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あれから大丈夫?大丈夫?と二人に凄く気を遣わせてしまったけれど、なんとか涙も止め、その日を最初に、死のうとする前とは変わって比較的心穏やかな日々が始まった。

オネエ様の刺繍を眺めながら、今まで離れていた分互いの会話をしたり、ウランがバシバシと容赦なくオネエ様に令嬢教育する姿に笑ったり………そんな感じでオネエ様とはうまくやれていたと思う。

でも、両親は別だった。オネエ様のように受け入れるには心が頑なに拒む。親を見ているとまるで自分が悪いようなそんな気にさせられて………。

だからだろうか?ウランが普段は両親を追い返してくれる。両親もウランには頭があがらなくなったようで渋々と追い出されてくれて、ほっとする毎日。だけど、毎回ウランがいるわけではない。

今日はついに、私とオネエ様しかいないときにやってきた。私がひとりにしないようにウランが配慮してくれた行動は嬉しい。でも、オネエ様がもし親の味方をどうしようと……少し震えた。両親は最初こそ美人になったオネエ様にぎょっとしていたけれど、今は慣れてきたのか受け入れている様子もあるし、元々オネエ様は両親を私にとられたと嫉妬して私を嫌っていたから。だからって家族内で味方とか敵とかそういう話ではないことぐらいわかっているけれど。

「あ、アラビアン……その、随分怪我の具合もよくなったと聞く……その、改めて本当にすまなかった」

「あのね、私たちよく話し合ったの。これからはアラビアンを昔のように愛情を注ごうって………本当にごめんなさい」

ウランが言ったのに母の謝罪は私の負担だと。私の言葉ではないから許されると考えてるのだろうか?謝られたら私はどうしたらいい?アラビアンの今までの気持ちを無視して許さなくてはならないの?私のためだったなら仕方ないって………仕方ないことなんだろうか?アラビアンはあんなに苦しんで死のうとしたぐらいなのに………。

「アラビアン」

「………っ」

オネエ様が私の名前を呼ぶ。オネエ様にまで許すように言われたら、私はどうしたらいいの?両親がオネエ様に期待してるのがわかる。ウラン、早く戻ってきて………そう強く願った時だった。

「大丈夫よ。許さなくていい。あれは貴女の優しさに期待する卑怯者よ。アラビアンが気にする必要はないわ。アタクシも人のことは言えないけれど。でも苦しんでる貴女を見るくらいならいくらだって言うわ」

オネエ様がそう言ってくれたのは。

「オネエ様……っオネエさまあぁ………っ」

「クラート………お前は……」

「何故なの………クラート、アラビアン………っ」

上半身だけ起き上がれるようになった身体を、抱き止めてくれるオネエ様に縋るように泣けば、よしよしとオネエ様の温かい手で頭を撫でられる。まるでオネエ様に守られているようで荒ぶった心が落ち着いていくのがわかった。父と母の言葉など無視できるぐらいには。

「パパン、ママン、アタクシはもうクラートじゃないの。それにね、許されれば昔のように戻れるなんて思ってる時点で、結局あなたたちは自分のことしか考えられてないのよ。アラビアンは今を生きているの!アラビアンに必要なのは死ぬのがもったいないと思うほどの今と未来の幸せよ!そこに自分のことばかり考えて、アラビアンの心を壊しかねないあなたたちは必要ないわ!」

オネエ様が叫ぶようにして両親に向けた言葉は、私を想う気持ちそのものだった。ウランみたいにオネエ様がまさか両親に向かって歯向かうなんて考えもしなかったから、私のためのオネエ様というものの覚悟が本当の意味で伝わってきた気がした。

「その通りです。私がいないからと随分となめた真似を………。いっそ、反省されているなら爵位をクララオジョウ様に差し上げては?お嬢様は残念ながら爵位を受け継ぐにはまだ勉強不足でしょうし………。今のクララオジョウ様であれば、必要な時いつでもその爵位をお嬢様にお渡しするでしょうから。旦那様、奥様よりよっぽどマシですしね」

そうしてこの幕は戻ってきたウランにより終息を迎えた。にっこりと笑いながら怒るウランによって、父がオネエ様に爵位を譲る手続きをするという宣言をし、母と共にそそくさと部屋を去ることで。

それを見て密かに思う。最近、ウランの方が、この家の主人に見えてきたのは気のせいだろうか?と。もういっそのことウランがこの家の爵位を譲渡された方が、なーんて……

「ウランに爵位を譲渡した方がいいんじゃないかしら………」

と思っていたらぼそりと私の頭を撫でる手を止めずにいるオネエ様が呟く。どうやらオネエ様も同じ考えだったようである。

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