僕は傷つかないから

ritkun

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僕は大人になったから

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 持田さんにも伝えたら僕のせいじゃないんだから謝らないでいいと笑ってくれた。

 それでいつものようにヨコさんと石黒くんとこうちゃんとお昼を食べていたら、すでに彼女の夫となった人から長々とメールが来た。

 彼女は日本語が苦手で今でも簡単な会話しかできなくて、僕に笑われるんじゃないかっていう緊張のせいで体調不良になった。彼女のプライドを傷つけないように、語学力に気付かない振りをして見送りに来てほしい。要約するとそういう内容だった。

 その画面を開いたままこうちゃんに渡す。
「うーん」
 行きたくないって気持ちのままに出た溜息みたいな声が出て、目が合ったヨコさんの言葉を思い出す。

 話せるうちにちゃんと話した方が良いってヨコさんは言ったし、その言葉に僕たちは助けられてきた。
「行くよ。話せる距離にいるうちにちゃんと話さなきゃだもんね」
 どんなメールが来たのかまだ知らないヨコさんにこうちゃんが説明する。
「彼女の機嫌が良くなる見送り方をしに来いだってさ」

 ヨコさんよりも先に石黒くんが反応した。
「は?
 そんなんの言いなりになんの?」
「『せっかく話せる距離にいるんだから』ってヨコさんの言葉に僕たちは助けられてきたから」
「鵜呑みのゼロ百かよ」
仁士ひとし

 たしなめるようなヨコさんの言葉にも石黒くんは止まらない。
「通じないかもしれなくても、イヤな思いで終わるかもしれなくても、それでもどうしても言いたいことがあんのかよ」
 石黒くんは顎と目線で僕のスマホを指した。
「そいつらに」

 言いたいこと。
 離婚の時は何も無かった。二人を前にしても何の感情も湧いてこなかった。でも今は訊いてみたい気もする。年明けにクリスマスブーツのお菓子をくれたのか、スフラッポレを作ってくれたのか。それと同時に訊いてどうするのって気持ちもある。10歳の子供を家に残して用が無い限り帰らなかったのは事実だ。

 そして恋人はそんな彼女をそのままにした。毎日家に泊めて、20年近く日本語を教えず、離婚の時は必要な書類を用意して規定の100日を待たずに再婚した。

 日本に馴染めなくて辛かったのかもしれないから恨んではいない。ただ僕たちに繋がりを感じないだけ。離婚の時に言ったことが全て。家を処分しないで毎月お金を振り込んでくれたこへの感謝だけ。こうちゃんとこうなれたことも両親が放置したことがきっかけなだけで、僕がこうちゃんとこうなれるようにって放置したわけじゃないし。

「俺が言ったとか仁士ひとしが止めたとかじゃなく、どんな結果になっても誰のせいにもしないって方を選んだ方がいいよ。それが本当の自分の気持ちだから」
 ヨコさんが僕のグラスにお水を足した。
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