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第4章 宿命の王女と身代わりの託宣

第20話 龍の花嫁

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【前回のあらすじ】
 王城からフーゲンベルク家に帰る前日、ハインリヒ王が突然リーゼロッテの元を訪れます。
 クリスティーナ王女が亡くなり夢見の巫女が不在となった今、神殿から不満の声が上がっていると説明されるリーゼロッテ。新たな巫女が見つかるまでの間、聖女を守護者に持つリーゼロッテに、その役目を担ってほしいと頼まれて。
 救国の聖女として神官たちの憧れのまなざしを受ける中、神事に臨んだリーゼロッテは泉の中で眠ってしまいます。
 そこに現れたのは盲目の神官レミュリオ。リーゼロッテは自分の花嫁だと不穏な言葉をつぶやくのでした。






『ねぇ、ヴァルト。そんなに不服なら無理やりにでも連れ帰ればよかったのに』

 神事の終わりを待つ廊下で、守護者ジークハルトがのんびりと言った。王城に来るといつも気ままに姿を消すというのに、今日はめずらしくそばで浮いている。

『今回は王命でもなかったんだから、強く言えばリーゼロッテだって納得したと思うよ?』

 聞く耳を持たないよう努めても、思わず眉間にしわが寄る。神官たちが怯えるように距離を取り、ジークヴァルトの周囲だけ不自然に人がいなかった。

 そんな中ジークハルトはあぐらをかいた姿勢で、先ほどから体を左右に揺らしている。目障りに思えるが、反応してはヤツの思うつぼだ。苛立ちが伝わったのか、間近にいた神官が身をすくませた。じろりと見やると、さらに距離を開けられる。

『力が安定した今、異形がらみの問題はそうそう起きないだろうけどさ。ほら、リーゼロッテって自分で何をするわけでもないのに、とにかくトラブル巻き込まれ体質じゃない? さっさとヴァルトのものにしといた方が絶対にいいって』

 その言葉を無視して、リーゼロッテが入っていった扉に視線を向ける。祈りの泉へは夢見の巫女と、限られた神官しか立ち入れない決まりだ。中で何が行われているのか、把握できないことがもどかしい。

 ――彼女のすべてを知っていたい
 一日の行動も、どこで誰といたのかも、何が起きてどんな話をしたのかも、何もかも。

 リーゼロッテに関わることで、他人が知っていて自分が知らない何かがあるなどと、到底許せはしなかった。
 理屈も何も通用しない、あまりにも馬鹿げた感情だ。これは嫉妬や独占欲と呼ばれるものなのだと自覚はした。だが抑えようのないこの思いに、ジークヴァルト自身がいちばんに振り回されている。

(大丈夫だ。今日が終わればあの日々が帰ってくる)
 リーゼロッテのいる日常が――

 言い聞かせるように思い、眉根を寄せる。それは同時に本能と理性の闘いでもあった。離れていた分だけよこしまな思いが膨らんでいる今、彼女を守れるのはやはりこの己だけなのだ。
 婚姻前に無理強いをして、リーゼロッテを傷つけることだけはあってはならない。あの笑顔を守るために、自分は彼女のそばにいるのだから。

『ねぇヴァルトってば、ちゃんと聞いてる?』

 思考にふけっている間も、ジークハルトがなんやかんやと言い続けている。すべて無視を決め込んで、ジークヴァルトは仏頂面のままたたずんでいた。

 そろそろ終わる頃合いとなり、出待ちの神官たちがそわそわとし始める。しかし待てども神事の扉はなかなか開かれなかった。

『もたもたしてると、そのうち本当に後悔するよ? 前にも忠告したけどさ、異形の者より人間の方がよっぽどたち悪いんだっ……ていうか、もう遅いか』

 閉ざされた扉を見やりながら、最後だけジークハルトはぽつりと言った。はっとなり、扉を乱暴に開け放つ。
 慌てた周囲の制止をものともせず、ジークヴァルトは中へ足を踏み入れた。奥に開かれた古びた扉が見えて、迷いなくそこへと駆け込んでいく。

 丸い泉のある部屋には、神官長ともうひとり神官がいた。見回すもリーゼロッテの姿はない。この空間には彼女の力が満ちている。確かにここにいたのだと、それだけは分かった。

「神事は終わったのだろう? リーゼロッテはどうした?」
「リーゼロッテ・ダーミッシュ様……いえ、リーゼロッテ・ラウエンシュタイン様は、青龍がお隠しになられました」
「青龍が……? 一体どういうことだ」

 神官長の胸倉を掴んで半ば持ち上げる。ひるむ様子もなく神官長は静かな瞳を向けてきた。

「神事が終わり、先ほどこの部屋へとお迎えに上がりましたが、その時にはすでにお姿が消えておられました。リーゼロッテ様は神隠しに合われたのでしょう」
戯言ざれごとを……! 命が惜しかったら本当のことを言え、リーゼロッテをどこにやった!」
「この祈りの泉へはあの扉からしか出入りはできません。これはもう青龍の意思としか」
「ふざけるな!」

 締め上げた神官長の肩越しにもうひとつの扉が見えた。石造りの壁に巧妙に隠されているが、あれは王城のいたるところにある隠し扉だ。
 投げ捨てるように神官長から手を離すと、ジークヴァルトは奥の壁際へと向かった。龍のレリーフを見つけ、そこへと力を流し込む。青い力がほのかに光るも隠し扉は開かなかった。

「無駄ですよ。その扉が開かれた記録は、建国以来一度もない」
 背後から馬鹿にしたような声がかけられた。神官長の横にいた神官、ヨーゼフだ。

「その扉は神の扉。開けることができるのは青龍のみです。龍のたてごときのあなたの力で開くはずもない」

 こういった隠し扉は、王城や神殿の要所要所に存在している。場所によってひらける人間は決まっており、王にしか開けられない扉もあれば、神官にしか開けられないものもある。
 フーゲンベルク家にもそういった扉は存在しているため、そんなことは百も承知だ。しかしジークヴァルトは苛立ちながら、何度も何度も力を注ぎ続けた。

「諦めの悪いお方だ。いや、頭がお悪いのかな? 閉ざされたこの部屋から聖女は消えたのですから、確かにその扉が開かれたのやもしれません。もしそうであるのなら、それはやはり青龍の意思。こんな簡単なことも分からないとは」

 やれやれといったふうに首を振ったあとも、ヨーゼフは得意げにしゃべり続けている。それを背で聞きながら、ジークヴァルトはこの扉の向こうに、リーゼロッテの力の残りを感じ取っていた。

「聖域をけがれた力で汚すなど言語道断。即刻ここから出て行きなさい。聖女は龍の花嫁となったのです。この栄誉をよろこばずして見当違いのいきどおりをぶつけるとは、気がおかしいとしか思えな……ひぃっ」
「貴様、それ以上言えば二度と口をきけないようにしてやるぞ」

 苛立ちが最高潮に達し、ジークヴァルトはヨーゼフの襟元を掴んで締め上げた。ヨーゼフの顔が真っ青に変化していく。

「うっ……ぐ、ぐるじぃ……っ」

 半ば浮き上がった足先がぷらぷらと力なく揺れる。白目をむいて泡を吹く寸前のヨーゼフを、さらに高く持ち上げていく。

「やめるんだ、副隊長!」

 飛び込んできたキュプカー隊長が、背後から羽交い締めにしてくる。解放されたヨーゼフが勢いで床に投げ出された。

「がっ……はっ、なんとも野蛮な……!」
 四つん這いで息を求めながら、ヨーゼフはジークヴァルトに向けて悪態をついた。睨み返すと、這ったまま神官長の後ろへと逃げ込んでいく。

「副隊長、控えろ。王前おうぜんだ」

 キュプカーの冷静な声に顔を上げた。そこに立つのはハインリヒ王だった。タイミングを見計らったように現れたハインリヒに、ジークヴァルトは不審に満ちた視線を向ける。

「お前、まさか……こうなると知っていたのか……?」

 遠くを見据える瞳のまま、ハインリヒは答えを返さない。そこに肯定をみ取って、ジークヴァルトは王に向かって掴みかかろうとした。

「副隊長!!」
「離せ!」

 すかさずキュプカーに取り押さえられる。振りほどこうとするも、数人の騎士がそれに加わり、床へと膝をつかされた。動じた様子も見せずに、ハインリヒは神官長に向き直った。

「夢見の神事に関しては神殿の管轄かんかつだ。この件に関する調査はすべて神官長、そなたに任せる」
しかと心得ました」

 王の言葉に神官長が頭を下げる。それを目の当たりにしたジークヴァルトから、低くうなるような声が発せられた。

「……リーゼロッテを見捨てるつもりか」
「ダーミッシュ伯爵令嬢はまだ託宣を終えていない。時期が来ればいずれそなたのもとに戻って来よう。フーゲンベルク公爵、それまでは領地での謹慎きんしんを申し渡す。めいそむけば公爵家を取りつぶす。心しておけ」
「貴様……っ!」
こらえろ、副隊長」

 キュプカーの制止も耳に届かない。押さえる手を振りほどこうとするジークヴァルトは、本格的に騎士たちに押さえつけられた。床に這いつくばる姿を静かに見下ろしたあと、ハインリヒ王は悠然とこの場を去って行く。

「こんな危険人物、不敬罪にでも処せばいいものを……!」
「ヨーゼフ、公爵様は龍の託宣を受けたお方だ。それに新たに神託が降りた身でもある。そのように言うものでない」

 たしなめるような神官長の言葉に、ヨーゼフは不満顔で口をつぐんだ。その後ろ、廊下側の扉から、盲目の神官が入ってくる。

「おや? これは一体何事でしょうか?」
「レミュリオ、今までどこに行っていたのだ」
「申し訳ありません。戻る途中、貴族のご婦人方に足止めをされてしまいまして……」

 すまなそうなレミュリオに、神官長は仕方ないといった顔をした。

「何やら大捕おおともののようですが……あなたは確かジークヴァルト・フーゲンベルク様でいらっしゃいましたね」

 閉じた瞳のまま、レミュリオはジークヴァルトを見下げてうすく笑みをく。

「それはそうと、神事をお勤めになったご令嬢はどちらに……?」
「お前には後で詳しく話す」

 神官長は気を取り直すように、周囲を見回した。

「とにかくこれ以上、聖域をけがしてはなりません。騎士のみな様は早急にここから退出を願います」

 その一言でジークヴァルトは強制的に追い出され、神事の部屋は神官長の手により、固く閉ざされてしまった。

     ◇
 まどろみから目覚め、リーゼロッテは体を起こした。ぼんやりと辺りを見回す。見慣れない部屋に、一気に意識がはっきりとなった。
 簡素な寝台の上にいる自分は、神事の白い衣装を着たままだ。いつ運ばれたのかも記憶にない。泉で本当に眠りこけてしまったのだと、青ざめた顔になる。

「どうしよう……大事な役目だったのに……」

 聖女としてそれらしく振る舞うよう、ハインリヒ王から頼まれていた。神官たちにも呆れられたかもしれないと、リーゼロッテは慌てて寝台から下り立った。

「どなたかいらっしゃいませんか……?」

 しんと静まり返ったここには、自分以外誰もいなかった。それにとても小さな部屋だ。寝台と丸テーブルに一脚いっきゃくの椅子。置かれているのはそれだけで、あとは格子こうしのはめられた小窓があるだけだった。
 扉を見つけ、ノブを回した。鍵がかかっているのか開かない。

(内鍵がないわ……)

 ということは外から鍵を掛けてあるということだ。扉にはのぞき穴のような、ふたつきのわくがくり抜かれていた。監視をするためにつけられている。そんな印象をリーゼロッテは受けた。

「あの、どなたかいらっしゃいませんか……! ヴァルト様? わたくしはここですわ!」

 扉を叩き外へと呼びかける。ノブを回すがやはり扉が開くことはなかった。よく見ると、扉の下もくり抜かれている。人は通れないが物は差し入れられる。そんな微妙な大きさだ。
 あらためて部屋を見回すと、奥には簡易キッチンのような流しが見えた。まるでワンルームの間取りに思えて、次第に胸に不安がともっていく。

(もしかして、閉じ込められてる……?)

 窓に駆け寄り外を確かめた。雪にうずもれた針葉樹の森が、そこにはどこまでも広がっていた。

「ここはどこなの……」

 王城の整えられた庭にはほど遠い景色を見つめ、茫然としたつぶやきが漏れて出る。その時、かねの音が遠くに響き、リーゼロッテは窓の格子に手をかけた。

「……あの音は」

 王城に隣接された本神殿で鳴らされる、クリスティーナ王女のためのとむらいの鐘だ。あの音が聞こえるということは、ここは王城からそう離れた場所ではないのだろう。
 閉じ込められたというのは、自分の勘違いかもしれない。だがそんな思いはすぐに打ち砕かれた。

「聖女様、お目覚めになられましたか?」

 しゃがれた男の声がして、びくりと身を震わせる。振り向くと、扉のくり抜かれた小窓から、誰かが中を覗き込んでいた。白い頭巾ずきんをかぶり、ぎょろりとした目だけがこちらを見やっている。

「あの……ごめんなさい、わたくし泉で眠ってしまったみたいで。でも神事は終わったのでしょう? だったらもうジークヴァルト様のところに戻りたいのだけれど」

 近づくのはなんだか怖くて、リーゼロッテは遠まきに声をかけた。不安にかられて早口でまくしたててしまう。

「外から鍵がかかっているみたいですから、そちらから扉を開けていただけませんか? それが無理なら、黒い騎士服を着た方がいらしたでしょう? その方を今すぐ呼んできてほしいです」
「聖女様は青龍の花嫁となるお方。正式にお迎えが来るまで、どうぞこのままここでお過ごしください」
「え……?」

 聞き取りにくいしゃがれた声に、リーゼロッテは一瞬言葉を失った。男の目が枠から消えたかと思うと、扉の下から食事の乗った盆が押し込まれてくる。

 男が去る気配に、慌てて扉へと駆け寄った。小窓から覗くと、遠ざかる白い神官服の背が見えた。頭巾をかぶってはいるが、あの男は確かに神官なのだろう。

「青龍の花嫁? 一体どういうことなの……?」

 呆然としたまま、リーゼロッテはしばらくの間、その場に立ち尽くした。

     ◇
「ちょっとマテアス、リーゼロッテが消えたってどういうこと? ジークヴァルトも謹慎を命じられるだなんて、一体何がどうなったって言うのよ?」
「それはこちらが聞きたいくらいですよ」

 アデライーデは騎士として正式な任を受け、フーゲンベルク家に戻ってきた。謹慎を受けた公爵を見張るようにと、王命が下ったからだ。

 内容にまず驚いたが、そもそもジークヴァルトの姉であるアデライーデにやらせる任務ではなかった。身内が関わる事件では、どんなに優秀な騎士だろうと任務から外されるのが常識だ。そんなことを知らないハインリヒではないだろうに、なぜかアデライーデが指名を受けた。

「旦那様の話では、神事の最中にリーゼロッテ様がいなくなり、お探しするのをハインリヒ王がお止めになったそうです」
「何よそれ。ジークヴァルトは何をやってたの?」
「食ってかかった旦那様が、王に謹慎を食らったのですよ。めいそむけばフーゲンベルク家を取り潰すとまで言われては、旦那様も引き下がざるを得ないでしょう? わたしこそ騎士団は何をやっているのかと問いたいですね」

 冷たく言われ、アデライーデは言葉を詰まらせた。クリスティーナ王女の不可解な死についても、ハインリヒ王はうやむやに終わらせた。反発するバルバナスも、王の言葉とあっては表立って真相を探ることができないでいる。

「バルバナス様は今も水面下で動いているわ。わたしだってここに来るまで、その任に当たっていたんだから。バルバナス様のことだもの。リーゼロッテの件も神殿が絡んでいるなら、放置はしないはずよ」
「……だとすると、アデライーデ様も旦那様と同様、王にまんまと動きを封じられた形ですね」

 はっとしてマテアスの顔を見る。ここに来る前にリーゼロッテのことを知っていたのなら、アデライーデは真っ先に調査に乗り出していたことだろう。

「それにアデライーデ様を盾に取れらたとなると、王兄おうけい殿下も動きづらくなるのでは?」
「バルバナス様は私情を挟んだりしないわ」
「だといいのですが」

 渋い表情のマテアスに、アデライーデも考え込んだ顔となる。

「ジークヴァルトは今どうしてるの?」
「一見、平静を保っておられますが……」
「……そう」

 託宣の相手が消えたのだ。本来なら、正気を失っても不思議ではない事態だった。

「とにかくわたしもでき得る限り情報を集めてみます。奥書庫で何か有益なことが見つかるかもしれません」

 王城で起きたことなど、公爵家の立場で探るにも限界がある。だがこのまま手をこまねいている訳にはいかなかった。

「わたしもバルバナス様と連絡を取ってみるわ」

 こうなればアデライーデも見張られていると考えた方がいいだろう。だがそれならそれでやりようはある。
 紙にペンを滑らせると、アデライーデは窓の外に向かって指笛を響かせた。ほどなくして二羽の鷹が舞い降りる。

「ミカル、あなたはとりでのバルバナス様に。ジブリル、あなたは念のためニコラウスにこれを届けて。さぁ、行きなさい!」

 あしの筒に簡書を仕込むと、アデライーデは鷹を真冬の空へと解き放った。翼を大きく広げ、二羽は鈍色にびいろの雲間目指して、吸い込まれるように溶け込んでいく。

「リーゼロッテ……あなた、今どこにいるの……」

 対の託宣を受けた彼女は、必ずジークヴァルトの元へと帰ってくるはずだ。そうは思うが、その安否に不安が込み上げる。

 リーゼロッテが受けた託宣は、ジークヴァルトと婚姻を結び、次の龍の盾となる者を産むことだ。それは命が保証されるだけの話で、身の危険がないということではなかった。
 龍としては託宣の子が成せればいい。大怪我を負おうが、心に傷を作ろうが、それ以外はすべてお構いなしだ。

(ひどい目にあっていないといいけれど……)

 最悪の事態が頭をよぎるが、それ以上は考えたくもなかった。自分を含め公爵家が動けない今、騎士団の力を借りるしかない。例え国に逆らうことになるとしても。

「必ず見つけ出してみせるから」

 決意を固めるように、アデライーデは冬空を高く見上げた。

     ◇
 遠くに弔いの鐘を聞きながら、リーゼロッテは格子の窓から雪が降りつもる外を眺めていた。

 この部屋に連れてこられてから、もう幾日過ぎただろうか。頭巾の神官が朝夕二回、食事を差し入れに来るだけで、あとはずっとひとりきりだ。
 神官は幾人かいるようで、背丈格好がそれぞれ違っていた。だがあの日以来、問いかけても誰も口を開こうとはしなかった。

 食事にもろくに手をつけずに、そのまま下げられる日々が続いている。怖くて、不安で、悲しくて、こんなときに食欲などわくはずもなかった。

 舞い落ちる雪の空を見上げ、リーゼロッテは胸の守り石を無意識に握りしめた。

「ジークヴァルト様……」

 今頃はフーゲンベルク家で一緒に過ごしているはずだった。名前を口にしただけで、涙がとめどなく溢れだす。

(今すぐ、会いたい――)







【次回予告】
 はーい、わたしリーゼロッテ。囚われの身のわたしの元に連れて来られた下働きの女の子。それはなんとベッティで!? 自分がここにいることを外に知らせようと、あれこれふたりで画策します!
 次回、4章第21話「鳥籠のわがまま姫」 あわれなわたしに、チート、プリーズ!!


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