だろうと推測している。
「なるほど、強さを求めるには視界をまず塞ぐ……学園の剣を学ぶ授業に取り入れましょうか」
やめろと言いたい。国民まで顔を隠し始めたらどうする気だと。ただでさえ、スアンに憧れて顔を隠す騎士が現れているというのに。とはいえ、隠される目は片目だけと中途半端だが。さすがにスフィアのように両目を隠して剣を振るうのは普通に難しいらしい。
それでも片目だけでも隠すことで死角が広がり、死角からの攻撃に対処する術を学べていると好評らしいが。国として強くなれることだからいいことではあるが、国民まで顔を隠し始めれば怪しいやつも国に入り放題になりそうだと頭が痛くなる。
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