僕は傷つかないから

ritkun

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うちの子は傷ついていた

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 お好み焼きを食べて片付けをして二人で玄樹げんきの部屋に戻ると、玄樹げんきが急に抱きついてきた。甘えてるっていうだけじゃなくて不安だったっていうか、悲しそうっていうか。

 俺が右腕をしっかり腰に回して左手で背中をぽんぽんすると更に頬を俺の頭に擦りつけてきた。
「なんかあったのか?」
「ううん」

 今までならここで「そうか」って言ってたな。でもヨコの寂しそうな悔しそうな顔と声が胸を締め付けて違う言葉が押し出される。
「言わなきゃ分かんないだろ。
 じゃあ俺から先に、言わないと分かってないだろうなってこと言っとこうかな」

 玄樹げんきの体が一瞬だけ数ミリ離れて、また縋るようにくっつく。
「……なに?」

「友達ができたのは嬉しいけど実はちょっと妬いてる」
 玄樹げんきが肩から上だけ離れて、意外そうな顔で俺を見る。
玄樹げんきは石黒くんみたいに引っ張っていくタイプの方が合ってるのかなって不安もあるよ」

 言い終わらないうちに凄い勢いで抱き寄せられて、ドア側にいた俺と立ち位置が入れ替わる。靴も脱がないままなのに俺が痛くないようにそっと押し倒されて、胸におでこを押し付けられた。
「嫌だった」

 『だった』?
 右手で玄樹げんきの後頭部を包んで左手で体を起こす。
「何かされたのか」
 玄樹げんきは自分でも俺にしがみついたままで首を振った。

「壁ドンされただけ。でも『近いよ無理』って思った」
「壁ドンってなんで……。あいつやっぱり」
 あいつにその気があるって不安や玄樹げんきに迫った怒り、玄樹げんきが拒んだって安心が混ざって左手でも玄樹げんきを抱きしめる。

 玄樹げんきがもう一度首を振った。
「いつも俺といたがる割に二人の時不自然だなって思ってそれとなく言ってみたんだ。そうしたらヨコさんとこうちゃんを二人にしたいって。その時の俺の反応でこうちゃんへの気持ちに気付かれて、『俺が忘れさせてやるよ』て壁ドンされた。本当はヨコさんのことが好きだけど慰め合おうって」
「なんだそれ」

 意味が分からない俺に玄樹げんきがちゃんと説明してくれる。
「石黒くんは色んな情報をバラバラに聞いてヨコさんがこうちゃんを好きだと勘違いしてたんだよ。ヨコさんが好きなのはこうちゃんの前の主任だよって教えてあげた」
 知ってたんだ。

 俺がさっき知ったことは普通に流して玄樹げんきが続ける。
「石黒くんはうっかり誰にでも話しちゃいそうだから、俺たちが付き合ってるって言えなくて。それで黙ってたら、こうして二人でいても気にしてないんだから望みないよとか言ってきて、そんな気がしてきて……」
 小さかった声が更に小さくなっていった。
 押し付ける力の弱くなっていった頭を抱きしめ直す。
「気にしてないんじゃなくて直視できなかったんだよ」
 玄樹げんきはまだ力が戻らない。
「石黒くんが『二人になりたい』って言うと『俺はヨコの部屋にいる』ってあっさり言うの、正直いつもちょっとショックだった。
 また興味を無くされたのかなって」

 『また』って? 両親のことか?
 そうだ。両親のことは吹っ切れていると口では言っていても、無意識の深い部分についた傷は簡単には癒えない。
 石黒くんが玄樹げんきを傷つけないかなんて心配してる場合じゃなかった。俺が何もしないことが玄樹げんきを傷つけていたんだ。

 玄樹げんきの両脇に手を入れて俺の口元に耳がくる高さにする。
「今日は素直に話をしよう」
 これだとただの話し合いだと思われるかな。
「『俺の玄樹げんき』に、確認したいことがたくさんある」

 玄樹げんきがはにかむように俯いた。
「準備してくる」
 よかった通じた。
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