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Chapter.8 過去より今が大切
Act.3
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外は見事な快晴だった。でも、カレンダー上は春でも、雪はまだ残っているし、刺すような寒さが露出した肌に纏わり付く。
「さ、乗った」
高遠さんに促され、私は助手席のドアを開く。早めに暖気をしていてくれたから、車の中は外とは対照的にとても暖かい。むしろ、コートを着ていると少し暑いぐらいに感じる。
「適当に行くけど、いい?」
運転席に座った高遠さんが訊ねてくる。
私は高遠さんに委ねるつもりでいたから、「いいですよ」と答えた。
「高遠さんの行きたいトコに連れてって下さい」
「俺も絢の行きたいトコでいいんだけどね……。まあ、いいや」
高遠さんは微苦笑を浮かべ、アクセルを踏み込んだ。ゆっくりと車が動き出す。
高遠さんの車では、いつもラジオが流されている。それも必ずFMで、何か拘りでもあるのかと今さらながら気になり、訊いてみた。
「別に拘りとかはないよ」
高遠さんは笑いながら続けた。
「適当に流してるだけ。ラジオだったら音楽もよく流れるから、いちいちCDを入れ替える手間もないしね」
「確かに。じゃあ、車でCDを聴くことってないんですか?」
「そんなこともないよ。CDはそこに入ってるし」
そう言いながら、高遠さんはダッシュボードを指差した。
「もしも気になるのがあるならそこから適当に出していいよ。絢の好みに合うかどうかは分からないけどね」
「――いいんですか?」
「もちろん。別に見られて拙いもんなんてないしね」
「じゃあ……」
私は高遠さんに言われるがまま、ダッシュボードを開けた。そして、冊子タイプのCDケースを取り出す。
パラパラと捲ってみると、ありとあらゆるジャンルのものがぎっしりと入っている。洋楽から邦楽、サウンドトラック、全部ではないけれど、私が知っているアーティストやタイトルのCDもあった。
「どう? 絢のお気に召したものはあった?」
「これとかなら知ってます」
私は某有名アーティストのCDを指差した。
高遠さんは運転しながら、チラリとこちらを一瞥する。
「ああ、それか。昔から有名なアーティストだからね」
「高遠さん、好きなんですか?」
「結構好きだよ。そのグループのCDは家にもほとんどあるしね」
「ほんとですか? ちょっと意外かも……」
「意外?」
「はい。高遠さんって、しっとりとクラシックを聴いてそうなイメージがありましたから」
「あっははは! クラシックも嫌いじゃないけど。そっか、ロック系は聴きそうなイメージはなかったか」
悪気はなかったけれど、ずいぶんと失礼なことを言ってしまった気がする。高遠さんは笑っているけれど、実は気分を害してしまったのではないだろうか。
「――すいません……」
謝ってしまった。私は謝る癖がすっかり付いてしまったな、と思ったけれど、案の定、また高遠さんに指摘された。
「出たな、絢の謝り癖」
「だって、つい……」
恐る恐る高遠さんを覗ってみると、高遠さんは前を向いたまま口元を歪ませている。
「今度また謝ったら罰ね」
「罰、ですか……?」
「うん」
「――どんな罰……?」
「さあねえ」
高遠さんはなおもニヤニヤしている。いったい、何を企んでいるのだろう。
「――あまり酷いことはしないでもらいたいです……」
高遠さんの不敵な笑いが怖くて、私はやんわりと、だけど心の底から懇願した。
「酷いことはしないよ。――多分ね」
含みのある言い回しに、私はなおさら不安を煽られた。高遠さんの言う『罰』が何なのか、想像出来るような気がしなくもなかったけれど、あまり深く考えないようにしようと思った。
「さ、乗った」
高遠さんに促され、私は助手席のドアを開く。早めに暖気をしていてくれたから、車の中は外とは対照的にとても暖かい。むしろ、コートを着ていると少し暑いぐらいに感じる。
「適当に行くけど、いい?」
運転席に座った高遠さんが訊ねてくる。
私は高遠さんに委ねるつもりでいたから、「いいですよ」と答えた。
「高遠さんの行きたいトコに連れてって下さい」
「俺も絢の行きたいトコでいいんだけどね……。まあ、いいや」
高遠さんは微苦笑を浮かべ、アクセルを踏み込んだ。ゆっくりと車が動き出す。
高遠さんの車では、いつもラジオが流されている。それも必ずFMで、何か拘りでもあるのかと今さらながら気になり、訊いてみた。
「別に拘りとかはないよ」
高遠さんは笑いながら続けた。
「適当に流してるだけ。ラジオだったら音楽もよく流れるから、いちいちCDを入れ替える手間もないしね」
「確かに。じゃあ、車でCDを聴くことってないんですか?」
「そんなこともないよ。CDはそこに入ってるし」
そう言いながら、高遠さんはダッシュボードを指差した。
「もしも気になるのがあるならそこから適当に出していいよ。絢の好みに合うかどうかは分からないけどね」
「――いいんですか?」
「もちろん。別に見られて拙いもんなんてないしね」
「じゃあ……」
私は高遠さんに言われるがまま、ダッシュボードを開けた。そして、冊子タイプのCDケースを取り出す。
パラパラと捲ってみると、ありとあらゆるジャンルのものがぎっしりと入っている。洋楽から邦楽、サウンドトラック、全部ではないけれど、私が知っているアーティストやタイトルのCDもあった。
「どう? 絢のお気に召したものはあった?」
「これとかなら知ってます」
私は某有名アーティストのCDを指差した。
高遠さんは運転しながら、チラリとこちらを一瞥する。
「ああ、それか。昔から有名なアーティストだからね」
「高遠さん、好きなんですか?」
「結構好きだよ。そのグループのCDは家にもほとんどあるしね」
「ほんとですか? ちょっと意外かも……」
「意外?」
「はい。高遠さんって、しっとりとクラシックを聴いてそうなイメージがありましたから」
「あっははは! クラシックも嫌いじゃないけど。そっか、ロック系は聴きそうなイメージはなかったか」
悪気はなかったけれど、ずいぶんと失礼なことを言ってしまった気がする。高遠さんは笑っているけれど、実は気分を害してしまったのではないだろうか。
「――すいません……」
謝ってしまった。私は謝る癖がすっかり付いてしまったな、と思ったけれど、案の定、また高遠さんに指摘された。
「出たな、絢の謝り癖」
「だって、つい……」
恐る恐る高遠さんを覗ってみると、高遠さんは前を向いたまま口元を歪ませている。
「今度また謝ったら罰ね」
「罰、ですか……?」
「うん」
「――どんな罰……?」
「さあねえ」
高遠さんはなおもニヤニヤしている。いったい、何を企んでいるのだろう。
「――あまり酷いことはしないでもらいたいです……」
高遠さんの不敵な笑いが怖くて、私はやんわりと、だけど心の底から懇願した。
「酷いことはしないよ。――多分ね」
含みのある言い回しに、私はなおさら不安を煽られた。高遠さんの言う『罰』が何なのか、想像出来るような気がしなくもなかったけれど、あまり深く考えないようにしようと思った。
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