僕の恋の始まりと終わり

マカリ

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僕の恋の始まりと終わり 3月

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「フレンドになりましょうよ!そしたら何時でもボイチャ繋いで遊べますよ」

 イケメンで強引な陽キャ過ぎるお隣さんのお陰で、僕は初めてゲームフレンドが出来た。
 専らARPGが好きなのだが、たまにオンラインゲームもプレイする。

 ピコンとスマホに通知が。
 お隣さんだ。

『今夜も行けますけど戸崎さんどうですか?』

 あれから毎夜ゲームする仲になってしまった。
 僕の陰キャ具合いがお隣さんの陽キャにかなり引っ張られて、『フレンドとゲームをするのが楽しい』とまで思ってきている。

『僕も20時には行けます』
『了解です。パーティー招待しておきます』

 今までは仕事から帰ると風呂に入って軽く夕飯食べて、とりあえずゲーム機を立ち上げ眠くなるまでゲームするって感じだったが、最近は仕事から帰るとコントローラーの充電をしている間に風呂に入って、夕飯を食べたらゲーム機を立ち上げる。すると、お隣さんからパーティー招待が来る。そして気付けば日付が変わっていて、明日の仕事に響くからと慌てて、

「また今度」

 と終わらせて寝る、に変わっていた。
 
 そして今日も。
 僕はゲーム機を立ち上げる。そしてお隣さんからのパーティー招待を確認して、パーティー参加する。
「お疲れっす」と、お隣さんが挨拶してくる。
「お疲れ様です」と、僕も返事をする。

 これが僕たちのいつもの挨拶だ。

「戸崎さん、今日はチーデスからでいいですか?」
「僕はやっぱりフリーフォーオールからがいいです」
「了解でーす。戸崎さん、やっぱりフリフォでウォーミングアップしないとなんですね」
「うん、指慣らししたいもんで」

 いつの間にか僕もお隣さんと普通に会話できるようになっていた。顔を合わせていないからかもしれないが。ゲーム内でボイスチャットを繋いで話しているだけだから、そこまで緊張しないのかもしれない。
 でも、彼と…田宮さんとゲームしてると…話してると…僕は心がとても落ち着くのだった。

「あっ、戸崎さん。もう1時。明日仕事大丈夫?」
「うん、明日有給取ったから……まだ行ける」
「え!マジで?じゃぁ、明日どっか行きません?」

 僕は時間を気にしないで田宮さんとゲームをするために、溜まりに溜まった有給を取ったのに、彼はゲームじゃなくて出掛けようと言ってきた。

「ど……どっか?」
「そう。俺、マンション近辺位しか出た事無いから、何処かオススメの場所あったら連れて行って欲しくて」
「そんな事言われても…ここら辺は何もないの分かってるだろ」
「でも、俺もっと戸崎さんと仲良くなりたいからさ」

 そんな風に言われて僕は正直戸惑ってしまった。出掛ける事自体面倒だと思ってしまう僕だから。でも、そう思いながらも、何処か連れて行ける場所はないかと考えている僕もいて……

「じゃぁ、昼飯でも食べに行くか?」
「やった。オススメの店連れて行ってくれますか?」
「うん、学生の頃から通ってる、いい感じの店があるんだけど…」
「行く行く。絶対行きたい」
「分かったからさ、とりあえず、今はゲームに集中してよ」

 明日、お隣の田宮さんと、お昼ご飯を食べに、出掛ける────

 3時頃までゲームで遊んで、「じゃぁ明日11時頃廊下で会いましょう」となった。お隣さん同士だから、待ち合わせも簡単だ。玄関開けたら待ち合わせ場所なんだから。
 急に出掛ける事になったもんだから、緊張半分、嬉しさ半分……

 嬉しさ……

 僕はお隣の田宮さんとのお出掛けに、『嬉しい』と感じていた。自分でも驚きである。
 誰かと会って出掛けるなんて、殆どした事が無かったし、ほぼ疲れるだけだから、年々人と会う事が面倒になっていた。そのうち片手で数える程度の友達も、付き合いがなくなっていった。
 ついこの間知り合ったばかりだけれど、こんなに受け入れられるのは、何か縁があるんだろうな、と僕なりに解釈するようにしていた。

 次の日__

 約束の10分前に玄関を出た。10秒前に出たって間に合うのに。
 田宮さんはまだ居ない。
 たかが待ち合わせに、こんなにもドキドキワクワクしている自分がおかしくてニヤケてしまった。こんな気持ち久しぶりかもしれない…

 ガチャッと音がする。

「戸崎さん、お待たせしました」と、田宮さんが出てきた。
「僕も今出てきたばっかりですよ」

 田宮さんを連れて行こうと思っている店は、古い良い感じの昭和レトロな喫茶店みたいなカフェだ。学生時代から、このカフェの雰囲気が好きで、読書もテスト勉強も受験勉強も、ここでしていた。
 唯一していないのが、好きな人とデートする事だけで……

 道中も田宮さんが一方的に話していた。僕は相槌打つだけ。でも、会社の社長の奥さんに適当に相槌を打つのと違って、彼の話が楽しくて、もっと続きが聞きたくて、僕は相槌を打っている事に気付いた。
 ちょっと心が落ち着かなくなった。ドキドキが煩くて、だんだん田宮さんの話が頭に入って来なくなった。

「戸崎さん?大丈夫ですか?」

 いつの間にか僕は立ち止まってしまっていたようで、田宮さんが心配そうに僕の肩に手を置いて心配そうに僕を見つめていた。
 ハッとしてビクッとしてしまう僕。
「何でもないよ、ごめん。寝不足かな」と、僕は言って誤魔化した。
「もしかして、あの後も一人でゲームしてました?ダメですよ、ちゃんと寝ないと」と、田宮さんは言う。

 僕はお隣さんの田宮さんに友達以上の関係を望んでいるのか?
 ダメだ…彼はノーマルだろう。僕がゲイだと知ったら逃げていく……

「戸崎さん」
「え?」
「お店ってここですか?」

 ふと見ると馴染みの店の前に来ていた。田宮さんには予め店の名前と住所を教えていた。

「戸崎さん、常連ですよね?」
「そうだよ」
「金曜定休日って書いてますけど」
「は?」

 忘れてた…暫く行ってないから、すっかり今日が定休日なのを忘れていた!
 恥ずかしい……

 そんな僕を見て笑い出す田宮さん。

 コイツ……

 でもその笑いには悪意は全くなくて。
「戸崎さん、クールなんだけど、ちょっとたまにおっちょこちょいなんですよね」と、笑いながら田宮さんが言った。
「おっちょこちょいって……」
「いやいや、そういう所がいいの」
「たまたま忘れてただけで……」
「うん、そういう時あるよね。自分のお気に入りの店に連れて行きたいって来てみたら定休日」
「…………」

 田宮さんの言う通りだ。僕は彼を自分のお気に入りの場所に連れて行きたかったんだ。

「なんか、ごめん」と、謝る僕。
「いいのいいの」と、にこやかな田宮さん。

「じゃぁ」と、田宮さんが道路を挟んだ向かいのコンビニを指さして、
「何か買って戸崎さんの部屋で食いませんか?」と言った。
「僕の部屋?」
「うん、この間は俺の部屋で鍋やったから、今度は戸崎さんの部屋で一緒にコンビニ飯」
 どうしよう……と僕は今の部屋の状態を頭に浮かべた。ゲームしっぱなし。ベッドは起き抜けのまま。パジャマも脱ぎっぱなし。
「部屋掃除してない」と、咄嗟に言ってしまった僕。
「お隣同士だから、5分10分待ちますよ」
「本当に僕の部屋に来たいの?」
「うん、だって友達じゃないか」

 友達__

「じゃぁ5分だけくれたら、いいよ上がっても」

 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

「お邪魔します」と、田宮さんは上がって僕の部屋を見回した。
「お隣同士ってだけあって、間取りは同じですね」

 当たり前だろ……

「でも、僕の部屋より物が少なくてシンプルで広く感じる」
「必要な物以外置くと片付けが面倒だから」
「そっかぁ、だから俺の部屋ってすぐゴチャゴチャになっちゃうのか」

 二人でコンビニ飯を食べる。
 田宮さんは親子丼。僕は昔ながらのナポリタン。

「バイトは何してるの?」と、珍しく僕から話しかけた。
「ここに越して来てからは実は無職で……」
「無職?」
「越してくる前はバリスタのバイトしてました」
「バリスタ……」

 田宮さんは、それ以上何も言わなかった。何となく、これ以上聞いて欲しく無さそうだったし、僕も聞いちゃいけないんだろうな、と思ってやめた。
 誰だって踏み込まれたくない部分はあるものだと僕も思っていたから、僕にもそういう気持ちがよく分かるから、気にしなかった。

 黙々と食べていたけれど、食べ終わる頃には今年発売予定のゲームの話や来月公開の映画の話を何となくしていた。
 こんなにもプライベートに踏み込まれてしまっているのに、僕は全く不愉快では無かった。田宮さんの笑顔が素敵だと思った。タイプかどうかは別として、彼を好きになり掛けているのを自覚していた。このまま気持ちが高鳴ったとしたら、僕にとっては学生時代振りの片思いになるかもしれない。

 片思い__

 僕は臆病だから、恋をしても自分の気持ちに蓋をしてしまう。だから、好きな人が出来ても絶対思いを伝えたいとはならなかった。ゲイだと知られたら嫌われる。だけど結局苦しくなって辛くなって、僕から友達付き合いをやめてしまう……

 田宮さんともそうなるのか、と思うと心が沈んだ。彼に恋をしないようにしないと。そうすれば、ずっとゲームで一緒に遊べるかもしれない。

 田宮さんに恋をしたくない__

「戸崎さん」
 ハッとする僕。
「戸崎さん、下の名前は?」
「……か、かなで……」
「かなで……あだ名は?」
「……戸崎」
「それあだ名?じゃぁ、奏さんって呼んでもいいですか?俺の事は、凌二でいいんで」
「奏でいいよ」
「いいの?呼び捨てで」
「大して歳違わないだろ」
「だよね、奏」と、にっこり笑う凌二。

 ダメだ……好きになる……

 もうすぐ桜の咲く頃に、あんなに苦手意識を持っていたお隣さんに恋に落ちそうになっていた。
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