学園の姫君と騎士の青春は御法度です

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13_新たな誘い

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 ゴールデンウイークが明け、護衛兼学校生活が再開した。

 休み前に言っていたように、アリアが決闘騒ぎへの締め付けを厳しくしたことによって、翼につかの間の平穏が訪れる。
 といっても勉強・護衛・勉強・護衛と全く色気のない毎日のままではあるが。

 それはさておき、心桜への告白が止まったことで、ひとまず落ち着いたかのように見えた。

 しかしそれはそれで別の問題が発生したらしく、ある日の昼休みにアリアが翼のもとへやってきた。

「小宮くんのお昼ご飯って弁当だよね?ならワタシたちと一緒に学食に来てくれるかな?」
「……なんででしょうか?」

 だが、アリアの頼みを翼は素直には受け入れられなかった。

 買い物でも散々意識していたことだが、自分と3人は並び歩くには不釣り合いすぎる。

 ましてや校内ならさらにカースト差が絶対的なものになっているため、ガリ勉くんこと翼には少々視線が痛すぎた。

 しかしじれったい態度をとる翼に対して、アリアは仮面をかぶるように笑みを深くした。

「心桜ちゃんの決闘なしになったじゃん?でもワンチャン狙って言い寄ってくんのよ。告白がダメならアプローチって考えだろうけどさぁ」
「鷹野さんがいてもですか?」
「ワタシらもなんか狙われんだよね。まぁ3年からすれば1年は怖くないでしょ」
「なるほど」
「それで凛乃ちゃんがどんどん機嫌悪くなってきてるから、護衛くんに護衛してもらおうかな~って。ね、小宮くん?」
「……わかりました」

 仕事のことを持ち出されると弱い。
 本来そういった風除けは翼がやるべきことなので、やれと言われたらやるしかない。

 緊張で胃がキリキリと締め付けられているような気もするが、こればかりは仕方がないことだ。

 覚悟を決めて机の上の教科書を片付け始めると、凛乃が翼の教科書を見て尋ねた。

「お前、勉強は大丈夫なのか?」
「それは……なんとかします」

 ガリ勉くんよろしく、翼は昼休憩も基本的に勉強をしている。
 学校外の時間は鍛錬に当てたいので、勉強は学校にいる間に済ませるしかない。

 勉強は心桜に負けた引け目でやっているので、成績を捨てること自体に特段問題はない。
 昼の勉強をやめたら、成績はあっという間に落ちるだろう。

 しかし何があっても心桜が最優先なので同行を決意する。

 凛乃が翼の答えに渋面でいると、アリアが心桜の背を押しながら翼の前に彼女を立たせた。

「ほらほら、心桜ちゃん」
「うっ」

 心桜は何かを伝えようとしているのか、小さく口を動かしている。

 そんな彼女を見ながら静かに待っていれば、思い立ったように心桜が提案を切り出した。

「わたし……お、お勉強であればお手伝いできると思います。お昼にいただいた時間分、一緒に勉強するのは……ど、どうでしょうか?」

 そう言って翼の勉強の支援を申し出る心桜。

 翼はこうなることを予想もしておらず、おろおろと焦る気持ちで言葉を探した。
 そうして思わず口をついて出たのは、遠慮の一言だった。

「そ、そこまでしていただくのは悪いといいますか」
「迷惑でなければ、わたしもあなたの力になりたいです」
「それはその……」
「ダメ、でしょうか……?」

 もちろん学年1位の心桜に教われば、これほど心強いことはない。

 買い物のときに参考書で見ていた内容からしても、彼女は明らかに翼とは比較にならないほど勉強が進んでいる。
 時間のない翼にとっては、これ以上ない適任だ。

 ただし主人にさせることではないと、翼の中で一線を引いてしまう。

 心桜からは『恩を少しずつ返す』と言われているが、『そんな必要はない』と翼の考えは変わっていない。

 それに、翼としては他人とは適切な距離を取っておきたい。
 主であるなら、なおさらだ。

 そうやって長々と翼が返事を渋っていると、アリアがひょこっと心桜の後ろから顔を覗かせてきた。

「ひっ!?」
「ど、どうされましたか?」

 思わず怯えた声を上げた翼に、心桜が純粋な善意から心配してくれる。

 だがその背後には「断るなよ」と言わんばかりに、黒い瘴気をまき散らしながら笑う般若のようなアリアが立っていた。

 凛乃ですらたじろぐように引いているほどの威圧感を、翼は全身で感じ取り、逃げ場のない圧に押されるようにして心桜へと視線を戻した。

「……分かりましたぁ……」

 アリアの迫力にのまれて、ついに心桜の申し出を受け入れてしまう。
 なんとも情けない声を聞かせてしまった気がして、翼は思わずうつむきたくなった。

 肯定した瞬間、全身にかかっていたプレッシャーは解かれ、ほっとした表情の心桜だけが目に映った。

「ありがとうございます。では今日からよろしくお願いします」
「こ、こちらこそ」

 微笑む心桜に対し、翼はわずかに姿勢を正し、畏まるように頭を小さく下げた。



 早速話の通り、今日から食堂に同行することになった。

 教室を出た瞬間から、周囲の視線が痛いほどに注がれているのが、翼でもひしひしと感じる。

 ただ近寄ろうとする男子は、翼がいることで怯んでいるように見えた。

 一応男払いとして自分が機能していることにホッとしつつも、何をそんなに恐れているのかと不思議に思う。

 今回は初日ということもあり、3人が食事を受け取る間もずっと付き添い、そのまま一緒に席へついた。

 すると凛乃が辟易したように眉根を寄せる。

「……相変わらず視線が鬱陶しいな」
「まぁ今日は姫君に双花、さらには新しい渾名付きがいるからねぇ~そら目立つよ」
「渾名付き?」
「お前、知らなかったのか?」
「え、おれ、ですか?」
「そうそう。うちの地元は物好きな風習でさ~なにかと渾名をつけたがるんだよね。小宮くんがあれだけ派手にやったらつくよそりゃ」
「そ、そうですか……ちなみに渾名はどういうものなんですか?」
「知っててもろくなことにならんぞ」
「え~そうかなぁ。ワタシは結構好きだけどなぁ」

 翼に忠告する凛乃と面白おかしくけたけた笑うアリア。

 そして残る心桜は顔を赤くして俯いているだけで、結局誰も教えてくれなかった。

 心桜の様子と凛乃の忠告を受けて、今は聞かなかったことにしようと決めた翼が弁当の蓋を開けると、3人の視線が翼の弁当へ一斉に注がれる。

「小宮さんの手作り……ですよね?」
「はい」
「お弁当、すごく真っ白だね……」
「米、卵、これは……胸肉か。生真面目め」
「うへぇ、ボディビルダーにでもなるの?」
「これぐらい食べないと筋肉が落ちるので仕方なくですね」
「え、本気?」
「はい」

 翼からすれば気負わず聞かれたことをありのまま答えただけなのに、アリアからは「こいつやべえ」と言わんばかりの視線が返ってきた。

「小宮くん一人暮らしでしょ?料理できないの?」
「いえ、できないことはないのですが……ただ、自分しか食べないのと調理時間と栄養を考えたらこうなりました」
「こう、なる?……ならなくない?」

 翼の真っ直ぐすぎる視線に押されて、アリアは思わず『間違っているのは自分か?』と頭を抱える。

 そんな彼女の反応が気になり、翼は思ったことを素直に話す。

「みなさんが部活をされているのと同じだと思いますが?」
「そんなわけあるか」

 そんな素朴な疑問をアリアではなく凛乃に遮られる。

 視線をアリアから凛乃に移せば、彼女は呆れた顔で弁当を見ていた。

「こんなのを食うのは筋トレ馬鹿ぐらいだ阿呆」
「部活で筋トレしないのですか?」
「するところもあるが、運動がメインだ」
「運動の出力を上げるために必要だと思いますが」
「器具をそろえるのも手間がかかる」
「自重でもある程度はいけますよ」
「それはなおさらきついだろう」
「筋トレはきつくないと意味がないのでは?」
「……もういい。やめだ」

 根負けした凛乃が話題を打ち切り、溜息をひとつつく。

 だが翼の中では疑問が晴れるどころか、ますます深まっていったので、思わず首をひねってしまう。

 そんな翼を見て凛乃はさらに口元をひきつらせた。

「基準値が狂ってて話が通じん……」
「凛乃ちゃんが正面から言い負けるのって珍しいね~」

 そんな凛乃の苦い声音を聞いて、アリアが楽しそうに声を上げる。

 そして彼女は視線を翼に移すと、腕や胸元あたりを眺めながら、軽い感じで問いかけてくる。

「なら小宮くんはめっちゃ筋肉ついてるの?」
「見栄えはよくないですよ。見苦しい、というか。誇れるものではないです」
「……そんなことはないですよ」
「えっ、心桜ちゃん?」

 予想外からのフォローにより、翼もアリアも凛乃も手が止まって目が点になる。

 自分の発言で周りが呆気にとられたことに焦ったのか、心桜は慌ててぶんぶんと両手を振りながら、早口でまくし立てる。

「いえその少し前に手当の時チラッと見えたと言いますか!!」
「あ~そういうことね。心桜ちゃんらしいなぁ」
「男の裸とか無理だろうにな」

 事情を察したアリアと凛乃が、どこか微笑ましげに心桜を見つめる。

 そんな視線を受けて頬が赤くなる心桜。
 しかしそれでも意見は曲げないのか、なおも翼に向かって話し続けた。

「本当に頑張っているんだなと分かります。なので見苦しくなんか、ないです」
「そ、そうですか……ありがとうございます」
「い、いえ……」

 正面から褒められ、思わず照れてしまう翼。

 対する心桜は、視線に耐えきれず顔を手で覆い、耳まで真っ赤に染まっていた。

 顔を隠した彼女にはさすがに追撃しないのか、アリアと凛乃は黙って心桜を見守っている。

 そんなに恥ずかしいなら言わなければよかったのにと思いながらも、少しだけ胸が軽くなった翼はふっと笑みをこぼした。
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