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Chapter.2 もっと知りたい
Act.2-01
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出勤時間のニ十分ほど前にバイト先の書店に着いた。さすがに売り場に出るには早過ぎるから、時間が経つまで店裏の事務所兼休憩スペースで時間潰しをする。とはいえ、そこは決して広くない部屋だから、ゆっくり寛ぐにはとても不向きだ。そのせいか、この職場ではわりとみんな時間ギリギリに来たりする。
とりあえず、本ぐらいならば読める。そう思い、暇潰し用に買っていた文庫本をバッグから取り出そうとした時だった。
「ごめん黒川ちゃん!」
突然呼ばれ、私は慌てて文庫本を戻した。悪いことをしたわけではないのに、あまりに切羽詰まった声だったから、私まで焦ってしまった。
「出勤前で悪いんだけど、図書カードの大量注文入っちゃったから手伝ってくれない? もちろん、その分の残業付けちゃっていいから!」
そう一気にまくし立ててきたのは、パートの立原さんだった。悪い人ではないのだけど、時々こんな感じで強引だから、一部では密かに煙たがられている。
でも、やることはしっかりやるし、とても面倒見のいい人だ。私はそれをよく知っているから、立原さんのことは決して嫌いではない。
「分かりました」
とにかく、大変な状況であることは理解したから、私も急いで店用のエプロンを着けた。こういう時、エプロンさえあれば着の身着のままでいいから楽だとつくづく思う。
身支度を整えた私は、早速カウンターに入る。確かに、なかなかな量の図書カードだった。
「おはようございます」
忙しくても、挨拶だけは欠かさない。周りの人達も返してくれる。それでも手は決して休めない。
図書カードにしても、本にしても、包装している間、誰に贈るものなのだろうかと考える。包装を憶えたての頃は包むことに必死で無心だったのに、今ではだいぶ余裕が生まれている。ただ、あまりに複雑な包装になると、さすがに何も考えられなくなるのだけど。
「これだけの量をすぐにってどうゆう拷問よ……」
ひたすら図書カードを封筒に入れてゆく作業をしながらブツブツぼやくのは、私より一年先輩のバイトの佐藤雪那さん。どうやら、彼女がこのお客さんに無理難題を言われたらしい。
「ムカつくのは分かるけどさ、やるしかないでしょ。ほら、さっさと入れる! 手が止まってるよ、ユッキー!」
雪那さんと同年代の坂上里衣さんに急かされ、雪那さんはムスッとしつつも作業を再開する。
私もまた、雪那さんが封筒に入れた図書カードをひたすら包装した。
「でも、ちょうど良かったよ。黒川ちゃんがいてくれたからだいぶ楽出来るもん。ほんとありがとね」
里衣さんに感謝され、私は小さく笑みを浮かべながら軽く会釈する。ひとつしか違わないとはいえ、バイトでも先輩は先輩だから何となく遠慮してしまう。
無事に包装を全て済ませ、お客さんにも渡し終わると、全員がホッとした。ギフト包装は戦場だ。量が多ければ多いほど周りが修羅場と化す。
とりあえず、本ぐらいならば読める。そう思い、暇潰し用に買っていた文庫本をバッグから取り出そうとした時だった。
「ごめん黒川ちゃん!」
突然呼ばれ、私は慌てて文庫本を戻した。悪いことをしたわけではないのに、あまりに切羽詰まった声だったから、私まで焦ってしまった。
「出勤前で悪いんだけど、図書カードの大量注文入っちゃったから手伝ってくれない? もちろん、その分の残業付けちゃっていいから!」
そう一気にまくし立ててきたのは、パートの立原さんだった。悪い人ではないのだけど、時々こんな感じで強引だから、一部では密かに煙たがられている。
でも、やることはしっかりやるし、とても面倒見のいい人だ。私はそれをよく知っているから、立原さんのことは決して嫌いではない。
「分かりました」
とにかく、大変な状況であることは理解したから、私も急いで店用のエプロンを着けた。こういう時、エプロンさえあれば着の身着のままでいいから楽だとつくづく思う。
身支度を整えた私は、早速カウンターに入る。確かに、なかなかな量の図書カードだった。
「おはようございます」
忙しくても、挨拶だけは欠かさない。周りの人達も返してくれる。それでも手は決して休めない。
図書カードにしても、本にしても、包装している間、誰に贈るものなのだろうかと考える。包装を憶えたての頃は包むことに必死で無心だったのに、今ではだいぶ余裕が生まれている。ただ、あまりに複雑な包装になると、さすがに何も考えられなくなるのだけど。
「これだけの量をすぐにってどうゆう拷問よ……」
ひたすら図書カードを封筒に入れてゆく作業をしながらブツブツぼやくのは、私より一年先輩のバイトの佐藤雪那さん。どうやら、彼女がこのお客さんに無理難題を言われたらしい。
「ムカつくのは分かるけどさ、やるしかないでしょ。ほら、さっさと入れる! 手が止まってるよ、ユッキー!」
雪那さんと同年代の坂上里衣さんに急かされ、雪那さんはムスッとしつつも作業を再開する。
私もまた、雪那さんが封筒に入れた図書カードをひたすら包装した。
「でも、ちょうど良かったよ。黒川ちゃんがいてくれたからだいぶ楽出来るもん。ほんとありがとね」
里衣さんに感謝され、私は小さく笑みを浮かべながら軽く会釈する。ひとつしか違わないとはいえ、バイトでも先輩は先輩だから何となく遠慮してしまう。
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