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大人になったうちの子へ
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つまり俺と玄樹は一緒にいることがより正当化されることになった。撮影の付き添いは解任されたけど、盛り付け案の開発や指導として結局俺は撮影現場に行く。
盛り付けシリーズの撮影じゃない時は同席しなくなるから今後回数は減るものの、商品の発売日に少しまとめて動画を上げるために今は一緒にいる時間が増えそうだ。
団地に行くと今日は玄樹の方が先に帰っていて、ざっくりと伝えると微妙な表情になった。もう俺といられることを喜んではくれないんだろうか。
それを確かめるのが怖くて、突然のことで困惑してるだけなんだろって風に話を続ける。
「詳しいことは明後日の撮影でちゃんと説明があるよ。大丈夫。マリアージュシリーズの動画もちゃんと続くから」
リビングに向かう俺の背中に玄樹が抱き着いた。
「僕はどうしたらもっと大人になれるのかな?」
予想していなかった反応だし、聞いた後でも意味が分からない。
「……どうした急に?」
玄樹の腕が俺の首に巻き付けられて頭に頬が寄せられる。玄樹の方が大きくても後ろからでも俺は動けるけど、今はこのままの方がいい気がする。
「コウちゃんみたいにかっこ良く言えないから素直に言うね。
鈴木さんとよく話すようになったのも、その動画に関係してるだけ?」
そういうことか。
広報の有田さんと鈴木さんは今年からこの団地で暮らしている。違う階段を使うから半年以上ほとんど会話をしないままきたのが、最近になってよく話すようになったのを気にしていたのか。
俺が答えるより先に玄樹が不安な声で続ける。
「デスクワークをする時しか会わないけど、あんな表情する人じゃないよ。それを知らなくてもあの表情の意味に気付かないコウちゃんじゃないよね?」
俺の前で交差している両腕に両手を添える。
「あの表情は俺と話してたからじゃなくて推しの話をしてたからだよ」
玄樹の体からきょとんとしている空気が伝わってくる。
「……でも、なんでそれをコウちゃんに話すの?」
「パフェシリーズって味の種類多いから、それなら作って欲しい色があるって頼まれただけ」
「……色?」
「推しの色や好きなコンビで作りたいんだってさ。飲み物やネイルとかでSNSに上げてる人たくさんいるだろ。良い案だと思って意見を聞いてただけだよ。色だけじゃなくて普通に見かけるマークも『その界隈ではこういう意味』っていうのもあってさ、トッピングに活かせないかと思って」
思いっきり安心してるのが伝わってくる。ってことは仁士とのことは俺の取り越し苦労か?
玄樹の腕の交差具合が緩まる。
「無理だあ……。指輪を持ってても大丈夫ってくらい大人なところを見せたくて頑張ったけど、反動が凄い」
俺の首と肩の境目に顔をぐりぐりしてくる。
「それで最近妙にがんばってたのか?」
玄樹はぐりぐりを止めても顔は離さない。
「それだけじゃないよ。仕事だってもう2年目で撮影現場には今年入った人もいるし、仁士の力になりたいって思ってるのも本当」
玄樹が寂しそうに体重を掛けてきた。
「まだ本当の大人にはなれないみたい」
「そんなことないよ」
慰めているだけだと思っているであろう玄樹に、俺は心から出てくる言葉を続ける。
「玄樹が大人になったらしたかったことがあるんだ」
振り向いて玄樹の頭をそっと撫でる。
数秒撫でていたら、素直に動かずにいた玄樹の目が少し動揺した。
「したかったことって?」
「これだよ。
子供なのに一人で心細いだろうとか大人になったら巣立ってしまうんだろうかっていう心配とか抜きに、ただ愛おしいってだけでこうしたかった」
もう一度つむじから、耳を手のひらで包むような位置まで撫でる。
「すごく満たされるけど」
「……けど?」
「準備してもらってからすれば良かった。計画性のない大人でごめんな」
本当はこれで満足できる大人を演出したかったんだけどな。
玄樹がお手伝いでちょっと気を利かせた子供みたいな表情になる。
「もう準備してあるよ。夏休みに入ってから撮影の二日前って必ずしてるでしょ?
だから」
明日はできないって思うとしたくなるんだよ。玄樹が無理しないように宣言せずにいたのに気付いていたのか。
盛り付けシリーズの撮影じゃない時は同席しなくなるから今後回数は減るものの、商品の発売日に少しまとめて動画を上げるために今は一緒にいる時間が増えそうだ。
団地に行くと今日は玄樹の方が先に帰っていて、ざっくりと伝えると微妙な表情になった。もう俺といられることを喜んではくれないんだろうか。
それを確かめるのが怖くて、突然のことで困惑してるだけなんだろって風に話を続ける。
「詳しいことは明後日の撮影でちゃんと説明があるよ。大丈夫。マリアージュシリーズの動画もちゃんと続くから」
リビングに向かう俺の背中に玄樹が抱き着いた。
「僕はどうしたらもっと大人になれるのかな?」
予想していなかった反応だし、聞いた後でも意味が分からない。
「……どうした急に?」
玄樹の腕が俺の首に巻き付けられて頭に頬が寄せられる。玄樹の方が大きくても後ろからでも俺は動けるけど、今はこのままの方がいい気がする。
「コウちゃんみたいにかっこ良く言えないから素直に言うね。
鈴木さんとよく話すようになったのも、その動画に関係してるだけ?」
そういうことか。
広報の有田さんと鈴木さんは今年からこの団地で暮らしている。違う階段を使うから半年以上ほとんど会話をしないままきたのが、最近になってよく話すようになったのを気にしていたのか。
俺が答えるより先に玄樹が不安な声で続ける。
「デスクワークをする時しか会わないけど、あんな表情する人じゃないよ。それを知らなくてもあの表情の意味に気付かないコウちゃんじゃないよね?」
俺の前で交差している両腕に両手を添える。
「あの表情は俺と話してたからじゃなくて推しの話をしてたからだよ」
玄樹の体からきょとんとしている空気が伝わってくる。
「……でも、なんでそれをコウちゃんに話すの?」
「パフェシリーズって味の種類多いから、それなら作って欲しい色があるって頼まれただけ」
「……色?」
「推しの色や好きなコンビで作りたいんだってさ。飲み物やネイルとかでSNSに上げてる人たくさんいるだろ。良い案だと思って意見を聞いてただけだよ。色だけじゃなくて普通に見かけるマークも『その界隈ではこういう意味』っていうのもあってさ、トッピングに活かせないかと思って」
思いっきり安心してるのが伝わってくる。ってことは仁士とのことは俺の取り越し苦労か?
玄樹の腕の交差具合が緩まる。
「無理だあ……。指輪を持ってても大丈夫ってくらい大人なところを見せたくて頑張ったけど、反動が凄い」
俺の首と肩の境目に顔をぐりぐりしてくる。
「それで最近妙にがんばってたのか?」
玄樹はぐりぐりを止めても顔は離さない。
「それだけじゃないよ。仕事だってもう2年目で撮影現場には今年入った人もいるし、仁士の力になりたいって思ってるのも本当」
玄樹が寂しそうに体重を掛けてきた。
「まだ本当の大人にはなれないみたい」
「そんなことないよ」
慰めているだけだと思っているであろう玄樹に、俺は心から出てくる言葉を続ける。
「玄樹が大人になったらしたかったことがあるんだ」
振り向いて玄樹の頭をそっと撫でる。
数秒撫でていたら、素直に動かずにいた玄樹の目が少し動揺した。
「したかったことって?」
「これだよ。
子供なのに一人で心細いだろうとか大人になったら巣立ってしまうんだろうかっていう心配とか抜きに、ただ愛おしいってだけでこうしたかった」
もう一度つむじから、耳を手のひらで包むような位置まで撫でる。
「すごく満たされるけど」
「……けど?」
「準備してもらってからすれば良かった。計画性のない大人でごめんな」
本当はこれで満足できる大人を演出したかったんだけどな。
玄樹がお手伝いでちょっと気を利かせた子供みたいな表情になる。
「もう準備してあるよ。夏休みに入ってから撮影の二日前って必ずしてるでしょ?
だから」
明日はできないって思うとしたくなるんだよ。玄樹が無理しないように宣言せずにいたのに気付いていたのか。
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