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兄弟は獣となって発情を鎮め合う

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静かな満月の夜に、少年は目を覚ました。
全身を焼かれるような熱と、肉体に走る軋みによって眠りから引きずり出された少年はベッドから下りると、テーブルに置いておいたスマートフォンに向かって床を這いずり始める。

「あぅ、あ、が……!」

隣の部屋で眠っている兄に助けを求めて大声を出すことも叶わないほどに、苦しい。記憶が無いくらいに幼い頃、事故でこの世を去った両親の元に自分も行ってしまうのだろうか。そんなことを考えてしまうほどに苛烈な苦痛に身を震わせながら床を這いずる少年は、カーテンの隙間から差し込む月明かりに腕を照らされた際に、自身の苦しみの原因を知った。

「な、何で……!?」

寝る前に見ていた物とは全く違う、自らの腕に少年が驚愕する。無意識に漏れる苦悶の呻きではなく意識した上で錯乱の言葉を発したことで、少年は自身の口の変化にも気付く。そして最後に少年はうつ伏せの状態から仰向けとなり、闇に慣れた目で自分の身体を見下ろし訪れた異常が夢ではない現実の物と確信した。
人間の面影は、ほとんど残っていない。肌は白銀の体毛に覆われ、手足の指先には鋭い爪が生えている。口は尖り、人間には存在しない鋭利な牙が生えている。震える手で頭部に手をやるとそこには尖った耳があり、仰向けとなった身体と床の間には作り物ではない神経の通った尻尾が挟まれている。
狼人間。自らの姿を確認した少年は、その単語を思い浮かべた。それと同時に少年はパニックに陥り、熱と軋みに責め立てられる人外の肉体を床の上で恐怖と絶望に震わせ始めた。
もう、スマートフォンに手を伸ばそうとしていたことは思い出せない。思い出したとしても、この姿では救急車など呼べない。兄の所へ行こうと考える思考も無い。たった一人の大事な家族である兄だからこそ、こんな異常な自分を見られたくない。

「どうして、どうしてこんな……ずっとこのまま……? 嫌だ、誰か……っ!」

毛に覆われた腕を見つめ、変わり果てた顔面を意味も無く手で撫で回しながら、少年が怯え色の言葉を放つ。
すると、その言葉に返事をするかのように部屋の扉が開いた。そこにいたのは他でもない、少年の兄だった。

「あぁ、兄貴……見ないで、俺、おかしくなっちまってる。来ないで! 兄貴にも何か起こっちまったら……っ!」

自分だけでなく、兄まで人間を失ったら。少年は近付いてくる兄に向かって制止を口にする。
だが、兄は足をとめない。自分を案ずる弟の声を無視して一気に距離を詰めた兄は、小刻みに震えている弟を優しく抱き上げながら、なだめる口調で言った。

「大丈夫だ、安心しろ。それは怖いことじゃない……お前の身体が大人になったって証だよ」

そう穏やかに告げる兄の姿が、少年の眼前で変化していく。少年と同じように肌が白銀に覆われ、顔が変形し、尖った耳と尻尾が生えていく。

「お前も、もうそんな時期だったんだな。まだまだ子供だと思って、何の準備もしていなかった。こんな時に協力を頼める女性の同族の知り合いがいたら良かったんだけどな……悪いけど、準備不足の駄目兄貴で我慢してくれ。出来るだけ……優しく鎮めてやるからな」
「あ、くぁ……兄貴、あ、はぅっ」

寝間着の上から人外と化した兄の右手で身体をまさぐられた少年は、拒絶の感情ではなく甘い悦びの感情を募らせながら、兄の匂いを嗅ぎ知らず知らずの内に硬く張り詰めていた男根を、嬉しそうにビクビクと跳ねさせていた。




この世を去った父と母、そして兄と自分は半分が狼である人ならざる存在であること。幼い時は人間と全く変わらないが、身体が大人になってから最初の満月の夜に初めての変身が強烈な発情と共に訪れ、以降は満月に合わせて肉体の変化と発情が発生すること。慣れれば変身は自分の意思で制御出来るようになり、満月に伴う変身と発情も適切な投薬で抑えられること。
火照った身体を兄に鎮められながら、少年はあらゆることを教わった。しかし、少年の頭は兄から聞かされた内容を半分も覚えられてはいない。淫らに高まった肉体を兄から加えられる優しい愛撫で慰められるのが心地良すぎて、少年はそっちを追いかけることに夢中となっているからだ。

「あっ、んあぁっ! 兄貴の、手……兄貴の、舌ぁ……きもちぃ……おひりも、ひんこもぉ……気持ち、良いよぉっ……!!」

裸体でベッドに手を付き、背後にいる兄に向かって尻を突き出すことに対する羞恥はもうどこにも無い。兄の右手で男根を扱かれ、尻穴を兄の舌で丹念に舐め回されほじくられる状況に対する抵抗も、快楽に飲み込まれた。
少年は注がれる悦びを全身で嬉しがり、尻尾を振りながら淫らな声で鳴いている。その声と、快感を悦ぶ可愛らしい弟の様子にあてられた兄はじょじょに理性を失い、苦しむ弟を救うためではなく、弟の痴態をより引き出すことを目的にして舌と手を動かしていく。
満月だからと飲んでいた薬品の効果を無にするほどの興奮を募らせながら、兄は一心不乱に弟の男根を刺激し、ヒクつく穴を舌でこじ開けて柔らかな腸壁を擦る。最後の一線を越えてはならないと自制するように衣服の中で反り立った自らの男根を左手で抑えながら、兄は弟のためと頭で思いながら自分の欲望を満たすために甘い快楽を弟に流し込んでいく。

「んぁ、はぁっ……もっろ、兄貴ぃ……もっと、ひてぇ……気持ち良いのひゅきぃ……おひりほじほじも、せーえきびゅーすりゅのも……ひあわせぇ……」

兄から与えられる淫らな幸福を味わう弟と、淫らな幸福を味わう弟に本気で襲いかかろうとしている自分を必死で抑える兄は、部屋に漂う腸液と精液の淫臭が濃くなるにつれて正気を壊されていき、やがて二人は兄弟同士ということも初めての発情を鎮めてやるという建前も忘れてお互いを本気で欲し合い、見た目だけでなく心までも獣となって欲望を剥き出しにした交尾に耽るのだった。
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