摘んで、握って、枯れて。

朱雨

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花火

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ラムネ瓶越しに見る街灯や提灯は1層輝いて見えた。
自分も瓶の中にいる。そう錯覚してしまう。
ずっとこのままでいたい、とも思う。


「うわっ! 失敗した!」


ラムネ瓶のビー玉を勢いよく押すと、甘い泡が溢れてくる。
その手を払いながら、瓶を口に触れさせる。


「朝倉はどんくさいな」
「確かに」
「これぐらい許容範囲だろ」


田中と佐藤は朝倉の失敗を見逃さなかった。


「久しぶに飲むと美味いな」


キンキンに冷えたラムネは口の中で弾ける。
子供の頃に見ていた夢のような味だ。


「んぐ……っ!」
「佐藤もじゃねーか」


朝倉は佐藤の失敗を指摘する。
佐藤の口端から流れ出るラムネは首筋を通り、浴衣に染み出す。
流れるラムネを舐めるように田中は佐藤の首筋に口付けをする。
間違っていると分かる景色は見慣れていて、2人の関係を説明している。


「公共の場でイチャつくなよ。目線集めるだろ」


朝倉は冷静にツッコミを入れる。
自分でなくてよかった、など考えるようにする。
下手をしても自分もそうしてほしいとか思わないようにする。


「だよなぁ。くすぐったいだろうが」
「すまんて」


朝倉は田中のことがもっと分からなくなる。
武田と水に入ったことを怒る理由も、最近他者と関わることに対して不信感を抱かれる理由も分からない。
花吐き病のことを伝える義理は無いのではないか、などとも考えてしまう。

ああ、だめだ。
このままじゃだめだ。

そんなことを思いながら、平然を装う。


「たこ焼き美味いな」


お互いに買ったものを食べて、笑い合って、はしゃぎ合う。
あっという間に花火が始まる時間になる。


「俺らも行くかぁ」
「だね」


食べ終わってから屋台を見て歩いて、同じクラスメイトが出ている踊りを見て、花火会場とは反対側に歩いていた。
そのため、すれ違う人々が少なくなってきた。


「花火1年ぶりだね」
「まあ今年最後の花火でもあるしな」


花火会場に近づくにつれて人が多くなっていく。
迷子にならないようにと、田中と佐藤は手を繋いでいる。
朝倉はその後ろを一生懸命に着いていくが、途中でその足を止めた。
2人の背中はどんどん離れていき、朝倉はそれを黙って見つめていた。


「ふぅ……」


朝倉は息を吐く。
そして田中と佐藤とは違う方向に足を進める。
途中佐藤から電話が掛かってきたが、人が多いので花火が終わってから合流しよう、と提案して、そうすることにした。

花火が始まる。
花火が始まった瞬間、騒がしかった会場が一瞬静まる。
みんな花火に目を奪われた。


「でけぇな」


夜空いっぱいに輝く火花は綺麗であり、儚く消えていった。

『植物状態』

その単語が頭を過ぎる。
そして思い浮かぶ顔は武田秀一郎のものだった。


「あれ? 朝倉?」


花が開花する音は周りの音を聞こえなくする。
しかし、朝倉の耳にはその声が聞こえた。


「ん? どなたですか?」


朝倉が少し長いまつ毛を揺らしながら後ろを振り向くと、今想っていた人物が立っている。


「武田じゃん。彼女と?」
「なわけ。友達とだよ。そういう朝倉は?」
「俺も友達だよ。でもはぐれちゃった」
「佐藤と田中か」
「そうそう。まあ、この花火終わったら合流するけどね」
「あーね。てか、浴衣にあってる」
「あー、まじ? あいつらも着てるよ」
「見に行くかぁ」
「じゃあ一緒に行こ」


自然と隣に並んでくる武田は花火を見上げる。
朝倉は友達はどうしたんだ、と思いながらも次々打ち上げられていく花火を見上げる。


「わざと?」
「何がだよ」
「あいつら2人っきりにしたの」
「さぁな。人も多かったし、はぐれたんだよ」
「そうかよ」


笑いながら話す。


「花火って授業より集中して見れるよな」
「ちょっと分かる」


今年最後の花火を見終えると、さっさと集合場所を決め、その場所に向かう。
その間、武田は朝倉と他愛もない会話をする。
そうしているうちに待ち合わせ場所に到着する。


「武田も一緒だったんだ~」
「よっ、佐藤。佐藤も田中も浴衣似合ってんね」
「ありがと! 朝倉が1人だったらどうしようって心配してたんだよ」
「そっか。じゃ、俺はお前らの浴衣姿見れたから戻るわ。学校でな~」
「武田、ありがとね」
「全然大丈夫だよ」


最後に朝倉と言葉を交わし、武田は友人たちのところへ戻って行った。
田中はまだ口を開かなかった。
それは朝倉が合流したことが原因か、武田も一緒だったことか、何も分からない。


「ごめんなー。ちゃんと2人の背中見てたつもりなんだけどさ」
「俺に掴まってればよかったのにな」
「ごめんて、田中」


原因は分からないが、やはり田中は機嫌が悪いみたいだ。
空気を読んだかのように佐藤はまた提案する。


「最後は甘いの食べて帰ろー」


俺らはチョコバナナを買い、帰路に着きながら食べた。

秋の虫が鳴き始める。
少し肌寒いと思う。
夏祭りは夏と秋の区切りのように感じられる。
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