僕は傷つかないから

ritkun

文字の大きさ
6 / 41
僕は傷つかないから

6

しおりを挟む
「僕が無理に頼んだんだよ。それでも僕の家、ポラロイド、服は脱がないって条件をヨコさんから付けてくれたんだよ。ヨコさんは良い人だよ!
 それに!」
 子供扱いされたことはショックだけど、子供じゃないもんとは言えなかった。根拠がない。

「それに?」
 言えない。カニちゃんに振られて弱ってる今、色っぽくしたらその気になってくれるかもと思ったなんて。写真じゃなく生の僕がこんな格好してても保護者の態度。終わった。

晃輝こうきさんを誘惑したかったそうですよ。
 カニちゃんに振られた今なら自分を見てくれるかもって」
「ヨコさん!」
 ヨコさんは自分の荷物をまとめ始める。
「よく話し合って下さい。せっかく話せる距離にいるんだから」

 バッグを肩に掛けて霧吹きを手に持って、ヨコさんは部屋を出かけて振り返る。
「戸締りして下さいね」
 僕を待たずに部屋を出て、ドアの音が聞こえた。きっと二人にならないようにしてくれたんだ。

 鍵を掛けて戻ってくると、コウちゃんはソファに座って下を向き、祈るように組んだ両手を額に当てている。その横にはさっきまでしっかり締められていたネクタイが無造作に置かれている。

「俺がカニちゃんに振られたって思ったのはなんで?」
 なんでバレたのってこと?違うのにってこと?
「先週の撮影の時、微妙な空気だったでしょ?
 告白して『友達だよ』って振られたあとみたいだなって」

 コウちゃんは顔を上げない。
「喧嘩して仲直りしただけだよ」
 ヨコさん凄い。
「喧嘩したの?コウちゃんとカニちゃんが?なんで?」

 コウちゃんはため息をついて息を吸って一瞬止まってから話し始める。
「喧嘩じゃないな。
 カニちゃんはさ、俺より後から入って来たのに俺より先に主任になったんだよ。今までそれをどうこう思ったことは無かった。
 でも俺も主任になれるかもってなって忙しい時に『玄樹げんきのために頑張ってるのに玄樹げんきに寂しい思いをさせたら意味がない』っていう意味のことを優しく言われて……八つ当たりしたんだ」
 そこまで言って体はそのままに少し顔を上げた。

 主任になるのが僕のためなの?って訊きたかったのにコウちゃんの方が早かった。
「っていうか、そもそもなんで俺がカニちゃんを好きって前提なんだよ」
「最初の撮影の時に『チューして』ってやったカニちゃんを凄い目で見てたから」

 コウちゃんはまた顔を隠してしまった。
「あれは怒ってたんだよ。『俺の玄樹げんきに何やらすんだ』って。
 とりあえず服ちゃんと着て、髪も拭けよ」

 『俺の玄樹げんき』!いつもこういう時は『うちの子』って言ってたのに!
 正面に膝をついて、祈っているようなコウちゃんの両手首を掴んでほどく。それでもコウちゃんは顔の位置を変えない。
「いいから服着ろって」
 顔を覗き込もうとして目がいったのは顔よりも。
「コウちゃん、反応してくれたんだ」
「……ごめん」
「なんで?嬉しい。こうなってもらいたくて頑張ったんだもん」

 僕に掴まれているままの両手で僕の肩を押す。
 撮影のために動かしてなかったらローテーブルにぶつかってたけど、そこに無いから押したんだろう。尻もちをついて離れた手で、コウちゃんはまた顔を隠してしまった。

「なってるよ!ずっと前から!一生懸命我慢してるのになんで邪魔するんだよ!」
 なってたの?全然気づかなかった。っていうかなんで。
「なんで我慢してたの?」
「お前未成年だろ!10歳上の俺がそういうことしたら犯罪なんだよ!」

 我慢してた理由ってそれだけ?
「法律が禁じてるのは『未成熟に乗じた不当な手段により行う性行為又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為』だよ」

 コウちゃんがさっきより顔を上げる。
「…………どういうこと?」
「警視庁のホームページで調べたんだ。『真摯な交際関係にある場合は除かれます』って書いてあった。
 コウちゃん、僕としたくなったのって遊び?」
「そんなわけないだろ!」
 食い気味に即答してくれて口元がほころぶ。

 コウちゃんの膝に手を置いて顔を見つめる。
「根本的な権利として性的自己決定権っていうのがあるんだって。処罰されるのは青少年が苦痛を感じるような、育成を阻害するものだけ」

 コウちゃんの膝を少し開いて近づく。
「ここで拒まれた方が僕はショックだよ。
 コウちゃんとなら僕は傷つかないから」

 コウちゃんの肘より少し上を引き寄せるように掴む。
「このまま押し倒して」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

処理中です...