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2章睡眠の偉大さを知りました
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「とても残念なことに私は意識を失う前の記憶が少しとんだようで、貴女の顔が思い出せません」
「私はなんてことを!」
初っぱなからまさかのまさか、実は一度目のネムリンとの記憶は殴られたことについての記憶はあるものの顔を忘れてしまっていたルーベルト。
ある意味二度目の出会いは一目惚れと言えよう。
「ネムリン、気を確かに。次の一文を聞くんだ」
「次の一文?」
「しかし、貴女の香りや身体は覚えている」
「…………」
どうにも変態臭い言い分にどうしていいかわからないネムリン。これは仕方ないと言えるだろう。
ルーベルトは何故か顔以外は声も支えた時の重さも、悲鳴をあげられる前にひそかに薫った一瞬の匂いも鮮明に覚えていた。何故かはわからないが覚えていたものは覚えていたのだ。
「支えた瞬間に薫ったほのかな甘い香りは疲れを癒すような香りでした」
「香水は好まないはずなんですが………」
貴族の嗜みとはいえ、香水に関してはつけるもつけないも自由であるためネムリンは好んでつけず、あの日にも香水はつけていなかった。つまりはネムリンのそのものの匂い、体臭がしたというわけだ。
(まさか遠回しに香水くらいつけろと申されているのでしょうか………?)
既にその言葉を変に捉え始めるネムリン。実際はルーベルトの記憶による本音である。
「支えた時の身体はまるで羽根のように軽く、持ち帰ってしまえばよかったと気絶して持ち帰れなかったことを後悔しております」
「え?ん?」
確かにネムリンは細身で一般の人より軽いだろう。だが、羽根のように軽く飛んでいってしまいそうだったという表現なら聞いた試しはあっても、持ち帰ってしまえばよかったなど聞いた試しはない。
それに気絶させたのはネムリンだ。令嬢ごときに気絶させられた醜態なんてものを晒してしまった後悔ならばわかったが、その後悔はなに?となるネムリン。ユールシーテもよくわからないとばかりに首を傾げ始めた。
「ここまで覚えていて肝心の婚約者となる貴女の顔を覚えられていない自分が許せません。きっと貴女は愛らしい顔をしているのでしょう」
この時点でルーベルトが女神フィルターを形成し始め、ネムリンの容姿を妄想し始めたのは言うまでもない。忘れたと言ってもどこかで曖昧には記憶があったのか、ネムリンが全くの別人の女神姿に妄想されることはなかったが。
「あ、愛らしい!?」
ここでネムリンが思ったのは顔がわからないから変に期待して婚約者を承諾したのではということだ。そして思い浮かべるのはルドルク王子。
さっさと婚約を進めるためにネムリンの容姿を偽ったのではと。ここでも不憫なルドルク。偽るどころかルーベルトがネムリンの顔を忘れているなんてことを知ってすらいない。
「しかし大事なのは顔ではありません。私は貴女が私のためにしてくださった覚悟に惚れました………覚悟とはなんだ?」
「何のことでしょう……?」
外面より内面。ルーベルトはよい言葉を言っているが、ルーベルトに対して見せた覚悟などネムリンに思い当たる節はない。婚活パーティーでルーベルトを寝かせる令嬢たちの列に並んだことを言うならばそれはネムリンだけではない。寧ろ一番に並んだ令嬢こそ誰より覚悟を見せたとも言える。
「わざと転けるように見せて私が近づくようにし、油断した私を殴ることで寝かせる令嬢は貴女以外にいないでしょう。己より上の立場にいる私を殴る覚悟は相当の恐怖と緊張をしたことだと思います。そんな勇気を見せてくれた貴女が思い出せない不甲斐ない私を信じていただけるかはわかりませんが、私は貴女を側に置きたい、迷わず婚約者と決定するほどに貴女しか私に相応しい相手はいないと思っています」
「それはそうでしょうけど!あ、婚約者に相応しいって意味じゃないですよ?仮にも公爵家の御方を物理的に寝かせようなんて思う令嬢いるわけないじゃないですか!私はわざと転けたわけでも殴ったわけでもありません!それに、それがなんで私を婚約者にしたいに繋がるのか全然わかりませんっ」
「私に言われてもね………」
こればかりはどうフォローすべきかユールシーテも迷う。ルーベルトは本気で寝かせるためにネムリンが物理的に覚悟してやったと思っているのか、もしくはそう言って混乱するだろうネムリンを想像して楽しむような人物だったのだろうかと色々浮かんでなんとも言えない。
(娘のおかげで気絶してよく眠れたから好意的になった………なんて、さすがに不眠症と周りに知れ渡るラヴィン公爵様がいくら不眠で悩んでいたとしてもそれはないか)
と考えるのはユールシーテ。まさかルーベルトがネムリンを女神と言うほどにまで一時的とはいえ深く眠れたことに感謝し、崇拝しているとは思うまい。
一文一文何も言わずにはいられない手紙はまだまだ続いたが、とりあえずネムリンを想う気持ちが綴られていたのは言うまでもない。もうそれは嫌がらせかと最終的に判断するほどに。
「私はなんてことを!」
初っぱなからまさかのまさか、実は一度目のネムリンとの記憶は殴られたことについての記憶はあるものの顔を忘れてしまっていたルーベルト。
ある意味二度目の出会いは一目惚れと言えよう。
「ネムリン、気を確かに。次の一文を聞くんだ」
「次の一文?」
「しかし、貴女の香りや身体は覚えている」
「…………」
どうにも変態臭い言い分にどうしていいかわからないネムリン。これは仕方ないと言えるだろう。
ルーベルトは何故か顔以外は声も支えた時の重さも、悲鳴をあげられる前にひそかに薫った一瞬の匂いも鮮明に覚えていた。何故かはわからないが覚えていたものは覚えていたのだ。
「支えた瞬間に薫ったほのかな甘い香りは疲れを癒すような香りでした」
「香水は好まないはずなんですが………」
貴族の嗜みとはいえ、香水に関してはつけるもつけないも自由であるためネムリンは好んでつけず、あの日にも香水はつけていなかった。つまりはネムリンのそのものの匂い、体臭がしたというわけだ。
(まさか遠回しに香水くらいつけろと申されているのでしょうか………?)
既にその言葉を変に捉え始めるネムリン。実際はルーベルトの記憶による本音である。
「支えた時の身体はまるで羽根のように軽く、持ち帰ってしまえばよかったと気絶して持ち帰れなかったことを後悔しております」
「え?ん?」
確かにネムリンは細身で一般の人より軽いだろう。だが、羽根のように軽く飛んでいってしまいそうだったという表現なら聞いた試しはあっても、持ち帰ってしまえばよかったなど聞いた試しはない。
それに気絶させたのはネムリンだ。令嬢ごときに気絶させられた醜態なんてものを晒してしまった後悔ならばわかったが、その後悔はなに?となるネムリン。ユールシーテもよくわからないとばかりに首を傾げ始めた。
「ここまで覚えていて肝心の婚約者となる貴女の顔を覚えられていない自分が許せません。きっと貴女は愛らしい顔をしているのでしょう」
この時点でルーベルトが女神フィルターを形成し始め、ネムリンの容姿を妄想し始めたのは言うまでもない。忘れたと言ってもどこかで曖昧には記憶があったのか、ネムリンが全くの別人の女神姿に妄想されることはなかったが。
「あ、愛らしい!?」
ここでネムリンが思ったのは顔がわからないから変に期待して婚約者を承諾したのではということだ。そして思い浮かべるのはルドルク王子。
さっさと婚約を進めるためにネムリンの容姿を偽ったのではと。ここでも不憫なルドルク。偽るどころかルーベルトがネムリンの顔を忘れているなんてことを知ってすらいない。
「しかし大事なのは顔ではありません。私は貴女が私のためにしてくださった覚悟に惚れました………覚悟とはなんだ?」
「何のことでしょう……?」
外面より内面。ルーベルトはよい言葉を言っているが、ルーベルトに対して見せた覚悟などネムリンに思い当たる節はない。婚活パーティーでルーベルトを寝かせる令嬢たちの列に並んだことを言うならばそれはネムリンだけではない。寧ろ一番に並んだ令嬢こそ誰より覚悟を見せたとも言える。
「わざと転けるように見せて私が近づくようにし、油断した私を殴ることで寝かせる令嬢は貴女以外にいないでしょう。己より上の立場にいる私を殴る覚悟は相当の恐怖と緊張をしたことだと思います。そんな勇気を見せてくれた貴女が思い出せない不甲斐ない私を信じていただけるかはわかりませんが、私は貴女を側に置きたい、迷わず婚約者と決定するほどに貴女しか私に相応しい相手はいないと思っています」
「それはそうでしょうけど!あ、婚約者に相応しいって意味じゃないですよ?仮にも公爵家の御方を物理的に寝かせようなんて思う令嬢いるわけないじゃないですか!私はわざと転けたわけでも殴ったわけでもありません!それに、それがなんで私を婚約者にしたいに繋がるのか全然わかりませんっ」
「私に言われてもね………」
こればかりはどうフォローすべきかユールシーテも迷う。ルーベルトは本気で寝かせるためにネムリンが物理的に覚悟してやったと思っているのか、もしくはそう言って混乱するだろうネムリンを想像して楽しむような人物だったのだろうかと色々浮かんでなんとも言えない。
(娘のおかげで気絶してよく眠れたから好意的になった………なんて、さすがに不眠症と周りに知れ渡るラヴィン公爵様がいくら不眠で悩んでいたとしてもそれはないか)
と考えるのはユールシーテ。まさかルーベルトがネムリンを女神と言うほどにまで一時的とはいえ深く眠れたことに感謝し、崇拝しているとは思うまい。
一文一文何も言わずにはいられない手紙はまだまだ続いたが、とりあえずネムリンを想う気持ちが綴られていたのは言うまでもない。もうそれは嫌がらせかと最終的に判断するほどに。
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