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第305話 エメラルドの約束4
しおりを挟む──翌朝。
ガバッと、私は起きる。
「星……あ、寝ちゃったんだ」
少し勿体なかったな。
と、私はションボリする。
起きると既に兄さんの姿は無い。
畑に行ったみたいだ。
「兄さんの手伝いに行こうかな」
そう考えた私は畑へ向かう。
兄さんの畑では──とうもろこし、麦、トマト、きゅうり、ナス、妖精の花を作っている。
でも、取れた作物の9割を土地代として持っていかれる。法外だと思う。
私たちは残りの1割を売って生活している。
生活は渇々だ。
売り物にならない傷付きの物や小さな作物──
所謂、省きはよく家の食卓に並ぶ。
兄さんの野菜は美味しい。
省きでも何でも味はそんなに変わらない。
「リョク兄さん、おはよう!」
畑を耕す兄さんに私は声をかける。
「おはよう、エメレア、よく寝れたかい?」
「うん、ぐっすり」
快眠だった。いい夢も見れた気がする。
「そうだエメレア、この後、朝に取れた、野菜を地主さんに持っていった後に、残りの野菜を街に売りに行かないといけないんだけど、一緒に来るかい?」
「うん、行く、手伝うよ」
「おや、散歩がてらと思ったんだけど。それならお言葉に甘えて少し手伝ってもらおうかな?」
そういうつもりじゃなかったんだけど。みたいな兄さんの少し困った表情が、少し可愛く見えた。
背負籠いっぱいに取れた野菜を二人で運ぶ。兄さんは背負籠の他に、竹で作られた長方形の野菜籠を両手で持つ。
物欲しそうな私を見た兄さんは「お駄賃にはならないかもしれないけど、他の人には内緒だよ」と言って籠から出したトマトを1つくれた。
瑞々しくとっても甘くて美味しいトマトだ。
この時に食べたトマトの味は今でも覚えている。
「兄さん、トマト凄く美味しかった、ご馳走さま」
本当に美味しかった。
何だか売っちゃうの勿体ない気がする。
「それはよかった、本当はお腹いっぱい好きな物を食べさせてあげたいんだけどね……ごめんね、エメレア」
「兄さんが謝ることなんて無い。私、今幸せだよ!」
お金が無い、いいじゃないか別に。
最低限、私と兄さんはこうして暮らしていける。
それだけで十分だ。考えたくも無いけど、もし私が兄さんを失ったりでもしたらどうなるか分からない。
「エメレア……私も、私もだ、私も幸せだよ」
嬉しそうに、そして本当に優しく微笑む兄さんの顔を見て、私も自然と笑顔が溢れる。
「でも、私もエメレアをしっかりと育てなきゃいけない兄としての義務がある。できる限りは美味しい物を、毎日お腹いっぱいじゃなくても、空腹にはならないように。私の夢だよ。その為にはもっと私も頑張らなきゃね」
「うん、私も頑張る!」
私が大きくなったら、必ず兄さんを楽させてあげる。私もお金を貰えるように働いて──
この日、私に小さな夢ができた。
でも、小さくても私にとっては大切な夢だ。
いつか叶う時を信じて私は拳を小さく握った。
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