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第五章 天は我に味方せり
怪しい雲行き
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しばらくは何事もなく学園生活が続いて。
山田の視線を感じることはあっても、直接話したりすることは一度もなかった。
今日も平和に授業が終わって、今は未希と一緒に貸し出しサロンでおしゃべりしてるところ。
くしゃみが出そうになってすっと指を伸ばした。人差し指の爪先に意識を集中させる。
魔力がたまったベストタイミングで、遠くに置かれたティッシュをシュっと一枚引き寄せた。
見て、この洗練された無駄のない動き。
ティッシュ引き抜き大会があったら、結構上位を狙えるんじゃない?
「そういや華子、魔法実技の次の試験、何にするかもう決めた?」
「わたしにティッシュ引き寄せる以外に選択肢があると思ってるの?」
「芸がないわね。少しは進歩したとこ見せないと、下手したら単位落として留年ってこともあり得るわよ?」
魔法学の先生、ちょっと厳しいんだよね。フランク学園自体、公爵家の権威とか使うの校則違反だし。
うう、留年だけは絶対にイヤだっ。イケメン探しが遠のいちゃうっ。
「引き寄せられるなら、魔法でゴミ箱にも入れられるんじゃない?」
「引っ張るんじゃなくて投げるのか……ちょっとやってみる」
丸めたティッシュを手に乗せて、集中して魔力をこめる。手のひらから飛び出すと、放物線を描いてティッシュはポトンと床へと落ちた。
「おお、動かせた」
「まずは飛距離を伸ばす必要がありそうね」
屋敷の中じゃメイド任せでゴミ捨てなんかしたことないけど。
試験のためならここはひとつ練習してみるか。
「そういう未希は何するつもりなの?」
「植物の成長促進の魔法か、枯れた花を復活させる魔法か、どっちにしようか迷ってる」
なにソレ、いやみっ。
ってか、レベチのマウント、超ムカつくんですけどっ。
そんなこんなで未希と別れ、帰りは健太と一緒の馬車で。
以前は別々に帰ってたけど、山田のキス事件以来ずっと気にかけてくれてるんだ。
「姉上、今日も特に何ごともなかった?」
「ええ、シュン様はお見かけたけしたれど、話かけられはしなかったから……」
「それならよかった」
御者に会話が届くといけないので、馬車では念のため貴族モードで話をしてる。
この使い分け、地味にメンドウって感じ。うっかり外で素を出さないように気をつけないと。
「そういえばケンタ、ユイナはまだ……?」
「うん、まだ拘束されてるみたい」
「そう……早く疑いが晴れるといいわね」
ゲームの世界線から外れすぎて、ここからどう転ぶか予測もできない。
万が一ユイナがギロチン行きとかなったら、それはそれで目覚めが悪すぎるし。
(長谷川のことは好きになれないけど、さすがに死刑は可哀そうよね)
ヒロインとして転生して、長谷川もこりゃないよって思ってるんだろうな。せっかくチート持って生まれたんだから、もっと上手く立ち回ればよかったのにさ。
思えばユイナの行動ってとんちんかんなことばっかだったよね。前世でも勉強はできなそうだったけど、打算とか損得勘定は誰よりも抜きん出てたってのに。
「姉上、そのことなんだけどさ……」
物憂げな表情のケンタが、手を添えて耳に顔を寄せてくる。
この年で弟と内緒話とか、なんか逆に新鮮なんですけど。
「ユイナの嫌疑が実は俺と姉上にも波及してて……」
「えっ」
大声が出そうになって、あわてて口元を手で隠した。
「それってどういうこと?」
「夏休みに姉上が城に呼ばれたことあっただろ? その帰りに魔力切れのユイナを家に連れて帰ってきたの覚えてる?」
ああ、そんなこともあったっけ。
走る馬車の前に、いきなりユイナが転移魔法で現れたんだよね。
「あの日、ユイナのヤツ、城に不法侵入してたらしいんだ」
「不法侵入? ユイナがお城に?」
「うん。それで警備の兵に追われて逃げているところを、姉上に助けられたって感じみたくて」
な、なんですと?
ユイナ、ヒロインのくせして何やらかしてるんだっ。
「それでわたくしたちに共犯の疑いが……?」
「でも心配しないで。俺が事情聴取受けて、誤解だってことは分かってもらえたから」
「本当? ケンタの将来に傷ついたりしてない?」
わたしがユイナを連れて帰ったばっかりに、健太まで巻き込んでたなら申し訳なさすぎる。
「それは大丈夫。ほら、俺ってさ、夏休みの間ユイナのことずっと見張ってたじゃない?」
あ、クソ暑い中、イチャつきイベントをひとり寂しくのぞき見してたヤツね。
「ユイナが魅了の魔法を使った嫌疑をかけられているのは知ってたからさ、それを逆手に取ってみた」
「逆手に? って、どういうこと?」
「自分もユイナに変な魔法使われているじゃないかって疑って、その件で独自に調べてたって言ったらさ、あっさりソレを信じてくれたって感じ」
「あ……ゲームの強制力が働いてるなんて、そんなこと説明できないものね」
ほっとして息をついた。
「ならよかったわ。でもわたくしは? 事情聴取とか受けなくてよかったのかしら?」
「そこはシュン王子が上手く動いてくれたみたい。姉上がユイナと接触するのは学園の中だけだったし。むしろ姉上の乗る馬車の前に転移して逃げ込んだのは、ユイナの策略だったんじゃないかって疑われてる」
「そうだったの……」
なんだかユイナの立場、ますますヤバくなってない?
「ねぇ、わたくしがヒロインイベントをこなした分、ユイナに悪役令嬢のイベントが回っていってる……なんてこと、ないわよね?」
「……どうだろう。悪役令嬢が拘束されるイベントなんて、ゲームにはなかったと思うんだけど」
わたしの風向きが変わってラッキーってよろこんでたら、今度はユイナの雲行きがあやしいんですけど。
まったくこの世界、一体ぜんたいどうなってんの!?
山田の視線を感じることはあっても、直接話したりすることは一度もなかった。
今日も平和に授業が終わって、今は未希と一緒に貸し出しサロンでおしゃべりしてるところ。
くしゃみが出そうになってすっと指を伸ばした。人差し指の爪先に意識を集中させる。
魔力がたまったベストタイミングで、遠くに置かれたティッシュをシュっと一枚引き寄せた。
見て、この洗練された無駄のない動き。
ティッシュ引き抜き大会があったら、結構上位を狙えるんじゃない?
「そういや華子、魔法実技の次の試験、何にするかもう決めた?」
「わたしにティッシュ引き寄せる以外に選択肢があると思ってるの?」
「芸がないわね。少しは進歩したとこ見せないと、下手したら単位落として留年ってこともあり得るわよ?」
魔法学の先生、ちょっと厳しいんだよね。フランク学園自体、公爵家の権威とか使うの校則違反だし。
うう、留年だけは絶対にイヤだっ。イケメン探しが遠のいちゃうっ。
「引き寄せられるなら、魔法でゴミ箱にも入れられるんじゃない?」
「引っ張るんじゃなくて投げるのか……ちょっとやってみる」
丸めたティッシュを手に乗せて、集中して魔力をこめる。手のひらから飛び出すと、放物線を描いてティッシュはポトンと床へと落ちた。
「おお、動かせた」
「まずは飛距離を伸ばす必要がありそうね」
屋敷の中じゃメイド任せでゴミ捨てなんかしたことないけど。
試験のためならここはひとつ練習してみるか。
「そういう未希は何するつもりなの?」
「植物の成長促進の魔法か、枯れた花を復活させる魔法か、どっちにしようか迷ってる」
なにソレ、いやみっ。
ってか、レベチのマウント、超ムカつくんですけどっ。
そんなこんなで未希と別れ、帰りは健太と一緒の馬車で。
以前は別々に帰ってたけど、山田のキス事件以来ずっと気にかけてくれてるんだ。
「姉上、今日も特に何ごともなかった?」
「ええ、シュン様はお見かけたけしたれど、話かけられはしなかったから……」
「それならよかった」
御者に会話が届くといけないので、馬車では念のため貴族モードで話をしてる。
この使い分け、地味にメンドウって感じ。うっかり外で素を出さないように気をつけないと。
「そういえばケンタ、ユイナはまだ……?」
「うん、まだ拘束されてるみたい」
「そう……早く疑いが晴れるといいわね」
ゲームの世界線から外れすぎて、ここからどう転ぶか予測もできない。
万が一ユイナがギロチン行きとかなったら、それはそれで目覚めが悪すぎるし。
(長谷川のことは好きになれないけど、さすがに死刑は可哀そうよね)
ヒロインとして転生して、長谷川もこりゃないよって思ってるんだろうな。せっかくチート持って生まれたんだから、もっと上手く立ち回ればよかったのにさ。
思えばユイナの行動ってとんちんかんなことばっかだったよね。前世でも勉強はできなそうだったけど、打算とか損得勘定は誰よりも抜きん出てたってのに。
「姉上、そのことなんだけどさ……」
物憂げな表情のケンタが、手を添えて耳に顔を寄せてくる。
この年で弟と内緒話とか、なんか逆に新鮮なんですけど。
「ユイナの嫌疑が実は俺と姉上にも波及してて……」
「えっ」
大声が出そうになって、あわてて口元を手で隠した。
「それってどういうこと?」
「夏休みに姉上が城に呼ばれたことあっただろ? その帰りに魔力切れのユイナを家に連れて帰ってきたの覚えてる?」
ああ、そんなこともあったっけ。
走る馬車の前に、いきなりユイナが転移魔法で現れたんだよね。
「あの日、ユイナのヤツ、城に不法侵入してたらしいんだ」
「不法侵入? ユイナがお城に?」
「うん。それで警備の兵に追われて逃げているところを、姉上に助けられたって感じみたくて」
な、なんですと?
ユイナ、ヒロインのくせして何やらかしてるんだっ。
「それでわたくしたちに共犯の疑いが……?」
「でも心配しないで。俺が事情聴取受けて、誤解だってことは分かってもらえたから」
「本当? ケンタの将来に傷ついたりしてない?」
わたしがユイナを連れて帰ったばっかりに、健太まで巻き込んでたなら申し訳なさすぎる。
「それは大丈夫。ほら、俺ってさ、夏休みの間ユイナのことずっと見張ってたじゃない?」
あ、クソ暑い中、イチャつきイベントをひとり寂しくのぞき見してたヤツね。
「ユイナが魅了の魔法を使った嫌疑をかけられているのは知ってたからさ、それを逆手に取ってみた」
「逆手に? って、どういうこと?」
「自分もユイナに変な魔法使われているじゃないかって疑って、その件で独自に調べてたって言ったらさ、あっさりソレを信じてくれたって感じ」
「あ……ゲームの強制力が働いてるなんて、そんなこと説明できないものね」
ほっとして息をついた。
「ならよかったわ。でもわたくしは? 事情聴取とか受けなくてよかったのかしら?」
「そこはシュン王子が上手く動いてくれたみたい。姉上がユイナと接触するのは学園の中だけだったし。むしろ姉上の乗る馬車の前に転移して逃げ込んだのは、ユイナの策略だったんじゃないかって疑われてる」
「そうだったの……」
なんだかユイナの立場、ますますヤバくなってない?
「ねぇ、わたくしがヒロインイベントをこなした分、ユイナに悪役令嬢のイベントが回っていってる……なんてこと、ないわよね?」
「……どうだろう。悪役令嬢が拘束されるイベントなんて、ゲームにはなかったと思うんだけど」
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