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第368話 納豆

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「いや、バカップルじゃねぇよ」
「いやいや、何処からどう見ても、正真正銘のバカップルです。本当にありがとうございました」

 ペコリと丁寧に頭を下げるシナノ。

「バカの前にカップルじゃないしな」
「……は? 付き合ってない?」
「え、うん。付き合ってないが? どうした?」

「いやいやいやいやあり得ませんよ。私、お二人のこと若夫婦だと思ってましたから! というか、付き合ってすらいないのは流石に信じられませんよ!」
「? クレハには一緒に旅をして貰ってるだけだが」

「ダメです。話になりません。え? クレハさん、どういうことですか? 本当に付き合ってない?」
「あ、はい……付き合ってないです……」

 何でクレハは目に見えてテンション下がってんだ?

「いいから早く納豆食えよお前」

 納豆片手に俺とクレハが付き合ってるの付き合ってないのと論議するシナノに溜め息混じりに話かける。

「誰にでも、得手不得手はあるんですね。少し安心しました。馬のエサ……納豆でしたか、いただきますね」

 うう……粘粘してる……と、引き気味のシナノは「えーい、ままよ!」なる言葉と共に納豆を口に運んだ。

 ピンクの唇の内側で納豆ごはんをモグモグとしてから、シナノの目がピカッと光った気がした。
 二口、三口とスプーンを進めていくシナノは数分後には皿が空になっていた。終いにはクレハの分まで「食べないならください」とか言って食べてたよ。

「……納豆、美味しいですね……というか、馬って私よりも美味しい物を食べて生きてたんですね……」
「そう言われるとフォローのしようが無いな」

 シナノの主食食パンの耳や雑草と納豆、どっちが栄養価が高いかと言われても火を見るよりも明らかだ。
 まあ、納豆が嫌いな人も結構いるけどな。

 その後、食器を近くの湧き水で洗うと、シナノがジト目で話しかけてくる。

「単刀直入に聞きますが、ユキマサさん、クレハさんの気持ち気づいてます?」
「まさか……さっきの納豆が実は不味かったのか!?」

 やっべー、それは悪いことをしたな。
 気を使ってくれてたのか?

 でも、美味いって言ってくれた時の顔は嘘を付いてるとは思えなかったが、シナノの女の勘て奴か?
 そうなってくると俺は分からないな。

 家も買ったし、少し財布のヒモを締めていかないとなと思っていたが──連日になっちまうけど、クレハにお詫びとして肉でも食べさせてやるか……
 それで埋め合わせになれば安いもんだ。

 てか、あれ? 何でシナノは呆れ顔なんだ?

「おい、お前ら。昼は抜きだ」
「どうしたの? 何かあった?」
「そ、そんな、話が違います」

「まあ、聞け。昼を抜き、夜を豪勢にしよう──って言っても、また肉なんだが、それでもいいか?」
「私は大歓迎かな。お肉なら毎日三食でもいいし」
「肉とあらば昼食を我慢することなど私には容易いことです! 私も毎日三食お肉でもいいです!」

 目を輝かせる二人、まあ、肉って美味いもんな。
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