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聞き慣れた音
しおりを挟む「こんにちは。驚かせてすみません」
猫になってからの習性で、見えない紐に引かれるように、ニーナと一緒に玄関を出る。
そしたら、三十歳手前くらいの、人の好さそうな顔をした郵便屋さんが、腰を屈めて謝ってきた。
「呼び鈴が壊れているみたいで……。今日は荷物がたくさんあるから、家の中を覗いてしまいました」
(びっくりした~。泥棒かなって思ったよ)
お仕事なのはわかるけど、驚かされたモヤモヤから、ニャーと鳴いて抗議する。
すると、私から目を離さないほど猫好きの郵便屋さんは、顔を赤らめて笑った。
「こんな穏やかな町には、泥棒なんていませんよ。それに、町長と掛け合って、老朽化した道路や水飲み場を直してくれたノックスさんには、町民全体が感謝しています。この屋敷にはみんなが目を光らせて、気にかけているんです。だから何の心配もいりません」
郵便屋さんが口にした『ノックスさん』というのは、ご主人様のことだ。
頭の良いご主人様は弁護士をしていて、町の人には格安で仕事を引き受けている。
まだ若いのに、分厚い法律の本を何十冊も頭に詰め込んでいて、あちこち呼ばれてすごいんだ~。
(ふふ~ん。さすが私のご主人様ね!)
馬鹿な私には、ご主人様のお仕事なんて全然分からない。でも褒められれば、飼い猫ながらに誇らしくて、えへんと胸を張る。
郵便屋さんは、そんな私を見て、気まずそうにコホンと咳払いをした。
顔が赤いから、ちょっと風邪気味なのかもね。
それでも頑張って働いている彼は、きちんとお仕事を進めた。
「こちらが本日のお届け物になります。ノックスさんへの手紙が五通と、自警団のボリス、役場のミック、詩人のオリバーさんからのプレゼントです」
「またプレゼントですか!?そういったものは受け取れませんって言ってるのに、みんなノックスさまのこと、何も分かってないんだから……っ!手紙以外は返品してきてください!」
私の前に出たニーナが、リスみたいにプンッと頬を膨らませて、郵便屋さんに苦情をぶつけた。
うちには色んな人から贈り物が届くけれど、ご主人様はそういうゴマすりが嫌いなのだ。
第一可愛い包装紙ばかりなのが変。それはご主人様のイメージとは違うよ!
(プレゼントなら、ご主人様が喜ぶものにしてよっ!)
私もムムッとしたから、ニーナと声を合わせて郵便屋さんに抗議する。
「えぇ……そう伝えておきます。はぁ……、また町を一周しないといけないな……」
肩を落としながら、とぼとぼ帰っていく郵便屋さんは、ちょっと可哀想だった。
この屋敷の前は舗装もされていないから、徒歩で来てるしね。
ちょっと悪いことをしたな~と思いつつ、ニーナと一緒に家の中へ戻ろうとしたそのとき――
遠くから、前世で聞き慣れていたガタゴトという音がした。
(にゃ?馬車だわ。こんなところに馬車で来るなんて、どんな変わり者かしら?)
「あ……っ、エミリーさまっ」
好奇心に突き動かされて、ニーナの声を背に、土を均しただけの小路を覗きにいく。
そうしたら、なんだか見覚えのある馬車が、屋敷から一軒分ほど離れた、少し広い場所に止まっていた。
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