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幸せな人生だな~
しおりを挟む(うわ~ん!)
今日は猫人生初!嫌な思いをした。
ニーナが毛についた汚れを洗い、獣医が治療に来てくれた後も、私はベッドの上で丸くなり、泣き続けていた。
(びっくりした……痛すぎるよ~)
結局怪我をしたのは手ではなく、爪だった。
治るとはいえ、思いきり剥がれてしまったのだから、あまりにも痛すぎて。気に入らないやつをひっかくときは、自分のためにも手加減しようと、私は心に誓った。
「エミリー。痛かったろう」
ローマンはベッドに腰かけ、私の背中をずっと撫でてくれている。
「僕を守ってくれてありがとう。でももう、こんなことはしなくていいからね」
(そんなの我慢できるかわかんないよ!ローマンが乱暴されるのは嫌だっ。私の目につかないところに行かないで、そばにいてよ~)
優しくしてくれるから、ここぞとばかりに甘えて、彼にぎゅっと抱きついた。
ローマンは、私の言うことがほとんどわかるの。
猫好きにはすごく羨ましい能力持ち~。
けれど、愛猫家とはいえ何でもうなずいてはくれなくて、私を抱き止めたローマンは、困ったように眉を下げた。
「仕事をしないと。君にもっと、良い暮らしをさせてあげたいんだ」
……今でも十分なのに~。
けれど私は人間だったころの記憶があるから、人が生きるためには、お金が必要だということを知っていた。
働くのを辞めてと言えない代わりに、私が譲歩する。
(私を仕事場に連れていってよ。いつも一緒にいたいの。ゲージに入れてもいいわよ、大人しくできるわ。寂しくなったら鳴くから。撫でてくれればいいから~)
ひたすらニャーニャーと鳴き続ける。寂しくて。
ニーナは通いのメイドだから、別の家族がいる。だから今日も、もう帰ってしまっていた。
(一緒にいて。一日でも会えないのは嫌だわ。私の家族は、ローマンだけだもん)
それは人間だったころからそうで、私を気にかけて声をかけてくれるのは、血の繋がらない弟だけだった。意地悪しすぎで、嫌われちゃったけど。
「これからは、毎日必ず家に帰るよ。だから泣かないで。愛してるよ、エミリー」
ローマンは、すがりつく私を抱き締めて、また口にキスをした。
(ニャ~嬉しい~!)
生まれ変わって一番よかったのは、ローマンとの関係がまっさらになったことだ。
猫に生まれ変わったから。まだ何も悪いことはしていないから、彼に愛してもらえた。
(今日は一緒に寝てね。私の毛玉がついても、怒らないでね)
愛猫の調子が戻ってきて、私からもチュ、チュとキスをして、甘えてかかる。
「うん。大丈夫だよ。僕は君に、怒ったことはないだろう?」
……そうかも。たしか人間だったときも、そうだったかも。
ローマンが良い子で、本当によかったよ。
(私を嫌わないでね、いい猫になるから。可愛い猫でいるからね)
今度こそ、くっついてやる。猫の寿命は長くないんだから、それまでは、ローマンの時間をもらうの。彼に恋人ができても、家族ができても、猫の中で一番にしてくれたらそれでいいから。
少し我慢を含んだその鳴き声に、ローマンは、穏やかな微笑みを返してくれた。
「何も気にしなくていいよ。どんな君でも愛してる。これからも、何よりも大事にするからね」
……優しいな~。
人間で、ローマンの姉だったときには、彼は私に笑いかけてくれたことなんてなかった。
けれど、今はいつも優しい笑みを向けてくれる。
(私も愛してるよ!やっぱり猫はすごいね、最高だよ~)
素晴らしい人生だと、家中を駆け回りたい気分だ。
ローマンは、そんなふうに気持ちが高ぶった私の身体をゆるりと押して、ふわふわのベッドへ沈めた。
「今日は安静にしないと。もう寝よう、エミリー。朝までずっと、そばにいるよ」
むぅ~。せっかくローマンが長く一緒にいてくれるのに、眠っちゃうのは、ちょっともったいない気がする。
でも、猫にもね、睡眠は大事だから。
私は彼の言葉に従い、そっと寝る体勢を取った。
ローマンが隣にいて、目を閉じても彼の匂いがする。
(幸せだなぁ……)
前世の私は、そこそこ美人なお金持ちで――でも、幸せじゃなかった。それはきっと、幸せが今生に振り分けられたからだと、今なら思える。
ローマンに愛してもらえる猫になれるなんて、これ以上の幸せは存在しないから。
私は彼の隣で喉を鳴らしながら、神様がくれたこの新しい人生をかみしめていた。
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