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3章婚約者9歳、王子12歳

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あれから意外にも実技で俺に挑戦してきた者が何人かいた。ちらりと見た時、スフィアは女子たちを指導している様子が見られた。まあ大人の男でも敵わないスフィア相手に多少年上だろうと護身術程度にしか剣を習ってない女子に敵うはずもないのでその方が学べるだろう。護身術を超える教えになりそうだが。

なんて思っていたその日の翌日、教室まで登校すれば中等部の同じ学年だろう女子の集団が現れ、そのリーダー格だろう女子が俺ではなくスフィアに詰め寄った。

「スフィア様!ファンクラブの登録をお許しください」

「ファンクラブ………ですか」

驚くべきことスフィアに詰め寄ることでも、ファンクラブについてでもないだろう。女子の集団とは言ったが、わかるのは制服を見たからこそ。ファンというからにはスフィアに合わせたのだろう。女子らしきものたちが全員紙袋を被っている異様な光景が今目の前にある。スフィアだけならともかく、これだけの紙袋の集団がいれば夢にさえ出そうだ。

さすがに目まで隠して生活するには難しかったのか、目が見えるよう紙袋には二つの穴が見てとれた。ファンはともかく、そこまでするか?と言いたい。揃いの紙袋にファンたる執念を感じた。

「紙袋で素顔を隠されながらも隠せぬ凛々しさ!剣の振るいは教師にも負けぬ鋭さを秘め、指導たる姿には誰もが惚れ惚れとしましたわ!そして思ったのです!女は剣に生きる時代だと!」

目の前が紙袋を被った集団故に女と認識していない俺がいるのか、嫌いな女集団のはずなのに逃げる気にも女たちを罵倒する気にもならない。その集団の詰め寄る相手がスフィアだからというのもあるかもしれないが。

熱く語るその令嬢?を見る限りではスフィアのファンリーダーなのかもしれないが、声だけでは一体誰かわからない。顔を見てわかるかもわからないが……とりあえず後ろに続く紙袋女子はリーダーだろう言葉にうんうんと頷くだけ。

顔を隠すのが授業に取り入れそうにないことにほっとしていたというのに、紙袋人間が増えるとは思いもしなかった。紙袋に魅力される人物がいるとも思わなかったが。……しかもひとりじゃないことに恐ろしさすら感じる。

「……ファンクラブはお好きにしてください。ですが、あまり迷惑になるようならすぐ解散を申し出ます」

顔を見なくても声でスフィアが引いているのがわかる。気持ちはわかる。俺も内心引きまくりだ。

だが、お前のファンとしては正しい姿な気がしなくもない。スアンの時でさえ、包帯を巻いた騎士たちがいたのだから。とはいえ、それはどちらもスフィアには見えてはいないので、恐らく自分に向けられた勢いある言葉に引いたのだろう。見た目からして引く俺とは違って。

「それで構いません!さっそく申請してきますわ!こちらにお名前を!」

「はい」

それからは早く、スフィアに名前を書いてもらった集団たちはすぐに引いた。なんならクラスの女子は誰一人いなくなった。つまりあの紙袋の中にクラスの女子全員がいた可能性があるということ。

ちなみに教室にいた男子たちはしばらく固まっていた。まあ、わからなくもない。なんなら、授業は可能性が当たり、女子全員が紙袋を被っている姿にそれを知らなかったのだろう教師も固まった。

正直問題を探すどころか、初日も含めて問題を増やしている気がしてならない。まだ日はあるので焦ることがないにしても。

「殿下……問題点わかりましたか?」

「いや、まだだな」

寧ろ増えたという言葉は飲み込む。午前中に色々あったものの、無事昼食の時間へ。どうやらスフィアのファンクラブはただただ見守る姿勢らしい。スフィアの言葉の影響もあるだろうが、休憩の時間を邪魔しない点を見るに身を弁えているというべきか。

スフィアにまとわりつくようなことがあれば邪魔にしかならないとは思っていただけによかったと言えるだろう。とはいえ、食堂のどこを見てもちらほらと紙袋が見えることに関しては頭が痛い。それを知る同じ学年の中等部生徒以外と初等部がどう見てもちらちらと紙袋女子たちを気にしているのがわかる。

紙袋頭が気にならないわけがない。

しかしあれだけいるとあのときのリーダーらしき人物すらどれかわからない。

そんな異様な光景を食べることに集中してなんとか無視し、スフィアと話し合う。問題点は早くに見つけるほど、解決のための時間に余裕ができる分急いで見つけるに越したことはない。初日を除いてまだ学園生活二日目とはいえ、対策を講じる必要があるということだ。

「殿下、一ヶ月ほどお時間をいただけますか?」

「一ヶ月長いな………待てば問題は必ずわかるのか?」

「ええ、必ず問題を突き止めます。さらに言えば、問題を解決するために貢献もできるようにいたしましょう」

「俺が知らずに解決したのでは意味がないからな。報告は怠らないように。何か入り用なら言え」

「はい」

こう言うからには確かに何か策はあるのだろう。スフィアはやると言えばやるだろうが、不安なのも事実。何かとんでもないことを仕出かす気がしてならないが、任せてみることにした。

そんな会話の後、通りすがった掲示板を見て足を止めた。

『未来の王妃スフィア様のファンクラブ【紙袋の時代】に入りたい方は、ファンリーダールティナ・スーマン侯爵令嬢にお尋ねください。紙袋を進呈します。』

と大きく書かれたポスターがあったのだ。掲示板を見れないスフィアは何故止まったのかと首を傾げる姿を見せる。

色々言いたいことはあるがあのファンリーダー、侯爵だったのか。俺の中ではもはや特に理由もなくスフィアに詰め寄ったあの紙袋がリーダーだと認識している。にしてもスーマン家か。スーマン家は公爵家に限りなく近い貴族で有名だ。情報を買うならスーマン家と言うくらいに王家も負けるという情報屋でもある。

とんでもないのをファンにつけたなとスフィアを見た。本当にスーマン家の令嬢をファンとして味方につけたなら、意外に問題を知るのは一ヶ月も掛からない可能性もある。

まあ一度承諾したからには問題に関しては任せるつもりでその日は終わりを告げた。そんな俺は知らない。数日後、紙袋女子どころか、紙袋男子まで現れる日が来ることを。
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