僕の恋の始まりと終わり

マカリ

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僕の恋の始まりと終わり 9月

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夏祭りから一ヶ月が経とうとしていた。

「戸崎君、最近垢抜けたんじゃない?」
 仕事中に社長の奥さんに突然そう言われて、暫く思考が停止してしまった僕である。
「だって、最近香水の良い香りがするし、いつもカチッとしたスーツしか着て来なかったのに、最近はカジュアルフォーマルって言うのかしら。雰囲気変わったわよねぇ」
 確かに……凌二が付けている香水を僕も買ってみて使うようになった。二人で出掛けた時に、凌二にコーディネートしてもらって、仕事に着ていくスーツを替えた。やっぱり分かるものなのか…
「そ、そうですかねぇ……」
「そうよ!凄い垢抜けたもの、戸崎君。やっぱり彼女?彼女でしょ!絶対そうよね!」
「…………」
 職場では基本社長の奥さんと二人きりで、他の営業部や技術部の社員とは会わないから楽なのだが、一番お喋りで詮索好きなのが社長の奥さんな訳で。もう、こうなると忽ち面倒な人になる。
「戸崎君も、もうすぐ三十路じゃない?そうよね、そういう人が出来ても、おかしくないものね」
 社長の奥さんからの尋問は定時まで続いたが、当たり前だが僕は絶対に口を割らなかった。

 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

 定時になり、いつになく素早く打刻して会社を出た僕。

 ふざけんなよ、まったく

 こんな言い方したく無いけど、いや、社長の奥さんが悪いんだ……

「はぁ、凌二に早く会いたい」と、僕は本音がポロッと口からこぼれた。
 そう言えば凌二は今日午後からバイトだった。何処のお店で働いているのかも知っている。でも一度も行った事は無かった。

 行っちゃおうかな

 駅の改札前でどうしようか悩む僕。
 凌二のバイト先は、駅から歩いた方が近い。30分悩んで、やっと決心して僕は彼のバイト先へ向かう事にした。

 ビックリするかな?
 ………怒るかも

 色んな思いが頭の中でグルグルしている間に着いてしまった。後二、三歩歩けば店の中が伺える。
 勇気を出して、ゆっくり店の中を覗く。噂通りのオシャレなカフェだった。客層も何となくオシャレな人が多いと勘違いしてしまうくらいだ。凌二と付き合って無ければ、僕は絶対来る事は無いだろうな、と思った。
 その時、後ろから肩をポンと叩かれ腰が抜ける程僕は驚いてしまった。
「ご、ごめんて…そんなに驚く?」
 振り返ると凌二だった。驚き過ぎて言葉が出て来ない僕を見兼ねて、
「奏、来てくれたの?」と、凌二は微笑んで言った。
「あ、あの…迷惑だったら帰るよ」
「そんな訳無いよ。丁度ブレイクだったから、そこのコンビニに行ってきてさ」
「ブレイク?」
「休憩。コーヒーご馳走するよ。あっ、ラテの方が良いかな」
 そう言うと凌二は店に入り、空いている席を探して僕を手招きした。
 僕は恐る恐る店に入ると慌てて凌二の側に。
「ここで待ってて」と、凌二は言ってカウンターの中に入ってしまった。

 こんなオシャンティーな空間、僕は居心地が悪いです…

「お待たせ」
 マグカップを二つ持って僕の向かいに座る凌二。
「奏には特別サービスで、ラテアートしてみたよ」と、凌二は僕の前にマグカップを一つ置いた。

 ハートじゃないですかぁ♡

 僕はドキドキしちゃって凌二を見る。
「どう?一応、バリスタっぽいでしょ」と、冗談を言う凌二。
「ぽい、じゃなくてプロでしょ」と、上ずった声で言ってしまう僕。
 笑ってくれる凌二。今日は冷たい目付きは無しみたいだ。
「20時で上がりだからさ、待っててくれる?」
「も、もちろん!ずっと待ってるし」
「ずっと?」
 クスクス笑う凌二を見て、恥ずかしくなる僕。
「期間限定のシフォンケーキ、食べて待っててね」
 そう言うとバックヤードに入ってしまった凌二。

 期間限定…の…シフォンケーキ…

 ショーケースに見える、あの美味しそうなシフォンケーキの事なのか?と、席でまごついていると、バックヤードから凌二が戻ってきて僕の前にお皿を置いた。
「お待たせしました」と、にっこり微笑む凌二。
「えっ…あの…」
「じゃ、俺仕事に戻るから、待っててね」
 僕の彼氏は全てがイケメン過ぎだ。

 添えてある生クリームが甘すぎず、シフォンケーキもフカフカで凄く美味しかった。愛する彼氏が働くお店で、美味しいコーヒーを飲みながら美味しいケーキを食べられるなんて僕は幸せです。なんて思っていると、カウンターの方から話し声が聞こえてきた。

「田宮さん、お友達ですか?」
「あぁ、うん、まあね」
「珍しい!」
「そうかな?」
「田宮さん、プライベート全然教えてくれないし、誘っても全部断るし、あのお友達に聞いてこよっかな。田宮さんに彼女居るのか」

 おい、そこの女子、丸聞こえだ!

 僕は聞こえない振りをして、更にスマホをいじってる振りもしながら、凌二の仕事が終わるまで耐え忍んだ。
 でも話を聞いていて、そうだよなぁ、と思った。あんなイケメン、女性だって放っておくわけが無い。やっぱり僕と付き合っているなんて、奇跡だ、なんて大袈裟に考えてしまう。

「奏、お待たせ。シフォンケーキ美味しかった?お皿下げるね」
 凌二の身のこなしは全てスマートに見える。僕が勝手に彼にフィルターを掛けて見ている訳ではないつもりだが。
 そんな事考えながら席を立ち、一応レジに向かう。
「あ、あの、シフォンケーキ代払います」と、おずおずと言う僕。
「田宮さんから頂いてますから大丈夫ですよ」
 先程の女性店員が笑顔で対応してきた。
 オシャンティーな店は店員も皆キラキラなのか?
「奏、何やってるの?行こ」
 後ろから僕の肩を掴んで耳元で言う凌二。
「じゃ、お先」と、凌二は他の店員に言うとチラと僕を見て店外へ出た。
 僕も慌てて後を追いかける。
「あの二人、距離近っ」
 女性店員がそう言いながら僕らを見送った。

 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

「ま、待ってよ、凌二」
 ずんずん行ってしまう凌二。やっぱり突然行ったから、本当は怒ってるのかな、と不安になってしまう。
 結局マンションまで一言も喋らずじまいだった。

「あ、あの凌二…今日はごめんね。突然バイト先に行ったりして。先にメッセージ送るべきだったよね…」と、俯いて謝る僕。
「良いから、奏も早く入って」と、凌二は自分の部屋へ入ってしまった。
 少し間を置いて凌二の部屋に入る。凌二が部屋に上がらず玄関で僕が入ってくるのを待っていた。僕が入ると凌二はそのまま僕をきつく抱きしめた。
「凌二、どうしたの?」
 僕も抱きしめ返す。
「だってさ…めちゃくちゃ嬉しそうにシフォンケーキ食べたり、俺に気付かれないようにカウンターの中見てたり…」と、凌二は僕の耳元で呟き出した。
「ご 、ごめん。迷惑だったよね」
「違うって…会いに来てくれたの凄く嬉しくて、そんな奏が可愛くて…」
「………」
「バイトの女の子がさ、『田宮さんのお友達、彼女居るんですか?』何て言うからさ。奏は俺のだから、なんて言えないし…そんな事考えてたら俺余裕無さすぎでカッコ悪って自分にムカついてきて…」

 いやいや、凌二…可愛いかよ♡

「そうだったのか…僕は…凌二のものだよ、安心してよ」と、凌二の背中をさすってあげる。
「分かってる。なのに不安で堪らなくて。奏がどっか行っちゃったら嫌だなって」
「そんな事ある訳ないだろ」
「ごめん…」

 相変わらず何も語らない凌二だったけれど、最近少し気づいた事がある。それは、あの目付きをして「奏が居なくなったら…」と言う事が増えたのだ。そういう時は暫く僕を抱きしめて離さない。
「凌二、僕は何処にも行かないよ。凌二から離れないよ」
「うん、分かってる。でもさ、絶対じゃないじゃん」
 凌二の声に不安が感じられた。だから僕は、
「絶対だよ。何より僕は凌二とずっと一緒に居たいんだから。知ってるだろ?」
「知ってる」
「じゃぁさ、部屋上がって電気付けてイチャイチャしようぜ」
 僕はそう言うと凌二の手を引いて部屋に上がり照明を付けた。
 凌二がバックハグしてくる。
「どうしたんだよ、僕のイケてる彼氏さん」
「何だそれ」と、凌二は少し笑って言う。
「追い掛けても追いつかない時もあれば、今日みたいに僕にベッタリの時もあるし。凌二も可愛いところあるなって」
「俺が可愛い?」
「さっき思わずキスしたくなった」
「しろよ」
「してよ」

 凌二に深いキスをされながらソファーに押し倒される。気持ちいいキスをされて僕はあっという間にとろけてしまった。
「やっぱり奏の方がめちゃくちゃ可愛いから」
 そう言って凌二は僕の服を脱がしながら愛撫を始める。
「ダメだよ、シャワー浴びないと、汚いから」
「汚くない」
「ダメだってば」
 そう言っても止めてくれない凌二。
 僕は諦めてされるがままに凌二に抱かれた。

 時計に目をやると時刻は夜中を過ぎていた。
 今回は凌二らしくないな、と思った。いつも僕を気遣いながらセックスするのに、今日は無我夢中って感じで。まぁ、気持ちよかったけれど、激し過ぎてやっぱり途中で記憶が曖昧になってしまった。あんなに激しく最奥まで突き上げられたら記憶飛ぶに決まってるし……あんなに「愛してる」って言われながら突かれたら、余計頭の中が幸せ過ぎておかしくなっちゃうし………
 でも何でだろうか。凌二が気持ちを言葉に出してくれるようになったんだけれども、少し違和感を感じていた。

 僕に誰かを重ねているのかな?

 あんなに凌二の事を、凌二の心の中を知りたかったのに、何だか知ったらいけないような気がしてきて、胸が苦しくなってしまった。

 近づくと遠ざかる。気付くと切なくなる。何だか僕の気持ちって本当にややこしいなと感じた9月だった。
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