異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第八章

だまし討ち

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「いたたた~~…」

「あれは…?」
「山賊…ではないみたいね…?」

 床にへたり込む女性は目の前からやって来た騎士と魔法使いに気が付くと、何かを訴えるかのような目を二人に向けた。
「ど、どうしました?」
 エイルは女性に近づき、声をかけた。
「すみません、そこの方ぁ。ちょっと足首をくじきまして…そのぉ…」
 女性はか弱い声を出した。
「足をくじいた?こんな何もない通路で?」
 マイカは周囲を見渡した。
「そうなんですぅ。奥の方で恐ろしい魔物に襲われましてぇ。愛用の武器も壊されちゃって、命からがら逃げてきたんです…」
 女性は目を伏せながら事情を説明した。
「ご迷惑かと思いますが、よろしければそちらの騎士様におぶっていただいて――」
「『ヒール』」
 話の途中でマイカは女性の足に手をかざし、回復魔法を唱えた。
「…あ?…え?」
 女性は自分の足とマイカに交互に目を向けた。
「はい。これで歩けるでしょ?」
「え?あ?ち、ちょっと…えぇ?」
 なんの痛みもなく立ち上がった女性は目を白黒させた。
「何よ?別に変なところないでしょ?」
 マイカは礼も言わぬ女性に対し、眉をしかめた。
「いやいやいや!え?あなた魔法使いじゃないの?どうして回復魔法が使えるのよ?」
「それがどうしたのよ?魔法使いが回復魔法を使っちゃいけないなんてギルドのルールにはないでしょ?」
「そ、それは…」
 もっともな言葉に女性は反論できなかった。
「それじゃ。私達は行くから。あっちの方は魔物がいないから安全よ」
 マイカとエイルは女性に背を向け、下ろした荷物を拾おうとした。

(くっ…いきなり予定が狂うなんて…)

 パーネは内心歯噛みをした。通路の先で発見した宝と思しき荷物を持った騎士と魔法使い。見たところジェレミィの手の者ではない。さしずめ、マリーカ地方辺りからやって来た冒険者であろう。怪我をした装いをして騎士におぶってもらい、その首を掻っ切る。そのままもう一人の魔法使いも魔法を使う前に刺し殺して荷物を奪う。そういう算段を立てていた。
 しかし、この仮面の魔法使いが回復魔法を使うとは完全に予想外であった。猟兵になる前、一時期冒険者ギルドに所属していたことがあったパーネであったが、僧侶以外の冒険者回復魔法を使うなんて話は聞いたことがなかった。使うとすれば会ったこともない『勇者』か『賢者』くらいのものだ。しかし、目の前にいる二人はそのどちらでもないようであった。

(こうなったら…)

 この二人が何者かはわからない。しかし、このまま手ぶらで帰るのは気が済まない。次の一計を案じたパーネは懐に忍ばせた短剣の柄を掴み、ゆっくりと二人に近づいた。
 しかし、魔法使いの背中に狙いを定めた途端、足首に衝撃が走り、天地がひっくり返った。

「え…ぐはっ!」

 何が起こったかわからぬままパーネは背中から床に叩き付けられた。一瞬真っ白になった視界を取り戻した時にはすでに彼女の目前に戦斧と杖が突き付けられていた。
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