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3章婚約者9歳、王子12歳

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そんな決意をしながらも、既に学園の将来になんとも言えない気持ちになりつつようやく校舎へ辿り着く。授業中のため、廊下に生徒はいない。ちなみにこの学園の問題点は聞いておらず、それを知り、なんとかするのも王の素質を見定められる項目でもある。

問題点がわかりにくいものか、わかりやすいものかはその都度違うらしいが、今回はどうなるやら。

「校舎内は綺麗だな」

「それはもち……」

「いえ、殿下、少しばかり壁にもろい部分が」

「絶対に破壊するな」

学園長の言い掛けた言葉を聞かずして言ったスフィアに思わず詰め寄る。幼くも女。思わず詰め寄ったが、やはり俺はこれを女と認識してないようだ。スカートを履こうが、顔は紙袋のせいだろうか。

もういっそ俺のために、女は全員紙袋であれば俺は未知の生物たちと受け入れられるのではないかとすら思うが……ないな。これが増えたら増えたで紙袋嫌いになりそうだ。危うくつい先程の決意が揺るぎかけた。紙袋の罠には注意しなければ。

よくよく考えればたくさんの女と扮した紙袋たちが俺に媚を売りに集まる。恐怖さえしそうではないか。そう思うと揺らいだ決意は寧ろ強固となった。

「殿下、さすがに学園は破壊しません」

「城もするな。というか、視界が見えないのにどうやったらわかるんだ」

「勘です」

まさかの勘なのか。こいつなら何かしらあって言ってるものだと思ったが、勘で城が破壊されていくのか……。

「いやはや、アルノード令嬢は面白い方ですね。勘で学園を破壊とは……。さすがにスアン殿と師匠を共にする妹弟子とはいえ、か弱い女性には……」

ドガァアァァンと音と共に校舎の窓どころか壁が消え去った。一瞬頭が真っ白になった。初日からこいつは何をしてくれている。

「私は女性ではありません」

「も、申し訳ございませぇえぇぇん!」

学園長に恐怖が押し寄せたのか、いきなりの土下座での謝罪。いい年した老人近い大人がまだ10にも満たない子供に土下座で謝る光景に俺は何と言うべきか。

婚約者のせいで思う以上に王となるための試練の難易度があがった気がしてならない。

それにスフィア、その言葉は誤解を与えるからやめろ。恐らくそれが聞こえていないだろう学園長の今後はスフィアに平伏す未来しか浮かばない。それよりもさっきの音で授業中とはいえ、何かあったのかと人が来る可能性が高い。

案の定、この現状を説明せず逃げ出すわけにもいかず、ため息を吐く。今日から一年、俺と俺の婚約者が学園の生徒になることを知らぬ人物はいないと言えよう。婚約者が誰かと予測しか飛び交わない中、突然姿を現したスフィアの存在はより目立つに違いない。

紙袋を被っている時点で目立たない方がおかしいが。とにかく、目立つのは覚悟していたがこんな目立ち方は望んでいないし、破壊するなと言ったばかりでこの有り様。女を捨てさせた結果がこれなら俺の落ち度だろうかなんて思考も湧いた。

か弱くないなら女じゃないだろ?と言いたかっただけだろう、これは。か弱くない証明で学園を破壊するなと思う俺は間違っているだろうか。

「フィセード殿下だわ!」

「か、壁が!一体誰が!?」

「あの紙袋………女の子?ってか誰?」

「が、学園長!?」

早くも人が集まってきてしまった。もう何から驚くべきかとばかりに、人により驚きどころが違う。何にしてもこの状況をどうするべきか。まずは説明をと思えばまたもやスフィアが動いた。消えた壁の先から飛び降りたのだ。ちなみに校舎三階での出来事。学園長は土下座したまま青ざめた顔で、驚きどころに混乱している周囲も同じく顔を青ざめさせ、視線は瞬く間に誰もがスフィアへと向けた。

無事着地すれば誰もが安堵したような息を吐く。俺もさすがに驚いた。にしても急にどうしたというのか、誰もが疑問に思っていることだろう。

そういうことで次は何をする気だと思えば、ここからでは見えなくなり、誰もが沈黙したまま待つ。するとまた姿を現して、何か大きなものを抱えて戻ってきた。ここへ戻る際はきちんと階段を登り戻ってきたようで、それを見て俺に続く道を人だかりが当たり前のように開けた。何の指示もなく自然に。

そしてそれがさも当然のように幼い子供とはいえ、俺と3歳しか変わらない紙袋を被った俺の婚約者が堂々と歩いて来た。それも大人一人を抱えて。

「それは?」

「不法侵入者です。殿下の命を狙っていたので始末してきました」

守護騎士としての仕事をしてきたつもりだろうか。助かったが、こいつは今、婚約者としてここにいることを忘れていないだろうか。

「け、警備は何を!」

学園長が青ざめたまま立ち上がった。確かに学園の不法侵入どころか、次期国王とも言われる王位継承権を持つ俺を狙う刺客がいたとなればそうなるだろう。

「警備は気絶していました。随分な手練れですね」

なんて言いながら怪我ひとつないスフィアはさすがと言うべきか。誰もがスフィアに注目している。

「ありがとうございます!アルノード令嬢!さすがはスアン殿と師匠を共にした妹弟子ですね」

「スアンには及びません」

学園長の言葉にざわりと周囲が蠢く。アルノード公爵に反応してか、もしくはスアンと師匠を共にした妹弟子に対してか、はたまた両方か。もうなるようになれと言いたい。
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