摘んで、握って、枯れて。

朱雨

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イベリス

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現在日本の季節は夏である。


「あっちぃ……」


誰にも聞こえない声は教室の中に響き渡る。
今日は今年1の暑さらしい。
首筋を渡る汗が非常に気持ち悪い。


「あれ、朝倉あさくら?」


授業中だというのに教室の前を通りかかった友人が話しかけてくる。


「何だよ。てか、授業は?」
「先生が忘れた世界地図取りに行くとこだよ。朝倉こそ授業は?」
「あー……」


別にサボっているわけではない。
ただ朝倉にも色々あるのだ。


「まあ、体調不良」
「暑いもんねー。そんな朝倉にはいいものをあげよう!」


友人はズカズカと教室に入ってきて、朝倉の目の前に手を差し伸べる。
素直に朝倉は手を差し出す。


「塩分大切だからね。じゃあ、行くわ~」


朝倉の手のひらには塩レモン味のタブレットが乗っていた。


「ありがとなー」
「おうよー!」


教室を出ていく友人の背中を見届けてから、タブレットを机の上に置いた。
再び教室に静寂が訪れる。
聞こえるのは、蝉の声とどこかの教室で授業をする教師の声と、自身の心臓音。


「ぐっ……!」


息が苦しくなる。
何かが喉から湧き出てくるような感覚に陥る。
否、実際に異物が喉の奥から湧き出ている。


「ぅ……がは……っ!」


湧き出てくるものを飲み込むことができず、吐き出してしまう。
白かった。
嘔吐物は白く、美しかった。


「……はぁ……、またか……」


朝倉は嘔吐物を見ると本当に憂鬱な気分になる。
白い嘔吐物の正体はイベリスだ。


「なんなんだよ……。くそ……っ!!」


憤りを隠せず、床を思いっきり踏んだ。

初めに症状が現れたのは1週間前の起床時である。
その時は少し喉が乾燥してるだけだと思っていた。
しかし、1階からの母親の声に返事をしようとすると、言葉が出るよりも先に花弁が散った。
朝倉は怖くなり、部屋にあった適当なプリントに包んでゴミ箱に捨てた。

今日も吐き出したイベリスを全て拾い上げ、プリントに包んでゴミ箱に捨てる。
この謎の病のことを誰にも知られてはいけない気がして、彼は誰にも相談することができないでいる。
笑われるかもしれない。
馬鹿にされるかもしれない。
物好きに解剖されるかもしれない。
あらゆる可能性に恐怖を感じ、今の現状を保ち続けている。

先程貰ったタブレットを口に放り込み、天井を見つめる。
すると、天井から何かが降ってきた。


「なんだこれ」


どうやらそれは朝倉宛の手紙らしい。
机に着地した封筒を開き、手紙を読む。


《朝倉柊太様へ
 いかがお過ごしでしょうか。
 現在貴方を悩ませている病気は"花吐き病"と呼ばれる奇病です。
 医療による治療は不可能であり、以下の指示に従ってください。

 花の種類:イベリス
 病気になった原因:自分を欺き続けたため
 唯一の治療法:周りの人間を恨むこと
 花を吐く際の応急処置:水の中に一定時間入ること
 治療の結果:完治はするが軽度の後遺症が残る
 処置をしなかった場合:数年後に涙石病を併発する

 完治ができることをお祈り申し上げます。》


「はは……。こんなのを信じろって……?」


この情報を受け入れるほど朝倉には余裕がない。
そのため、信じるべきか否か、正しい判断ができない。
しかし、花の種類は朝倉自身がネットで調べたものと同じ名前である。


「まあ、信じるしかないよな」


諦めたように、急にその情報が正しいものであると判断することにした。
今の彼には信じることしかできない。


「いや、てか、涙石病ってなんだよ」


奇病に奇病を重ねることはどのような状態なのか、自分を欺き続けたとはどういうことか。
自身のことを十分に理解できずにいる朝倉は大きな溜め息をついた。


「夢なら早く覚めてくれよ……」


教室にはほんのりイベリスの花の匂いが漂っている。










・朝倉柊太(アサクラシュウタ)
・16歳(高校2年生)
・花吐き病→イベリス
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