僕は傷つかないから

ritkun

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うちの子は傷ついていた

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 そういえば玄樹げんきが年下と絡んでるところを見るのは初めてだ。たった2歳の差でも相手は先月まで中学生で、しかも玄樹げんきよりも頭ひとつ以上小さくてヤンチャだから年下感がすごい。玄樹げんきが子猫の世話係を受け入れている大型犬みたいに見える。

 玄樹げんきと知り合ったばかりの人はどことのハーフなのかとか家のことを訊いて玄樹げんきを困らせることが多いけど、石黒くんはそういう話には触れない。玄樹げんきが傷つかない限りは間に入ることはしないでおく。

 石黒くんはヨコと同じ施設で育った子で、引っ越し先が社宅の近くでよく遊びに来ている。やけに玄樹げんきに懐いていて4人で過ごすことが多い。

 最近は玄樹げんきにだけ相談したいことがあるようで、俺は気を利かせてヨコの家で待っていることも増えた。
 正直ちょっとモヤっとしている。俺を追い出したい空気が見え隠れしているし、玄樹げんきと2歳しか違わないし、若干M気味な玄樹げんきにはあれくらいヤンチャな方が似合う気もするし。

 今も二人は玄樹げんきの部屋で、俺はヨコの部屋で昼食の準備中。今日はヨコのリクエストでお好み焼き。
「キャベツは朝のうちに準備しておきました。
 1回目が焼きあがったら呼びましょうね」

 ヨコが手際よく生地を混ぜる。あとは焼きあがれば呼べるじゃないか。
「腹減ってるの?
 二人が話す時間そんなにないんじゃないか?」
 俺は嬉しいけど。

 ヨコこそ悩みがあるような顔。
「うーん、仁士ひとしってそんなに悩むタイプじゃないんですよね。むしろ思い込みで突っ走るタイプなんで、あんまり玄樹げんきに子守りを押し付けても悪いから」
「高校の話を聞きたいんじゃないか?」
「施設にも高校に行ってる子いますし、その子たちとも仲良いですよ」

 ホットプレートに生地が流された音とは対照的に、心臓が冷たく固まる感じがした。
玄樹げんきのこと……好きなのかな」

 ヨコが不思議そうに俺の顔を覗き込んできた。
「なんでショック受けてるんですか?
 俺がセクシーショット撮ろうとした時はあんなに怒ったのに」
「それはやらされてると思ってたから。でも石黒くんのことはかわいがってるし楽しそうだし、歳も近いし……」

 ヨコが小さくため息を吐いた。
「俺は涼子さんのことが好きでした」
 ここで涼子さんって言ったらあの人しかいないよな。俺の前に主任をしていて、自分の店を出すと言って退職した人。急になんだ?

「他の人に言ったことないんですけど、涼子さんも同じ施設で育ったんですよ。棟が違ったんで殆ど話したこと無かったけどその時から憧れてました。会社では施設のこと隠してるっぽかったから話し掛けないようにして、時々会えるだけで十分だって思ってました。
 俺は中卒だし5個下だし相手にされるわけないって。

 でもお店を出すって辞めてから副社長経由で手紙を貰ったんです。
 俺たちの棟は仲が良くて羨ましかった、地味な自分のことなんて憶えてないだろうし、5歳も上に言われても困るだろうけど元気な俺に憧れてた、今は恋人のことが本当に好きだけど俺のことを好きな時があったって。

 恋人とは俺と再会したことを相談してるうちに仲良くなったそうです。決めつけないでちゃんと話してたらって思ってもやり直せないし、さよならで終わる手紙だけ後から渡されたら返事もできない。

 ちゃんと話した方が良いですよ。せっかく話せる距離にいるんだから」
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