僕の恋の始まりと終わり

マカリ

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僕の恋の始まりと終わり 10月

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すっかりいい季節になったもんだ。僕は秋が一番好きだ。なんて例えればいいのだろうか。秋の匂いや秋の空が好きだ。
 なんて考えながらベランダで洗濯物を干していると、
「お隣さーん、居ないんですか?」と、凌二が蹴破り戸の向こうから顔を出してきた。
「凌二!どうしたの?」
 僕はびっくりして思わず洗濯物を落としそうになった。
「どうしたのって、インターホン鳴らしても反応無いし。今日はお互い休みだから、奏の部屋に行くって連絡しただろ?」
「ごめん、そんな時間だった?天気が良くてつい。今、鍵開ける」
 僕は慌てて玄関に向かった。
 鍵を開けると、すぐ凌二が入ってきた。
「何か飲む?」と僕はキッチンへ向かい、インスタントコーヒーを淹れる準備を始めた。
 すると凌二がバックハグしてきた。もういつものお決まりになりつつある。僕も凌二に甘えられる事に慣れつつあった。
「今日は何したい?先週は海外ドラマ、イッキ見したし。今日もそうする?」
 僕はそう言いながら、バックハグする凌二の頬にキスをした。
「んー、あのドラマのスピンオフドラマも人気あるから見るか」
 キスを返してくれながら、凌二がそう言った。

 居間のソファーに二人で座る。
 僕がテレビを点けようとリモコンを取ろうとしたんだけれど、凌二がまた僕に抱きついてきてソファーに押し倒してきた。
「凌二、ダメ。エッチするにはまだ時間早いよ」
「時間関係ないだろ」
「ダメ」と僕は凌二を押し退ける。
「ケチ」
 凌二は少し不貞腐れてソファーに座り直した。
「凌二、最近どうしたの?」と僕は聞いてみた。ずっと気になっていた事……
「どうしたって……何が?」
 聞くには今がチャンスと思いつつ、応えが怖くて言い淀んでしまう。
「奏?」
 もう気を遣う間柄では無いと思う。でも、僕は凌二を失いたくないから、どうしても彼が気分を害してしまうのではないか、と考えてしまって……
「奏、何?何でもないならドラマ見ようぜ」
 凌二はそう言うとテレビを点けた。

 意気地がない自分に幻滅する……
 ドラマを見ていても何も頭に入って来なかった。
 そのうち凌二は寝落ちしてしまっていた。そっと凌二の髪を撫でる。こんな無防備で気持ち良さそうに眠ってて、僕と一緒に居て安心してくれているんだろうか?僕と居ると居心地がいいと思ってくれているんだろうか?
 愛しているからこそ、そうであって欲しい。僕は彼の一番になりたい訳じゃない。彼の唯一無二になりたいんだ。

「んー」
 ハッとして僕は凌二の髪を撫でるのを止めた。
「ご、ごめん、気持ち良さそうに寝てたから、ついナデナデしたくなっちゃって」と言い訳をする。
「もっとナデナデしろよ」
 凌二はそう言って僕の手を掴んだ。そして、
「なぁ、さっきのだけど、俺、変?」と聞いてきた。
「変、て?」
「だってさ、最近どうした?なんて聞かれたらさ、俺、変なのかな、って思うじゃん」
 うわぁ、逆に思い切り凌二に気を遣わせてしまっていた……
「変じゃないよ。ただ……」
「ただ?」
「ちょっと気になる事があって……」と僕は勇気を出して凌二に聞いてみるとこにした。
「気になる事?」
「うん。あのさ、最近凄く甘えてくるじゃん。それは全然いいんだ、嬉しいし。ただ、僕が居なくなったらどうしよう、とか言うだろ。それに僕を見る時、たまにその先を見つめるっていうか、なんて言うか……」
 僕はそこまで言うと、また言葉が出てこなくなってしまった。
 凌二も何も言わない。
 暫く二人の間に沈黙が続いた。この空気感が嫌で、やっぱり聞いた事を後悔した僕は、
「ごめんごめん、忘れて。無し無し、今の無し」と慌てて言った。
 凌二は体を起こしてソファーに座り直した。そして、
「そう思うよな。敏感な奏が気が付かないわけないもんな。ちゃんと話さないとな、とは思ってたんだよ」と言った。
 凌二にそう言われて、僕はドキドキして緊張してきてしまって目が回りそうだった。何を言われるのか不安で堪らなくなってしまった。
 そんな僕の手を握り直して凌二は話し出した。
「俺さ、恋人死なせてんだよね」
 その言葉に凌二の目を見つめずには居られなくなった僕。

 恋人を死なせた

 そんな衝撃的なワードが出てくるとは思っても居なかった。
 でも凌二は続けた。
「そいつと真剣に付き合っててさ、同棲したくて、つまり同性婚したくてさ」

 同性婚

 そんな大切な人が居たんだ……と少しショックを受けた僕。
「で、一応さ、親に認めてもらいたくてさ、思い切って実家に連れて行ったんだよ。それが間違いだった。アイツはさ、嫌だ、って言ったんだよ。だけど俺がさ……」
 とても辛そうな表情の凌二。
 僕はとんでもない事を彼から無理やり掘り返そうとしているのか?そう思うと汗が止まらなかった。
 凌二そんな僕には気付いていないようで話を続けた。
「実家に行って、案の定、親父に散々怒鳴られて喧嘩になって…しかも親父がアイツの事まで蔑むような事言い出したから、そのまま二人で実家から逃げるように飛び出してさ」
 認めて貰えなかったんだ、と思うと心が痛んだ。凌二の父親の気持ちも分からないでもないけれど、凌二は理解して貰いたかったんだろうな、と僕は思った。
「アパートに帰るまで、アイツは一生懸命俺を慰めてくれてさ。何とかなるよ、って。そう言ってくれたんだけどな……」
 僕を握る手に力が入る凌二。
「その三日後、アイツ、死んじゃった……」
「え?」
「当時、俺の住んでたアパートの近くに長い階段があってさ、その階段下でアイツが頭から血を流して倒れてた所を通行人が見つけて……でも手遅れで……」
 僕は声も掛けられず、ただ凌二を見つめる事しか出来なかった。
「事故だって警察は言ってた。足を踏み外してバランス崩して落ちたんだろうって……でもさ、あんな事があった後だからさ。あれが原因じゃないかって考えちゃってさ」
 凌二は冷めたコーヒーを一口飲んだ。
「もういいよ、ごめん……辛い事、思い出させて」と僕は言った。
「いや、大丈夫。奏には知っていて欲しいからさ」と凌二は言った。そして続けた。
「そんな事があった街になんて居れなくて、暫くして逃げるようにここに引っ越したんだ」
 そう言えば、そんな事言っていたな……
「そしたらさ、引っ越したアパートの隣人がアイツに瓜二つなんだもん」と凌二は言いながら僕を見つめ返してきた。
「え?」
「奏、アイツとそっくりなんだよ」
 全く考えつかなかった事を言われて、僕は動揺してしまった。
「見た目だけ。性格とかは全然違うけどよ」
 そうなんだ……
「そんなつもり無かったけど、奏とアイツをどんどん重ねてしまって…」
 僕はその人の代わりなのかな……
「でも、最初の頃だけだよ。今はアイツと重ねてなんか絶対してない」
 でも、『居なくなったらどうしよう』とか変な事言うじゃん。
「ごめんな、奏。変な気を遣わせて」

 僕は……

「その彼の代わりなの?」
「何?」
「僕は彼の代わりじゃない!僕は僕だ!僕を愛してくれてたんじゃないの?」
 感情が止まらない。どうしよう。止めなれない。
「愛してるよ。奏を愛してるってば」
「嘘だ!僕は僕なのに……」
 どうしよう、涙も止まらない……
「奏…話すべきじゃなかったのかな?ごめん、取り乱すようなこと一気に言っちゃって」
「じゃぁずっと僕を騙すつもりだったの?」
「そんな……騙してなんかいないよ!何言ってんだよ」
「そんな事があって、簡単にその人を忘れられるわけないだろ!これ以上僕の心を抉らないで!」
「奏…」
 凌二が力ずくで抱き締めてきたから、振りほどこうとしたけれど出来なくて、僕はそのまま凌二の胸に顔を埋めてずっと泣いていた。
 凌二はずっと僕を抱き締めて離さなかった。 

「可哀想……」
 暫くしてボソッ僕がそう呟いた。
「可哀想?」
「その彼が可哀想」
 そう言って僕は凌二を少しだけ睨んだ。でも、どうしても心から凌二を憎めなかった。だって、こんな話になっても、凌二を失いたくない気持ちの方が強かったから。
 何も言わない凌二。
 だから、
「僕だって可哀想。その彼の代わりをさせられてたんだから」と言った。
 すると、
「それは絶対に違う。代わりだなんて、一度も思った事ない」と凌二が否定してきた。
「最初はそうだったって言っただろ」
「違う、俺たちが付き合う前の話だって。余りにも似てたから…ごめん。本当に奏を愛してるんだよ。重ねてた時期なんてほんの少しだけなんだよ、信じてくれ」
 信じるしかないじゃないか、と僕は心の中で叫んでいた。もう凌二をこれ以上疑いたくない。でも少し時間を欲しいと思った。
「凌二、今日は帰ってよ…」
「帰らない」
「僕の気持ちも考てよ!」
 また涙が溢れて声も震えてしまう僕。
「考えてるから帰らない。二度と大切に思ってるヤツを離したくない」
 更にギュッと抱き締めてくる凌二。
「今は一人になりたいんだよ」
「ダメだ。奏は俺の中で唯一なんだ。それに、こんな状況でお前を一人になんか出来ないよ」
 僕の気持ちを知ってか、凌二はそう言ってきた。そんな事言われたら僕は抵抗出来ない。『唯一』だって、言って欲しかった言葉を言われたら、もう僕はさっきまで頭に来ていた事がすっ飛んでしまって。本当に単純バカだなって自分でも思う。
「奏を愛してるから、正直に話した。すぐ理解しろとは言わないけど、分かって欲しい」
「ずるいよ。そんな風に言われたら、僕は凌二を許さないと、って思っちゃうじゃないか」

 どれくらい凌二に抱きしめられて居ただろうか。すっかり日も暮れて、テレビの画面で部屋がほんのりと青白く照らされていた。
「僕はどうしたらいいの?」
「変わらず俺の愛する人で居て欲しい」
「信じていいの?」
「信じて欲しい」
 僕はどうしても、この恋を終わらせたくなかったから、凌二の事をもう一度だけ信じてみる事にした。
「凌二、愛してる…」
「俺も愛してるよ、奏」

 僕にとって初めての恋人との喧嘩、になるのかな?凄く傷付いたけど、凌二も突然愛する人を失って、心の支えを無くして辛かったんだろうな、と思った。
 それから凌二を心から愛してるって改めて気付かされた。そんな10月のある一日だった。
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