異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第二章

竜の洞窟

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「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 洞窟の中に男の悲鳴が響いた。

 私の足元には頭上からの不意打ちを受けて頭部を潰された哀れな犠牲者が転がっていた。学校の体育館程の広さの空洞。目前には洞窟の主として荘厳に佇む巨大な黒竜が一匹と、それに対峙するつもりで各々の武器を構えていた冒険者が六人いた。

「な、なんだこいつは!?」
「どこから来やがったんだ?」
 冒険者達はパニックに陥っていた。無理もない。洞窟の奥にいる黒竜との対決の途中、頭上から謎の侵入者が現れて背後を取られたからだ。正面の黒竜、背後の私という挟み撃ちの形になり、どちらを相手すればいいかわからなくなっていた。RPGならば最悪のボス戦だ。その隙を黒竜も私も見逃すはずがなかった。
 先手を打ったのは黒竜であった。開かれた巨大な口から炎の息が竜の目前に放たれた。炎に呑まれた冒険者は三人。彼らは炎の中で不細工な踊りを披露し、やがて消し炭と化した。辛うじて炎から逃れた冒険者は三人。衣服の一部を焦がしていた。

「二人は竜をやれ!こいつは俺に任せろ!」

 リーダーらしき男が指示を出しつつ、私に剣を向けた。先に倒れた連中とは異なり、この三人は少しはできるようだ。互いに背中を合わせるように陣形を作り、この不利な状況を打破せんと魔力を昂らせた。その意気に応えるように私も刀を構えた。

「グオオオオォォォ!」
 黒竜が二人に向けて威嚇の咆哮をあげた。その風圧に顔を歪めた二人だが、ひるむことなく竜に武器を向けた。その咆哮を皮切りに私は刀を突き出した。
「ぐぅっ!」
 紙一重で致命傷を避けたリーダーは私の刀を打ち払わんと剣を振り上げた。思ったよりその剣撃は重く、私の刀は弾き飛ばされた。

「!…しまっ…!」

 好機を捉えたリーダーは私の頭めがけて剣を振り下ろした。私はすかさず左腕に装備したバックラーをかざし、剣を受け止めた。頑丈な素材と魔法による強化が相まってその防御力はすさまじく、リーダーの剣は粉々に砕け散った。想像以上の砕けっぷりにリーダーは愕然としていた。
 空いた右手を握り、私は敵に思いきり腹パンを決めるとリーダーの口から吐瀉物があふれ出した。一歩引いて吐瀉物を回避し、私はバックラーの裏から短刀を取り出した。

「はあぁ!」

 私は短刀を振りかぶり、リーダーの首を跳ね飛ばした。切り口から血液が噴水のごとくあふれ出し、頭を失ったリーダーは膝から崩れ落ちた。

 黒竜に目を向けると、すでに勝負はついていた。一人は黒竜の爪によって上半身を切り裂かれて下半身のみの姿となり、もう一人は黒竜の左手の下敷きになっていた。

「ふぅ…」
 一息つくと、先程の不意打ちの犠牲者とリーダーから赤い靄が立ち昇り、私の中に吸い込まれた。二人分の命を喰らい、私の力はまたひとつ強くなった。しかし、どこかスッキリしない。初めて戦った時に比べて動きが重く、自分の内側から力が湧いてこない。そんな感じがした。モヤモヤを抱えながら私は飛ばされた刀を拾いに行こうとした。

「ずいぶんと危なっかしい太刀筋じゃのう。小娘」

 だ、誰?
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