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胃痛も治まり、おかゆの日々は終わりを告げた。
ただ、アキレウス様が具が入ったおかゆを気に入ったので、時々夕食に出てくることがあった。具材入りなので、おじやと言った方が正しいのだろうけど、最初に私が「おかゆだ」と説明したから料理名として認識されたようだった。
しかし、せっかくお米らしいものがあるので、バリエーションは増やしたい。
「トマトやチーズと煮込むと、リゾットになりますよ」
ふと思い出した、懐かしい料理のレシピ。
私が食べていたのは、もっぱら冷凍食品だった。レンジに放り込んで、数分温めるだけ。
その間にお風呂を沸かしたり、洗濯物を取り込んだりとあわただしくしていた記憶も同時に思い出す。
あの頃は、丁寧な料理をする暇なんてなかったなあ。
思いふけっていると、アキレウス様から質問が降ってくる。
「それはどんな料理なんだ?」
「えーっと、トマトソースで煮込んだおかゆのようなものです。もう少し粒があるとおいしいです。ガーリックを利かせても良いですし」
「レシピを料理人に渡してもいいか?」
「大丈夫です。もし良ければ、私も参加しても良いですか……?」
できるなら、私も料理がしたい。
しかし、アキレウス様は首を振った。
「この屋敷では、残念ながら皆の食事を作ることはできない」
「騎士団の方ではいかがでしょうか?」
調理の仕事をしているのだから、できるのではないか?私は簡単に考えていた。
だが、これについてもアキレウス様は首を振った。
「……どれくらいの材料が必要か、検討させてくれないか」
「かしこまりました」
「ちなみに、だが。俺だったら、パスタ皿に三枚は食べる予定だ」
「……三枚、ですか?」
アキレウス様を基準に、リゾットを作る手順を想像した。
大鍋がいくつあったらいいのだろうか。
「少量であれば、そこまで考えなくてもいいだろう?それに、騎士団ではすでに年間の食糧の手配が済んでいる。もしもリゾットをメニューに入れるとしても、来年以降になるだろう」
少しがっかりした気持ちはあった。
でも、急に新しいメニューを入れられない理由もわかった。
「シズクが考えたものであれば、皆も喜ぶだろう。それまでは、うちでレシピを研究するといい」
「……ありがとうございます」
「それに、少量であれば問題ないから、料理長に言って暇な時間に一緒に研究をするといい。……その時は、俺も呼んでくれ」
「アキレウス様、味見係なら間に合っていますよ?」
「ははっ、ばれてしまったか」
うすうすと、いや最初からなんとなく気が付いてたけれど、アキレウス様は食べることが好きなんだろう。
最初、グラファリウム様の知人という形で出会った日、料理も何度もおかわりをするほど食べていたし。
「私と料理長ではきっと食べきれませんから。アキレウス様にも味見をお願いします」
私がお願いをすると、アキレウス様の表情がぱあっと明るくなった。
「ああ、もちろんだ。料理をする時は呼んでくれ」
「かしこまりました」
それからすぐ、アキレウス様と一緒に屋敷の料理人の元へと向かう。
善は急げ――という感じで、アキレウス様が歩く速度に合わせて、少し早歩きになる。途中でアキレウス様が気が付いて、速度を緩めてくれた。
屋敷の調理場には、料理長と数人の料理人がいた。
アキレウス様が調理場に入ると、全員が頭を下げた。
「頭を上げてくれ。聞きたいことがあるんだ」
料理長が頭を上げると、アキレウス様は続ける。
「作ってもらいたいレシピがある。シズク、説明を頼む」
「わかりました。……えっと、リゾットという料理です。材料は――」
私が口頭で伝える。材料を言う度に、料理人が食材を持ってくる。
調理が始まった時、私は近くに行きたかったのだが、アキレウス様に制止される。
「ここは彼らの仕事場だ。任せてくれるか?」
私は、はっとして足を止めた。
それから、小さく咳ばらいをして、説明を続ける。
調理が進む間に、ひとりがメモを取っている。あまり急がないようにゆっくりと話した。
トマトとベーコンとチーズが入ったリゾットが完成した。
香りがするだけで、おなかが鳴ってしまいそうになる。
「試食をしよう。お前たちも、どんな味なのか試してくれ」
アキレウス様は料理人がスープ皿に取り分けたリゾットを、二人分受け取った。
「試食なのだから、このままここで食べるとしよう」
「……ローダンテが見たら、なんていうでしょうか……?」
ちらりと廊下の方を見る。ローダンテはいない。
「大丈夫だ。あたたかいうちに食べてしまおう」
アキレウス様は気に留める様子もなく、スプーンでリゾットをすくってぱくりと食べた。
「うん、うまいな。……どうだ?」
料理人に声をかけると、彼らは一堂に頷いた。
私も、ふーふーと冷ましながら食べてみる。トマトの酸味とチーズのとろみが美味しい。ベーコンや玉ねぎもあってもいいと思う。あっ、キノコや魚のミルク煮もいいかもしれない。
アキレウス様はあっという間に完食していて、おかわりをしていた。
本当に三杯食べそうな勢いだ。
「塩気もあっていいな」
「はい。美味しくできています」
「夕食に、また作ることはできるか?」
料理長に言うと、大きく頷いた。
「大丈夫です。リゾットに合うメニューに変えてみます」
と答えた。
「ワインも合うと思いますが、いかがいたしますか?」
「そうだな。先日もらったワインを開けよう」
「では、そのように致します」
夕食までの間、時間があった。
アキレウス様は書斎で仕事があると言う。
私は、ローダンテとともに、マナーの勉強をすることになった。体調を崩した分、少し遅れていたからだ。
「根を詰めないように。退屈をしてきたら、こちらに来てもいいぞ」
「お気遣いありがとうございます。でも、恥をかかないように努めてみます」
そう答えて、私は自分の部屋へと戻った。
ただ、アキレウス様が具が入ったおかゆを気に入ったので、時々夕食に出てくることがあった。具材入りなので、おじやと言った方が正しいのだろうけど、最初に私が「おかゆだ」と説明したから料理名として認識されたようだった。
しかし、せっかくお米らしいものがあるので、バリエーションは増やしたい。
「トマトやチーズと煮込むと、リゾットになりますよ」
ふと思い出した、懐かしい料理のレシピ。
私が食べていたのは、もっぱら冷凍食品だった。レンジに放り込んで、数分温めるだけ。
その間にお風呂を沸かしたり、洗濯物を取り込んだりとあわただしくしていた記憶も同時に思い出す。
あの頃は、丁寧な料理をする暇なんてなかったなあ。
思いふけっていると、アキレウス様から質問が降ってくる。
「それはどんな料理なんだ?」
「えーっと、トマトソースで煮込んだおかゆのようなものです。もう少し粒があるとおいしいです。ガーリックを利かせても良いですし」
「レシピを料理人に渡してもいいか?」
「大丈夫です。もし良ければ、私も参加しても良いですか……?」
できるなら、私も料理がしたい。
しかし、アキレウス様は首を振った。
「この屋敷では、残念ながら皆の食事を作ることはできない」
「騎士団の方ではいかがでしょうか?」
調理の仕事をしているのだから、できるのではないか?私は簡単に考えていた。
だが、これについてもアキレウス様は首を振った。
「……どれくらいの材料が必要か、検討させてくれないか」
「かしこまりました」
「ちなみに、だが。俺だったら、パスタ皿に三枚は食べる予定だ」
「……三枚、ですか?」
アキレウス様を基準に、リゾットを作る手順を想像した。
大鍋がいくつあったらいいのだろうか。
「少量であれば、そこまで考えなくてもいいだろう?それに、騎士団ではすでに年間の食糧の手配が済んでいる。もしもリゾットをメニューに入れるとしても、来年以降になるだろう」
少しがっかりした気持ちはあった。
でも、急に新しいメニューを入れられない理由もわかった。
「シズクが考えたものであれば、皆も喜ぶだろう。それまでは、うちでレシピを研究するといい」
「……ありがとうございます」
「それに、少量であれば問題ないから、料理長に言って暇な時間に一緒に研究をするといい。……その時は、俺も呼んでくれ」
「アキレウス様、味見係なら間に合っていますよ?」
「ははっ、ばれてしまったか」
うすうすと、いや最初からなんとなく気が付いてたけれど、アキレウス様は食べることが好きなんだろう。
最初、グラファリウム様の知人という形で出会った日、料理も何度もおかわりをするほど食べていたし。
「私と料理長ではきっと食べきれませんから。アキレウス様にも味見をお願いします」
私がお願いをすると、アキレウス様の表情がぱあっと明るくなった。
「ああ、もちろんだ。料理をする時は呼んでくれ」
「かしこまりました」
それからすぐ、アキレウス様と一緒に屋敷の料理人の元へと向かう。
善は急げ――という感じで、アキレウス様が歩く速度に合わせて、少し早歩きになる。途中でアキレウス様が気が付いて、速度を緩めてくれた。
屋敷の調理場には、料理長と数人の料理人がいた。
アキレウス様が調理場に入ると、全員が頭を下げた。
「頭を上げてくれ。聞きたいことがあるんだ」
料理長が頭を上げると、アキレウス様は続ける。
「作ってもらいたいレシピがある。シズク、説明を頼む」
「わかりました。……えっと、リゾットという料理です。材料は――」
私が口頭で伝える。材料を言う度に、料理人が食材を持ってくる。
調理が始まった時、私は近くに行きたかったのだが、アキレウス様に制止される。
「ここは彼らの仕事場だ。任せてくれるか?」
私は、はっとして足を止めた。
それから、小さく咳ばらいをして、説明を続ける。
調理が進む間に、ひとりがメモを取っている。あまり急がないようにゆっくりと話した。
トマトとベーコンとチーズが入ったリゾットが完成した。
香りがするだけで、おなかが鳴ってしまいそうになる。
「試食をしよう。お前たちも、どんな味なのか試してくれ」
アキレウス様は料理人がスープ皿に取り分けたリゾットを、二人分受け取った。
「試食なのだから、このままここで食べるとしよう」
「……ローダンテが見たら、なんていうでしょうか……?」
ちらりと廊下の方を見る。ローダンテはいない。
「大丈夫だ。あたたかいうちに食べてしまおう」
アキレウス様は気に留める様子もなく、スプーンでリゾットをすくってぱくりと食べた。
「うん、うまいな。……どうだ?」
料理人に声をかけると、彼らは一堂に頷いた。
私も、ふーふーと冷ましながら食べてみる。トマトの酸味とチーズのとろみが美味しい。ベーコンや玉ねぎもあってもいいと思う。あっ、キノコや魚のミルク煮もいいかもしれない。
アキレウス様はあっという間に完食していて、おかわりをしていた。
本当に三杯食べそうな勢いだ。
「塩気もあっていいな」
「はい。美味しくできています」
「夕食に、また作ることはできるか?」
料理長に言うと、大きく頷いた。
「大丈夫です。リゾットに合うメニューに変えてみます」
と答えた。
「ワインも合うと思いますが、いかがいたしますか?」
「そうだな。先日もらったワインを開けよう」
「では、そのように致します」
夕食までの間、時間があった。
アキレウス様は書斎で仕事があると言う。
私は、ローダンテとともに、マナーの勉強をすることになった。体調を崩した分、少し遅れていたからだ。
「根を詰めないように。退屈をしてきたら、こちらに来てもいいぞ」
「お気遣いありがとうございます。でも、恥をかかないように努めてみます」
そう答えて、私は自分の部屋へと戻った。
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