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第369話 粋
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街を歩いていると、黄色いリュックと黒い海軍帽子みたいなのを被った小さいプテラノドン(?)が現れる。
黄色いリュックには筒上にクルクルと丁寧に丸められた新聞がたくさん入っていた。よく見ると首には木製の募金箱のような箱を吊り下げている。
「あ、ニュースプテラだ。一部ください」
「聞屋か、このプテラノドンは」
聞屋、略さず言うと『新聞屋』だ。
クレハが銅貨2枚を募金箱(?)いや集金箱か。に入れ新聞を受け取る。つーか、知能高いなプテラノドン。
「ちょっと読んでいい?」
「おう、何か情報あれば教えてくれ」
「私も聞きたいです。私の新聞情報は誰かが捨てたのを漁るので、約3日遅れが基本なので最新情報はありがたいです。ニュースプテラにはよく睨まれますが」
浅い路地に入り、クレハを真ん中にして新聞を見ていると、クレハが驚いた声をあげる。
「あ、凄い! 新しい通信石の生成に成功だって!」
「通信石って〝天聖の遺産〟じゃなかったか?」
「うん、その仕組みが解明されて量産されるみたい」
ほーう、ついに異世界にも通信システムが一般的に実装か。科学で言う所の電話だな。
でも、電話は便利だ。今の日本じゃ携帯電話を持ってない人のがレアだしな。文明だよな、あれ。
「付与魔法の応用みたい。制作者はジューリア・クーローさんみたいだよ。聖教会の」
「ああ〝聖女〟か、俺の事を先輩様とか呼んできたから、よく覚えてる。どんな呼び方だよ。本当によ」
あと、ミリアの恩人。余談で〝二つ名持ち〟だ。
「お二人は〝聖教会〟の聖女様と知り合いなんですか? ユキマサさんの方は意味が分かりません。何ですか? 先輩様って呼ばれてるって?」
「私はこないだの〝魔王戦争〟で会ったことはあるけど詳しく話した事は無いかな」
新聞を読みながら話すクレハが次のページを捲ると小さく声を出す。
「あっ……」
それは紛れもない俺の記事だ。
シリュウと俺の手配書がまんま書かれている。
勿論、念写とやらの白黒だが写真付き。
じー。っと。
その記事を横からシナノが目で追っている。
(あー、これは誤魔化せないな)
「えーと、何だ、シナノ……?」
「興味ありませんよ」
真っ直ぐに新聞を見るシナノは本当にどうでもよさそうに呟く。
「──ッ……いいのか? 金貨1万枚の好機だぜ?」
「興味がないと言った筈です。はぁ……まあ、私はお金が好きです。人生の7割はお金だと思っています」
表情はあまり変えず淡々と話すシナノ。
「ですが、私はちゃんとしたお金が欲しいんです。誰かを陥れた汚いお金は私には不用です。私には貴方が金貨1万枚も付けられるような悪いことをする人間には見えません。何より私は私の目を信じます」
付き出したりしません。安心してください。
とシナノは言った。少し嬉しそうな顔で。
金貨1万枚です! これで勝ち組です! 何てシナノなら言いそうだなと考えてた自分が恥ずかしくなる。
「さて、夕飯は今日もお肉を食べさせてくれるんですよね? お腹が空いてきました。早く帰りましょう」
一歩、二歩、三歩、と前に歩くとピタッと止まり、くるりと振り返ったシナノが笑顔で言う。
「ああ、とっておきの肉を腹一杯食わせてやるよ」
ニヤリと俺は笑う。粋な対応をしてくれたシナノには俺が持つ最高級の肉で礼をしよう──
そう俺は心に決めるのだった
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