16 / 109
1章(真面目版)悪役令嬢の秘密
9~ティア視点~
しおりを挟む
『父上からレヴェリーと婚約を解消するよう言われた』
ロイエ様が学園を休んで戻ってきて聞いた話に私はホープ様の苦しむ姿が頭に浮かんだ。
婚約の解消………言葉にするのは簡単でもいざするとなると難しいのではと思っていた。だからこそホープ様の思う通りに進んでいる現実に私がロイエ様と別れて向かった先は誰も来ず、花ひとつない土の地面と建物の影で暗い雰囲気のある校舎裏。
そこには真っ青な顔で口の端から血を流す座り込んだホープ様の姿。何故まだ生きているのか不思議なくらいに顔に血の気がない。
残り少ない学園を卒業できるのかも怪しいほどだ。
「てぃ、あ………さま?」
息絶え絶えで立つことすらままならないホープ様が私を見上げる。地面は血だらけで他のご貴族さまが見れば失神することだろう。
「ロイエ様が、婚約を解消すると………聞きました」
こんな弱りきったホープ様に言うことではないと思う。だけど私はそんな時だからこそロイエ様からホープ様に切り出す前に言って聞きたいことがあった。
「そう、ようやく………もう、げんか……ごほっげほっ」
「ホープ様!」
慌ててホープ様の隣に座り背中を撫でる。地面の血だまりを改めて見て恐ろしくなる。一体どれだけの時間ここでひとり苦しんでいたのかと。
「はぁ、はぁ………ごほっだい、じょうぶ」
「全然………全然大丈夫なんかじゃ!もうやめましょう!?ロイエ様に話せばわかってくださいます!なんでそうおひとりで死のうと思うんですか!」
病人に対して叫ぶなんて最悪だ。でも我慢ならなかった。ホープ様が自分を大切にしないことが。
「死ぬ、しか………ない、からです」
「違う、そうじゃありません!死ぬしかないからとかじゃなくて、なんで死ぬときまでひとりでいようとするんですか?なんで自分の気持ちを押し殺そうとするんですか?本当は婚約の解消なんて嫌な癖に!ロイエ様に誰よりも近くにいて………うっあ………っ」
ああ、違う。私はホープ様を追い詰めたいわけじゃないのに。怒鳴ってホープ様の症状がより悪くなったらどうするの?一番泣くべき人を泣かせず自分が泣いてどうするの?
なのに溢れ出す涙は止まらない。
こんな悲しい恋ってない。好きなのに嫌われようとして、結婚できるのにそれをなくそうとして、本当に………
「レヴェリー様は、バカだよ………っ」
「そうかも、しれません」
気がつけばホープ様の名を呼んでしまっていてでもそれを咎められることはなく、ふっと気のせいかホープ様が笑った気がした。その笑みは悲しげでもなくどこか嬉しそうな笑みで何故とより涙が増す。
「なんで、なんで………っ笑うのよぉ!」
怒ればいい、悲しいと泣けばいい、なのに彼女は笑う。何故、なんで?
「ロイエ様の………相手が、あなたでよかったと、そう思えたから………」
どこまでもロイエ様のことでいっぱいのホープ様に私は負けるしかなかった。きっと私がなんと言おうとホープ様は婚約の解消を受け入れ、ひそかに私たちが幸せであることを願ってくれるのだろう。
せめて友人になって支えられたならと思ったが、きっとそうなればホープ様はお優しいから余計に苦しむ。私がホープ様の友人になれば私は友人をひとり亡くすことになるのだから。
私はただの協力者。
切れば切れる縁の協力者。
ただひとりの協力者。
貴女の幸せを願う協力者。
何もできない………協力者。
そう自分に言い聞かせて気持ちを封印した。
何故人にはこんな厄介な感情が、気持ちがあるのか。弱々しく笑うホープ様を見て涙ながらに思った。
ロイエ様が学園を休んで戻ってきて聞いた話に私はホープ様の苦しむ姿が頭に浮かんだ。
婚約の解消………言葉にするのは簡単でもいざするとなると難しいのではと思っていた。だからこそホープ様の思う通りに進んでいる現実に私がロイエ様と別れて向かった先は誰も来ず、花ひとつない土の地面と建物の影で暗い雰囲気のある校舎裏。
そこには真っ青な顔で口の端から血を流す座り込んだホープ様の姿。何故まだ生きているのか不思議なくらいに顔に血の気がない。
残り少ない学園を卒業できるのかも怪しいほどだ。
「てぃ、あ………さま?」
息絶え絶えで立つことすらままならないホープ様が私を見上げる。地面は血だらけで他のご貴族さまが見れば失神することだろう。
「ロイエ様が、婚約を解消すると………聞きました」
こんな弱りきったホープ様に言うことではないと思う。だけど私はそんな時だからこそロイエ様からホープ様に切り出す前に言って聞きたいことがあった。
「そう、ようやく………もう、げんか……ごほっげほっ」
「ホープ様!」
慌ててホープ様の隣に座り背中を撫でる。地面の血だまりを改めて見て恐ろしくなる。一体どれだけの時間ここでひとり苦しんでいたのかと。
「はぁ、はぁ………ごほっだい、じょうぶ」
「全然………全然大丈夫なんかじゃ!もうやめましょう!?ロイエ様に話せばわかってくださいます!なんでそうおひとりで死のうと思うんですか!」
病人に対して叫ぶなんて最悪だ。でも我慢ならなかった。ホープ様が自分を大切にしないことが。
「死ぬ、しか………ない、からです」
「違う、そうじゃありません!死ぬしかないからとかじゃなくて、なんで死ぬときまでひとりでいようとするんですか?なんで自分の気持ちを押し殺そうとするんですか?本当は婚約の解消なんて嫌な癖に!ロイエ様に誰よりも近くにいて………うっあ………っ」
ああ、違う。私はホープ様を追い詰めたいわけじゃないのに。怒鳴ってホープ様の症状がより悪くなったらどうするの?一番泣くべき人を泣かせず自分が泣いてどうするの?
なのに溢れ出す涙は止まらない。
こんな悲しい恋ってない。好きなのに嫌われようとして、結婚できるのにそれをなくそうとして、本当に………
「レヴェリー様は、バカだよ………っ」
「そうかも、しれません」
気がつけばホープ様の名を呼んでしまっていてでもそれを咎められることはなく、ふっと気のせいかホープ様が笑った気がした。その笑みは悲しげでもなくどこか嬉しそうな笑みで何故とより涙が増す。
「なんで、なんで………っ笑うのよぉ!」
怒ればいい、悲しいと泣けばいい、なのに彼女は笑う。何故、なんで?
「ロイエ様の………相手が、あなたでよかったと、そう思えたから………」
どこまでもロイエ様のことでいっぱいのホープ様に私は負けるしかなかった。きっと私がなんと言おうとホープ様は婚約の解消を受け入れ、ひそかに私たちが幸せであることを願ってくれるのだろう。
せめて友人になって支えられたならと思ったが、きっとそうなればホープ様はお優しいから余計に苦しむ。私がホープ様の友人になれば私は友人をひとり亡くすことになるのだから。
私はただの協力者。
切れば切れる縁の協力者。
ただひとりの協力者。
貴女の幸せを願う協力者。
何もできない………協力者。
そう自分に言い聞かせて気持ちを封印した。
何故人にはこんな厄介な感情が、気持ちがあるのか。弱々しく笑うホープ様を見て涙ながらに思った。
2
あなたにおすすめの小説
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる