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Chapter.5 嫌いにならないで
Act.5-02
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高遠さんの手が離れた。気付けば信号が青に変わっている。
少し物悲しさを感じた。でも、運転するのに手を握ったままでは危ないから、それを考えたらさすがに何も言えない。ちょっとわがままなぐらいがちょうどいい、なんて言われたけれど。
「――また、手を繋いでくれますか……?」
私が問うと、高遠さんがチラリとこちらを一瞥し、すぐに前方に視線を戻した。
「もちろん」
高遠さんは大きく頷いて見せた。
「俺の方がお願いしたいぐらいだ。手を繋いで、キスして、抱き締めて……。これより先は、もう少ししてからだね」
高遠さんの言わんとしていることはすぐに察した。でも、私からは特に何も口にしなかった。
少し迷った。でも、これぐらいならば許されるだろうかと思い、ゆっくりと手を伸ばした。
高遠さんの太腿に触れてみる。もちろん、触れるだけでそれ以上のことはするつもりは全くない。
振り払われるかな、とちょっとだけ不安になった。でも、そんなことはなかった。
高遠さんの左手がまた、ハンドルから放れた。そして、膝に乗せられた私の手に重ね合わせてくる。
「――危ないですよ……?」
他人事のように指摘してしまった。
高遠さんは相変わらず前を見たままだったけれど、「大丈夫」と口元に笑みを湛える。
「真っ直ぐな道を走ってる間だけだけどね。あ、曲がる時は早めに言ってくれよ?」
「もちろんです。事故を起こされたら困りますから」
「あはは、全くだ」
呑気に笑っているようでも、高遠さんのことだからちゃんと考えている。どんな時も、私を危険な目に遭わせないように、と。
「次の交差点、左です」
私が言うと、高遠さんは、「了解」と答える。交差点が近付き、また手が離れた。
「明後日の約束、憶えてるよね?」
不意を衝くように高遠さんに訊かれたけれど、私は迷わず、「はい」と頷いた。
「高遠さんの好きなものを作りますから」
「ありがとう。でも、君が作ってくれるなら何でも喜んで食べるよ」
「そう言ってもらえるのはありがたいですけど、嫌いなものがあるなら遠慮なく言って下さい」
「大丈夫だよ。俺も極端な好き嫌いはないから。楽しみにしてる」
高遠さんの言葉に、私も俄然やる気が出る。プレッシャーを感じていないとは言いきれないけれど。
高遠さんとふたりきりでいるタイムリミットが迫っている。でも、次に逢えることを考えたら淋しいという感情は消えていた。
――明日、チョコを買いに行こう……
運転する高遠さんの横顔を見つめながら私は思った。また、高遠さんに逢うための楽しみがひとつ増えた。
【Chapter.5-End】
少し物悲しさを感じた。でも、運転するのに手を握ったままでは危ないから、それを考えたらさすがに何も言えない。ちょっとわがままなぐらいがちょうどいい、なんて言われたけれど。
「――また、手を繋いでくれますか……?」
私が問うと、高遠さんがチラリとこちらを一瞥し、すぐに前方に視線を戻した。
「もちろん」
高遠さんは大きく頷いて見せた。
「俺の方がお願いしたいぐらいだ。手を繋いで、キスして、抱き締めて……。これより先は、もう少ししてからだね」
高遠さんの言わんとしていることはすぐに察した。でも、私からは特に何も口にしなかった。
少し迷った。でも、これぐらいならば許されるだろうかと思い、ゆっくりと手を伸ばした。
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他人事のように指摘してしまった。
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「もちろんです。事故を起こされたら困りますから」
「あはは、全くだ」
呑気に笑っているようでも、高遠さんのことだからちゃんと考えている。どんな時も、私を危険な目に遭わせないように、と。
「次の交差点、左です」
私が言うと、高遠さんは、「了解」と答える。交差点が近付き、また手が離れた。
「明後日の約束、憶えてるよね?」
不意を衝くように高遠さんに訊かれたけれど、私は迷わず、「はい」と頷いた。
「高遠さんの好きなものを作りますから」
「ありがとう。でも、君が作ってくれるなら何でも喜んで食べるよ」
「そう言ってもらえるのはありがたいですけど、嫌いなものがあるなら遠慮なく言って下さい」
「大丈夫だよ。俺も極端な好き嫌いはないから。楽しみにしてる」
高遠さんの言葉に、私も俄然やる気が出る。プレッシャーを感じていないとは言いきれないけれど。
高遠さんとふたりきりでいるタイムリミットが迫っている。でも、次に逢えることを考えたら淋しいという感情は消えていた。
――明日、チョコを買いに行こう……
運転する高遠さんの横顔を見つめながら私は思った。また、高遠さんに逢うための楽しみがひとつ増えた。
【Chapter.5-End】
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