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第四章
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しおりを挟むそいつがバスケ部に所属していたと知ったとたん、急にこの場に居づらくなった。いくら渡部が副部長だから、いくら俺が役員だからといって好き勝手使っているのが恥ずかしかった。
でもそいつに睨まれたからすぐにこの場を去るのは負けた気がして悔しい。俺はもともと負けず嫌いだ。
人間、開き直りも肝心だと思う。あいつよりもコネもきくし顔も広い。使えるものは使う。これに限るのだ。
気にしないそぶりでシュート練習を再開させた。本当はグダグダと考えてしまってダメな性格だがそれを一切感じさせないように何でもない風に振舞った。
30分もすると休憩になり、水分補給タイムだ。
「次はオールコートの5対5になるけど、佐野も入らん?」
「パス。オールコートはもっと無理」
「そっか。今年の1年人材が少なくてさー。お前んとこの吉岡を入れる予定だったけど生徒会になんて入ちゃうし」
タオルで汗を拭きながら、疲れを感じさせない表情の渡部はごくごくと喉を鳴らせてポカリを飲む。喉が動くのを見ながら「吉岡を入れるんだったのか?」と聞いた。
「だって県選抜入りだぜ。入れるっしょ。誘っても誘っても入ってくれなかったけど、もうちょっとで絆されるんじゃないか!? ってところで生徒会に掻っ攫われるし、参るわ」
「そうだったのか」
「まぁ、入っても本人にやる気がなければダメなんだけどな」
選抜入りまでしていてなぜバスケ部に入らなかったんだろう。あの禿頭集団の絡みがあったから入るのを辞めたんだろうか。俺がそこまでバスケが出来るならずっと続けていたい思いが強いとは思うが、吉岡は辞めることに何かしらの葛藤などはなかったのだろうか。もったいない、と誰もが思うだろう。
吉岡と何気ない話をする仲でもない。どうでもいい話も笑い話もしない。記憶にあるのは生徒会関連の話と禿頭集団の話だけ。そして料理が得意でなんでも作れちゃうってことしか知らない。
ストーカーばりに俺にくっついてきたりキスしたり、この前なんてチンコを擦りあったりしちゃったけど俺たちはお互いのことなど知らないことだらけだった。
体から始まるABCってか、と親父くさい現実逃避をしてみたが一度気になりだしたら止まらなくなってしまった。
「ちょっと体動かしただけだけど、汗もかけたしスッキリしたわ。もう帰るわ。ありがとな」
「見ていけばいいのに」
「汗かいたから動かないでいると冷えちゃうし」
「まあな。また来いよ。バレー部顧問にも言っておこうか?」
「言わなくていいかな。絶対来られるとも限らないし。じゃあなー頑張ってくれ」
「はいよー」
体を動かしたから軽くなった。スッキリとしたはずなのに頭の中がもやもやする。視線を感じながら体育館を後にした。
毎回深く考えないように、または奥底にしまっておいたものだが、何故吉岡は俺に対して性的な行為をしてくるのか。
初めてのときはキレイだったからと言われた。女に言うセリフだろうと思ったが俺も吉岡に対してキレイだな、って、あの時は思ったんだ。純粋に。でもキスしたいなんて思わない。
勉強を教えてもらった後のキスだって「お礼」と言われたが、俺とのキスがお礼になり得ることは、吉岡にとってはその行為に価値があるってことだろう。おかしな話である。
ビルで襲われたときは……。わからん。生物準備室ではどうだ。……成り行き? その辺のキスの意味はよくわからん。
そして擦りあい。って言っても一方的に擦られていたわけだが単純に性欲処理だろう。食欲の次にくるのが性欲と言っていたから。俺と処理できちゃうってことは、吉岡もこの学園にだいぶ毒されているな。
そもそもここは完全なホモが他の高校に比べたら多いだろうが、どっちもいけちゃってお得♪みたいな節操のない輩も大勢いる。俺は完全なノーマルだと思っていたが、吉岡とのキスや擦りあいに嫌悪はなかった。普通に気持ちよくて普通に射精してしまった。俺もどっちもいけちゃう節操のない人種だったんだろうか。俺も毒されていたのか。
しかし俺もよく覚えているなという話しだ。
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