僕は傷つかないから

ritkun

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大人になったうちの子へ

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 ネックレスに二つの指輪を通したのはあの日だけ。仕事柄アクセサリーが禁止だから平日は二つとも俺の家に置いてあって、休日は俺だけ指に嵌めている。

 しばらくは楽しめると思っていたんだけどな。指輪を持っていたいと直接かわいく言ってくるだろうか、あの手この手で仕掛けてくるだろうかと対策をシミュレーションしていた自分が恥ずかしい。玄樹げんきは指輪を俺が預かっていることに一度も不満を言ってこない。休日のたびに俺の薬指を見つめる玄樹げんきの表情がギリギリのところで俺の不安を落ち着かせてくれる。

 玄樹げんきは頭も良いし責任感も強い。ファンだと声を掛けてくる人が連れている子供への対応も評判が良い。大人になって、甘えるよりも甘やかす方が性に合ってると気付いたって可能性は十分にある。

 年下への対応を抜きにしても撮影現場でもどんどん大人びてきたと評判で、いつまでも俺が付き添うのも不自然になりつつある。

 カニちゃんに話があると言われてとうとう現場に付き添えなくなると思ったら、会議室を抑えてるって言われた。違う内容だって期待していいんだろうか。

 小会議室には俺とカニちゃんだけでも、机の上の書類が仕事っぽい。いや普通に勤務時間なんだから当たり前と言えば当たり前か。
玄樹げんきの動画で新シリーズを作るように副社長に言われたんだ。来週に俺たちとそれぞれの課長と副社長で会議をする前に意見を聞かせてもらっていい?
 俺は料理動画を推したいんだけど、あんまりアレンジするのも家で似たのを作れますっていうのも開発としてはどうなんだろうと思って」

 頭が完全に仕事モードに切り替わる。
「ちょうど良いのがある。うちの課だけじゃ行き詰ってたんだ」
 少しのシリアルやキューブケーキやトッピング、生クリームに色と味を付けられる粉の『パフェグラスの中身』というシリーズ商品の開発で行き詰っていた。何種類もの味で自由に組み合わせを楽しんでもらおうってコンセプトが伝わりづらいんだ。全部をバラバラに売るとコストも掛かるし売り場の場所も取り過ぎる。味ごとで一袋にすると一個だけ買って『~~づくし』って作る人が増えそう。それはそれで楽しんでもらえるだろうけど、できるだけ多くの組み合わせで楽しんでもらいたくてケンカしない味になるよう頑張ったんだ。

 会議の本番ではカニちゃんがプレゼンして俺が10種類の盛り付け例を用意したら満場一致でゴーサインが出た。組み合わせに加えて上に乗せるお菓子や果物、盛り付け方。当分ネタに困らないシリーズになる。
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