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第一章

大浴場へご案内

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「まったく…あんた達と話していると変な汗が出るわよ」
 制服の上着を脱ぎながら私は愚痴をこぼした。
「それでしたら、大浴場に行きましょうか?」
 自然に上着を受け取り、ハンガーに掛けながらアウルは話した。
「大浴場?」
 私はオウム返しに尋ねた。
「そうどすえ~。魔勇者様もここに来てだいぶお疲れのようですし、ここらでひとっぷろ浴びるといいどすえ~」
「三割はあんたらが原因なんだけど…」
 私のツッコミを気に留めることもなくアウルは人の部屋のクローゼットを開けてバスタオル、ハンドタオル、着替えを手際よくまとめ、籠に詰めた。
「それでは参りましょう」
「私の部屋だよねここ?…ていうか、あんたら仕事はいいの?」
「大丈夫どすえ~。本日のメインは魔勇者様へのご挨拶ですし、なにかあっても後輩達に任せてますので~」
 抜け目ないなこの鰻…。
「でもあんた、タオルとかはどうするの?」
「ご心配なく~」
 ウーナは持っていた岡持ちからバスタオルとかを取り出した。もうどこからツッコんだらいいかわからん!

 ―――

「そんなわけでここが魔王城ご自慢の施設の一つ、大浴場でございます」

 自室から歩くこと約五分。私達三人は大浴場に到着した。入口には魔物の文字で『地獄湯』と書いてあった。しっかり男湯と女湯に分けられている。

「この大浴場は魔王城に住む者は基本無料で利用できます」
「履物はこちらの下駄箱に入れるどすえ~」
 二人は親切に説明した。脱衣所の雰囲気は元の世界の温泉のそれによく似ていた。すでに何人か利用客がおり、色んな種族の女性がせわしなく往来していた。メデゥーサが鏡とにらめっこして蛇の髪をセットしていたり、ガーゴイルが体重計に乗って暗い表情を浮かべていたりとなんかすごいファンタジーな光景が見られた。

「衣類はこちらのロッカーにお入れください」
 ロッカーには手首に巻ける紐のついた鍵がついており、盗難対策はバッチリであった。私の隣で鍵のかかったロッカーに針金らしきものを突っ込んでガチャガチャしている猫又がいたが見なかったことにしよう。

「脱いだ衣類を入浴中に洗濯することもできるどすえ~」
 ロッカーの向かい側には洗濯機と乾燥機らしき設備が複数置かれていた。部屋のテレビといい、家電的な道具がずいぶん普及しているわねこのファンタジー世界…。
「うーん…この制服は普通に洗濯したくないのよね…」
 学校の制服は基本、クリーニングに出すものだ。しばらく学校に行けないとはいえ、なるべく大事にしたい。
「あ、それでしたら私が後でクリーニングに出しておきますのでお預かりしましょうか?」
 クリーニングあるのかよ!
「そ、それじゃお願いしようかしら」
 私は脱いだ制服をアウルに渡した。大丈夫かな…?
「大丈夫ですよ。預かるついでに魔勇者様の服をクンカクンカしようなどと考えてはいませんから」
「おい!不安になるようなこと言うんじゃないわよ!」
「まぁ、スーハ―スーハーしようとは考えてはいましたが」
「やめんかい!」
 涼しい顔して何を言うんだこの鳥!

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