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僕の恋の始まりと終わり 4月
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あれから関係は何も変わらず、毎晩の様に二人でゲームをしていた。
変わった事はと言えば、僕が恋をしちゃったかもしれないという事__あんなに苦手だった、お隣さんに。
でもこれ以上、凌二の事を深く知りたいとは思わなかった。
知ればきっと僕は落ち込む。
分かっているんだ……多分、彼はゲイじゃない。
だから、これ以上の関係は望まない。
友達のままで……ゲームフレンドのままで……
「……戸崎くん」
名前を呼ばれて我に返る僕。
まずい仕事中だった……
最近、仕事中にまでも凌二の事を考えてしまう。
「戸崎くん。帳簿の残高が合ってないんだけど……」と、社長の奥さんが僕を心配そうな眼差しで言った。
「す、すいません。僕何やってんだ……確認して直ぐ訂正します」
僕は慌てて帳簿と領収書のチェックを始める。こんなミスした事無かったのに……
「戸崎くん」
「な、何ですか?今日中に訂正します」
「いや、もう定時だから、帰っていいよ。ただ、最近心ここに在らずって感じだから、大丈夫?」
『心ここに在らず』
そうだよな……凌二の事考えちゃったりして……
「そ、そうですかね……」
「だって昨日もミスしてたし」
「……昨日もですか?」
「そう、昨日も。領収書、印紙貼り忘れてたわよ」
ヤバい、こんな初歩的なミス……
「すいません」と平謝りの僕。
「いいのいいの。でも、何か悩みでもあるなら、話聞きましょうか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
そこまで恋煩いしてる訳じゃない。本当に恋しているのか、自分でもよく分かっていない。確かなのは気になってはいること。
たまにゲームのパーティー招待が来ていないと不安な気持ちになる。仕事から帰ると彼の家の明かりが灯っていないと心配になる。
僕以外の誰かと会ってるのかな?って……
彼が誰と会おうが僕には関係の無い事。でも、そんな事分かってるいのに、辛い気持ちになってしまう。
なのに僕は、まだ認めたくないのだ。凌二に恋してるって認めたくない。
傷つきたくないから……
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
やっぱり仕事はちゃんとしないと気が済まないので、少し残業して帰った。自宅に着いたのは20時を過ぎていた。いつもはこの時間にはボイチャ繋いで凌二と話をしているのに……
階段を自宅階まで登り共通廊下に出ると、僕の部屋の前で凌二がしゃがんでスマホをいじっていた。
何してんだ、と戸惑い立ち止まってしまった僕。
すると凌二がこっちを見た。
「あっ、奏、おかえり」
おかえり、って……お前……
ドキドキして何も言えない僕。
「スマホ見てないだろ?メッセージ送っても既読付かないし、パーティー招待しても全然参加して来ないし。だから部屋出てみたら、やっぱり留守みたいだし。残業だと、いつもメッセージくれるから、何かあったのかって心配したぞ」
しまった……仕事にバタバタしてて、スマホ全然見てなかった。
「ご、ごめん……残業で……」
「そっか、それなら良かった。仕事忙しいなら、あんまり誘わない方がいいかな?」
「そんな事ないから!」と、僕は慌てて言う。
「そうか?じゃぁ、また今度な。おやすみ」と、言って凌二は部屋に戻ろうとする。
「あの凌二!」
「ん?」
「あの……明日はゲームできるから……その……」
「……奏さ……明日休みだろ?」
「……うん。そうだけど」
「じゃぁさ、この後俺ん家でゲームしようぜ。この間言ってたシュミレーションゲーム。風呂入って来いよ、鍵開けておくから、勝手に入ってきていいよ」
「……うん」
「あ、来る時ノートパソコン持ってくんの忘れんなよ」
「……うん」
自宅玄関で暫く立ちすくむ僕。
風呂入ったらノートパソコン持って凌二の部屋に遊びに行く☆.*゚•*¨*•.¸♡o。+ ☆.*゚•*¨*•.¸♡o。
今、僕の人生で一番リア充だ。
直ぐにでも凌二の部屋に行かないと、と思ってシャワーで済まそうと思ったけど、何となく湯に浸かって自分の気持ちを落ち着かせようと思った。ドキドキを沈めよう。
風呂から上がると凌二からスマホにメッセージが来ていた。
『まだ風呂入ってるっぽいから、俺コンビニでお菓子とかツマミ買ってくる』
時計を見ると21時を回ったところだった。スウェットを着てノートパソコンを持って、ちょっと玄関を開けて凌二の部屋を伺う。明かりはついてるけど……玄関に鍵をして、凌二の部屋のインターホンを鳴らす。うん……まだコンビニから帰ってないな。マンションからコンビニは歩いて10分は掛かるから、まだ帰ってこないだろう。勝手に入っていいって言われたけど、本人不在だから入りづらい。
共通廊下のバルコニーを背もたれにして、さっき凌二がしていたように、しゃがんで帰りを待つことにした。部屋で待っていればいいんだけれど、凌二もこうして心配して僕の帰りを待っていてくれた。そこに僕への愛は無くても、ちょっとだけ嬉しかった。僕の事を気にかけてくれた事が、ちょっとだけ。
そんな事を考えていると、凌二が帰ってきた。
「奏、何やってんだよ」
「帰り待ってた」
「……そっか、サンキュ」
凌二はそういうと玄関を開けて、微笑みながら僕に、
「いらっしゃい」と言った。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
凌二の部屋に上がる。二度目の訪問。凌二の部屋は意外にもこざっぱりとしていて、僕と同様に最低限の家具と家電しかない。だけれども壁には映画のポスターやイラストがオシャレに飾られているので、同じマンションの同じ間取りとは思えなかった。
「飯食った?」と凌二がテーブルにコンビニで買ってきた物を出しながら言う。
「いや……」そういえば何も食べていなかった……
「カレー食う?晩飯の残りで悪いけど」
「いいの?」
「いいよ」
凌二はそういうと手早くカレーライスを用意してくれた。
遠慮していると、
「食わないの?」と言ってくる。
「……いただきます」
何かチビチビ食べる僕。
それを見てクスクス笑う凌二。
睨む僕。
「だって、警戒心丸出しの小動物みたいなんだもん」と笑って凌二が言った。
「し、小動物……」
僕は一気に体中が熱くなるのを感じた。
「誰も取らないのにさ」と、凌二そう言うとデスクに座ってパソコンを操作し始めた。
バカにしてんのか、何なのか。
でも、カレーはめちゃくちゃ美味い。
「いつも自炊なのか?」と、声を掛けてみる。
「うん、節約するために」と、背中を向けたまま返事する凌二。
「でも多すぎないか?」
「今週はカレーだから適量だよ」
「……今週……適量って……」
飽きないのか?
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
僕もノートパソコンを立ち上げる。
「やっと行けますか?」
「うん」
「じゃぁ招待送るよ」
ピコンとパソコンが反応する
「このゲームは、不時着した未知の惑星から脱出するゲームです」と、真剣な顔で説明する凌二。
「う、うん」
一応、黙って素直に返事をする僕。
「宇宙船を修理しないといけないから、奏は拠点の近くで鉱物の採掘をしてくれ。俺は辺りを探索したり、奏が採掘してくれた鉱石で部品とか作るから。慣れてきたら、奏にも違う仕事を振るよ」
お前はピカード船長か、とツッコミたくなった。
こういうシュミレーションゲームは本当にあっという間に時間が溶ける。気付いたらもう朝の4時。
「うわぁこんな時間。寝る?」と凌二が欠伸をする。
「うーん……てかコーヒー飲もうかな。キッチン借りる」
「どうぞ」
キッチンでスティックタイプのインスタントを淹れる。僕は湯量半分で、そこに氷を入れてアイスコーヒーにして飲むのが好きだ。
「氷いいか?」
「ん?どうぞどうぞ」
よくかき混ぜて飲む。美味い。
それを見ていた凌二が、
「俺には?」と言った。
「え?飲む?」
「普通、俺の分も用意するでしょ」
そうなのか?と思いつつ、凌二の分も作っていると、隣に凌二がやってきた。
「アイスコーヒーの作り方、知らなかった」
「書いてあるだろ。アイスの飲み方ってここに」と僕はパッケージに書いてある『アイスコーヒーの作り方』を凌二に見せた。
「ホントだ」
「ほら、よくかき混ぜて飲めよ」と、マグカップを渡そうとする。
!!!!!近い……
びっくりして、すぐパソコンの前に戻る僕。近すぎるよバカ野郎。ドキドキしちゃっただろ。
「美味い!」
美味いじゃねぇ……
「奏、微妙に俺の事、避けてるよね」
え?と僕は顔を上げる。
「いやさ、ボイチャではいつも普通に話すけど、こうやって会うと、いつも目を合わせないからさ。もしかして、いやいや俺に付き合ってる?だったら、ごめん。俺そういう所あってさ、よく怒られたりするからさ」
あぁ、みんなにフレンドリーで、でもそれが全ての人に受け入れられるとは限らないのをつい忘れちゃう、と。
「だからさ、嫌だったら言って。さっきも言ったけどさ。迷惑だったら……」
「迷惑じゃないって言ってるだろ」
「そうならいいんだけど……」
「俺はこう見えても楽しいし。いつも凌二から誘ってくれるの待ってるし……」
「奏から誘ってくれてもいいんだけど」
「…………」
パーティー招待なんて、した事ないんだよ僕は。
「奏は何も聞かないよね」と、凌二は突然話を変えてきた。まぁ、いつもコロッと話題を変えるヤツではあるけれど。
「どういう意味?」
「俺の事、色々聞いて来ない。働いてなくて、こんなマンション住めんのか?とか。ずっとバイトとかマジかよ、とか」
「……聞いてどうする」
「まぁそうだけど」
「少なからずとも僕には迷惑は掛かってない。だから、別に」
興味はあるけど、聞かないだけなんだけれど。
「そうだよな」
「凌二……お前、何かあったのか?」
「別に何も無いよ。いい間合いで居てくれる奏に感謝してるだけ」
「感謝?」
大袈裟だろ。なんだか凌二の笑顔が少し寂しそうに見えた。僕は何か余計な事を言ってしまったのだろうか……
「少し寝るかな」と凌二が言いながらベッドに横になった。
「じゃ、僕帰るよ」
流石に眠いもんなと思って、僕はパソコンを閉じようとする。
「どうせ起きたら、またゲームするんだろ?泊まればいいじゃん」
「僕ん家隣」
「でも面倒じゃん」
「…………じゃぁ、ソファーで寝る」
なんだか凌二の様子が変だが、好きかもしれない相手の家に泊まる事になってしまった。
僕にとっては初めての経験だ。
『好きかもしれない相手の家にお泊まり』
気付けば昨日は4月30日で、僕にとっては今日からGW初日だった。すっかり忘れてた。
「奏」
「ん?」
「友達になってくれて、ありがとな」
唐突に凌二がそう言った。
「……さっきから何なんだよ」と困惑しながら僕は返事をした。
「やっぱり変だよな俺」
「うん、何かあったんか?」
「あった。でも話せる内容じゃない…」
「じゃぁ聞かないよ」
というか、だったら気になるような言い方するなよと僕は思った。
「お前良い奴だな」
「……別に」
やっぱり何なあったんだろうなと感じた。いつも悩みなんてなさそうな感じだったけど、凌二も意外と色んなもの抱えてんのかな?と思った。もしかしたら僕なんかより抱えてるものが多いのかもしれない。
だったら、僕が……僕が……何をできるって言うんだ。話を聞くくらいしか出来ないだろ。聞いても手助け出来なかったら、聞く意味無いだろ。
なんて、僕はいつも人との関係を自分から遠ざける。でも、凌二にはもう少し踏み込みたい。もっと彼の本質を知りたい。僕にできる事があるのなら手助けしたい。
と、声に出せればこんなに僕も悩まないのに。相変わらずで、こんな自分が嫌になる。
「奏、寝た?」
寝たフリをする僕。
「寝たか……俺も寝よ」
凌二の少し意外な一面が見れて、僕の気持ちもだいぶ揺さぶられた4月の終わりだった。
変わった事はと言えば、僕が恋をしちゃったかもしれないという事__あんなに苦手だった、お隣さんに。
でもこれ以上、凌二の事を深く知りたいとは思わなかった。
知ればきっと僕は落ち込む。
分かっているんだ……多分、彼はゲイじゃない。
だから、これ以上の関係は望まない。
友達のままで……ゲームフレンドのままで……
「……戸崎くん」
名前を呼ばれて我に返る僕。
まずい仕事中だった……
最近、仕事中にまでも凌二の事を考えてしまう。
「戸崎くん。帳簿の残高が合ってないんだけど……」と、社長の奥さんが僕を心配そうな眼差しで言った。
「す、すいません。僕何やってんだ……確認して直ぐ訂正します」
僕は慌てて帳簿と領収書のチェックを始める。こんなミスした事無かったのに……
「戸崎くん」
「な、何ですか?今日中に訂正します」
「いや、もう定時だから、帰っていいよ。ただ、最近心ここに在らずって感じだから、大丈夫?」
『心ここに在らず』
そうだよな……凌二の事考えちゃったりして……
「そ、そうですかね……」
「だって昨日もミスしてたし」
「……昨日もですか?」
「そう、昨日も。領収書、印紙貼り忘れてたわよ」
ヤバい、こんな初歩的なミス……
「すいません」と平謝りの僕。
「いいのいいの。でも、何か悩みでもあるなら、話聞きましょうか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
そこまで恋煩いしてる訳じゃない。本当に恋しているのか、自分でもよく分かっていない。確かなのは気になってはいること。
たまにゲームのパーティー招待が来ていないと不安な気持ちになる。仕事から帰ると彼の家の明かりが灯っていないと心配になる。
僕以外の誰かと会ってるのかな?って……
彼が誰と会おうが僕には関係の無い事。でも、そんな事分かってるいのに、辛い気持ちになってしまう。
なのに僕は、まだ認めたくないのだ。凌二に恋してるって認めたくない。
傷つきたくないから……
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
やっぱり仕事はちゃんとしないと気が済まないので、少し残業して帰った。自宅に着いたのは20時を過ぎていた。いつもはこの時間にはボイチャ繋いで凌二と話をしているのに……
階段を自宅階まで登り共通廊下に出ると、僕の部屋の前で凌二がしゃがんでスマホをいじっていた。
何してんだ、と戸惑い立ち止まってしまった僕。
すると凌二がこっちを見た。
「あっ、奏、おかえり」
おかえり、って……お前……
ドキドキして何も言えない僕。
「スマホ見てないだろ?メッセージ送っても既読付かないし、パーティー招待しても全然参加して来ないし。だから部屋出てみたら、やっぱり留守みたいだし。残業だと、いつもメッセージくれるから、何かあったのかって心配したぞ」
しまった……仕事にバタバタしてて、スマホ全然見てなかった。
「ご、ごめん……残業で……」
「そっか、それなら良かった。仕事忙しいなら、あんまり誘わない方がいいかな?」
「そんな事ないから!」と、僕は慌てて言う。
「そうか?じゃぁ、また今度な。おやすみ」と、言って凌二は部屋に戻ろうとする。
「あの凌二!」
「ん?」
「あの……明日はゲームできるから……その……」
「……奏さ……明日休みだろ?」
「……うん。そうだけど」
「じゃぁさ、この後俺ん家でゲームしようぜ。この間言ってたシュミレーションゲーム。風呂入って来いよ、鍵開けておくから、勝手に入ってきていいよ」
「……うん」
「あ、来る時ノートパソコン持ってくんの忘れんなよ」
「……うん」
自宅玄関で暫く立ちすくむ僕。
風呂入ったらノートパソコン持って凌二の部屋に遊びに行く☆.*゚•*¨*•.¸♡o。+ ☆.*゚•*¨*•.¸♡o。
今、僕の人生で一番リア充だ。
直ぐにでも凌二の部屋に行かないと、と思ってシャワーで済まそうと思ったけど、何となく湯に浸かって自分の気持ちを落ち着かせようと思った。ドキドキを沈めよう。
風呂から上がると凌二からスマホにメッセージが来ていた。
『まだ風呂入ってるっぽいから、俺コンビニでお菓子とかツマミ買ってくる』
時計を見ると21時を回ったところだった。スウェットを着てノートパソコンを持って、ちょっと玄関を開けて凌二の部屋を伺う。明かりはついてるけど……玄関に鍵をして、凌二の部屋のインターホンを鳴らす。うん……まだコンビニから帰ってないな。マンションからコンビニは歩いて10分は掛かるから、まだ帰ってこないだろう。勝手に入っていいって言われたけど、本人不在だから入りづらい。
共通廊下のバルコニーを背もたれにして、さっき凌二がしていたように、しゃがんで帰りを待つことにした。部屋で待っていればいいんだけれど、凌二もこうして心配して僕の帰りを待っていてくれた。そこに僕への愛は無くても、ちょっとだけ嬉しかった。僕の事を気にかけてくれた事が、ちょっとだけ。
そんな事を考えていると、凌二が帰ってきた。
「奏、何やってんだよ」
「帰り待ってた」
「……そっか、サンキュ」
凌二はそういうと玄関を開けて、微笑みながら僕に、
「いらっしゃい」と言った。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
凌二の部屋に上がる。二度目の訪問。凌二の部屋は意外にもこざっぱりとしていて、僕と同様に最低限の家具と家電しかない。だけれども壁には映画のポスターやイラストがオシャレに飾られているので、同じマンションの同じ間取りとは思えなかった。
「飯食った?」と凌二がテーブルにコンビニで買ってきた物を出しながら言う。
「いや……」そういえば何も食べていなかった……
「カレー食う?晩飯の残りで悪いけど」
「いいの?」
「いいよ」
凌二はそういうと手早くカレーライスを用意してくれた。
遠慮していると、
「食わないの?」と言ってくる。
「……いただきます」
何かチビチビ食べる僕。
それを見てクスクス笑う凌二。
睨む僕。
「だって、警戒心丸出しの小動物みたいなんだもん」と笑って凌二が言った。
「し、小動物……」
僕は一気に体中が熱くなるのを感じた。
「誰も取らないのにさ」と、凌二そう言うとデスクに座ってパソコンを操作し始めた。
バカにしてんのか、何なのか。
でも、カレーはめちゃくちゃ美味い。
「いつも自炊なのか?」と、声を掛けてみる。
「うん、節約するために」と、背中を向けたまま返事する凌二。
「でも多すぎないか?」
「今週はカレーだから適量だよ」
「……今週……適量って……」
飽きないのか?
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
僕もノートパソコンを立ち上げる。
「やっと行けますか?」
「うん」
「じゃぁ招待送るよ」
ピコンとパソコンが反応する
「このゲームは、不時着した未知の惑星から脱出するゲームです」と、真剣な顔で説明する凌二。
「う、うん」
一応、黙って素直に返事をする僕。
「宇宙船を修理しないといけないから、奏は拠点の近くで鉱物の採掘をしてくれ。俺は辺りを探索したり、奏が採掘してくれた鉱石で部品とか作るから。慣れてきたら、奏にも違う仕事を振るよ」
お前はピカード船長か、とツッコミたくなった。
こういうシュミレーションゲームは本当にあっという間に時間が溶ける。気付いたらもう朝の4時。
「うわぁこんな時間。寝る?」と凌二が欠伸をする。
「うーん……てかコーヒー飲もうかな。キッチン借りる」
「どうぞ」
キッチンでスティックタイプのインスタントを淹れる。僕は湯量半分で、そこに氷を入れてアイスコーヒーにして飲むのが好きだ。
「氷いいか?」
「ん?どうぞどうぞ」
よくかき混ぜて飲む。美味い。
それを見ていた凌二が、
「俺には?」と言った。
「え?飲む?」
「普通、俺の分も用意するでしょ」
そうなのか?と思いつつ、凌二の分も作っていると、隣に凌二がやってきた。
「アイスコーヒーの作り方、知らなかった」
「書いてあるだろ。アイスの飲み方ってここに」と僕はパッケージに書いてある『アイスコーヒーの作り方』を凌二に見せた。
「ホントだ」
「ほら、よくかき混ぜて飲めよ」と、マグカップを渡そうとする。
!!!!!近い……
びっくりして、すぐパソコンの前に戻る僕。近すぎるよバカ野郎。ドキドキしちゃっただろ。
「美味い!」
美味いじゃねぇ……
「奏、微妙に俺の事、避けてるよね」
え?と僕は顔を上げる。
「いやさ、ボイチャではいつも普通に話すけど、こうやって会うと、いつも目を合わせないからさ。もしかして、いやいや俺に付き合ってる?だったら、ごめん。俺そういう所あってさ、よく怒られたりするからさ」
あぁ、みんなにフレンドリーで、でもそれが全ての人に受け入れられるとは限らないのをつい忘れちゃう、と。
「だからさ、嫌だったら言って。さっきも言ったけどさ。迷惑だったら……」
「迷惑じゃないって言ってるだろ」
「そうならいいんだけど……」
「俺はこう見えても楽しいし。いつも凌二から誘ってくれるの待ってるし……」
「奏から誘ってくれてもいいんだけど」
「…………」
パーティー招待なんて、した事ないんだよ僕は。
「奏は何も聞かないよね」と、凌二は突然話を変えてきた。まぁ、いつもコロッと話題を変えるヤツではあるけれど。
「どういう意味?」
「俺の事、色々聞いて来ない。働いてなくて、こんなマンション住めんのか?とか。ずっとバイトとかマジかよ、とか」
「……聞いてどうする」
「まぁそうだけど」
「少なからずとも僕には迷惑は掛かってない。だから、別に」
興味はあるけど、聞かないだけなんだけれど。
「そうだよな」
「凌二……お前、何かあったのか?」
「別に何も無いよ。いい間合いで居てくれる奏に感謝してるだけ」
「感謝?」
大袈裟だろ。なんだか凌二の笑顔が少し寂しそうに見えた。僕は何か余計な事を言ってしまったのだろうか……
「少し寝るかな」と凌二が言いながらベッドに横になった。
「じゃ、僕帰るよ」
流石に眠いもんなと思って、僕はパソコンを閉じようとする。
「どうせ起きたら、またゲームするんだろ?泊まればいいじゃん」
「僕ん家隣」
「でも面倒じゃん」
「…………じゃぁ、ソファーで寝る」
なんだか凌二の様子が変だが、好きかもしれない相手の家に泊まる事になってしまった。
僕にとっては初めての経験だ。
『好きかもしれない相手の家にお泊まり』
気付けば昨日は4月30日で、僕にとっては今日からGW初日だった。すっかり忘れてた。
「奏」
「ん?」
「友達になってくれて、ありがとな」
唐突に凌二がそう言った。
「……さっきから何なんだよ」と困惑しながら僕は返事をした。
「やっぱり変だよな俺」
「うん、何かあったんか?」
「あった。でも話せる内容じゃない…」
「じゃぁ聞かないよ」
というか、だったら気になるような言い方するなよと僕は思った。
「お前良い奴だな」
「……別に」
やっぱり何なあったんだろうなと感じた。いつも悩みなんてなさそうな感じだったけど、凌二も意外と色んなもの抱えてんのかな?と思った。もしかしたら僕なんかより抱えてるものが多いのかもしれない。
だったら、僕が……僕が……何をできるって言うんだ。話を聞くくらいしか出来ないだろ。聞いても手助け出来なかったら、聞く意味無いだろ。
なんて、僕はいつも人との関係を自分から遠ざける。でも、凌二にはもう少し踏み込みたい。もっと彼の本質を知りたい。僕にできる事があるのなら手助けしたい。
と、声に出せればこんなに僕も悩まないのに。相変わらずで、こんな自分が嫌になる。
「奏、寝た?」
寝たフリをする僕。
「寝たか……俺も寝よ」
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