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第四章 啼いて血を吐く魂迎鳥
第二十話 赤い着物の娘㈢
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「兎田谷先生。どうしてこの少女は連続放火事件など起こしたのでしょう? 動機はいったい?」
誰かのために自身の皮膚を焼いたり、鉈を持ちだすことすら厭わないのだ。下手に刺激すればなにをするかわからない。
だが、ただの攻撃性にしては、意図された法則に沿って動いているように見える。
十通の手紙、数え唄、消えた子どもたち。
連続放火事件は毎回、菖蒲が手紙を母親に出した直後に起こっていた。
そのため鶯出巡査は竜子が娘を追った結果ではないかと疑っていたのだ。
竜子ではなくこの子が犯人なのであれば、どんな理由があるのか。
「私にも聞かせてほしい。なにか切羽詰まった事情があるんだろ?」
巡査の問いかけにも、もずは黙っていた。
代わりに兎田谷先生が答えた。
「鶯出巡査殿、元日に火災に遭った家が養女にしたという姉妹の名前を知っているだろう。消えたばかりの下の子のほう」
「あ、ああ。調書を見たからな。たしか……」
巡査は必死に記憶を手繰り、口をひらいた。
「思いだした、琴だ」
「そういう名前の子が、最近わらべ屋に来たんじゃないの?」
小弟も気づいた。
菖蒲と一緒にいた桃割髪の幼子である。
『最初はつらいかもしれないけれど、はやく琴も慣れなきゃね』
二人でそんな会話を交わしていた。
一座にやってきたばかりで心細かったのか、菖蒲の手をきつく握りしめていた女児だ。
「烏丸、あの家の屋根に飾られていた鬼瓦は憶えている?」
「はい。少々変わった鬼面で、頭が三つに目が四つの……」
「漆黒の金剛夜叉明王──叉崎のシンボルだよ。名義を隠しているかもしれないが、あそこは一派の所有する長屋だ」
賭場の柱にかかっていた面、そして叉崎の背に彫られていた入墨と同じ鬼神である。
つまり住んでいた夫婦にも、叉崎一派の息がかかっていたのだ。
「夫婦には博打の借金があった。その形に、一派が買い集めている女児の世話と養親を任されていたのだろうね」
「吉江さんが話していた、吉原の大見世に売られる予定だった子の話か……」
「そう。昔より年齢規制も厳しくなったし、警察の管理下にある吉原に売るためには、親の承諾書や戸籍を提出しなければならない。はっきりした身元が必要だからわざわざ養女にするんだ。幼いうちに安く買い叩くか孤児を拾い、見込みのある子は引き取って育て、高額で転売する。その他の子は年端もいかないうちから私娼窟や顧客に流す」
なぜこの件に叉崎一派が関係あるのだろうとずっと訝しんでいたが、ようやく理解した。
「いま一座にいる子どもたちは皆、きみたちが連れてきたんだね?」
もずは深く頷いた。
「兎田谷先生。それでは、この子が民家に火を放った理由は……」
「十件の連続放火事件──わらべ屋の一座にいる子どもは十二人」
菖蒲ともずを除いた十人は、みな火災に遭った家から消えた子どもということか。
叉崎の怒りを買う行為、つまり彼らの『商品』をこの子が横取りしていたのだ。
「みんな女郎屋に売られるところだったり、悪い人に引き取られた女の子たちだよ。あたしは可哀想な子がいるおうちに火をつけて、火事で死んだように見せかけて助けだしてあげてるの。死んだらもう捜されないし、親だってあきらめるでしょ」
「いや、それは……」
鶯出巡査は否定しかけてやめた。
引っ込めた言葉がなんだったか、小弟にはわかる。
実際は痕跡がなければ死んだことにはならない。警察の現場検証で簡単に判明する事実だ。
だが、もずはそう信じ込んでいる。
子どもの浅知恵だとしても、結果的に成功していた。もう消えた子たちは捜されていない。
「だから叉崎の親分はいま血眼になってこの子たちを追っている。売られた子の情報を流していた人物がいるはずだが……大方、芸者置屋の前で激高していた若い衆あたりだろう。彼が周旋屋だね」
「あの騒いでいた奴らか。つまり消えた子どもたちは十人とも、叉崎一派の『商品』だったってわけだな……」
子どもたちが捜されないのは、違法の周旋屋の息がかかった子ばかりだから。
元締めである叉崎らが警察に訴えるはずもなく、親も身代金を受け取ったあとで子が消えてしまい、博徒から逃げるために行方をくらませてしまう。
「周旋屋のおにいさんはいい人だったよ。三年前、わらべ屋の座長に菖蒲を売った人。それからずっと菖蒲を心配してて、ときどき会ってたみたい。菖蒲の居場所をあの人の親分とか母親にばらしたりしないし、売られた可哀想な子たちの話も聞けば教えてくれるんだ」
周旋屋は意図せず少女たちに情報を漏らしていたようだ。
菖蒲を純粋に憐れんでおり、まさか他愛ない雑談からもずに伝わってこんな事態になるとは予想もしていなかっただろう。
いま思えば、縁日で石を投げようとした通行人の男──菖蒲と琴を見て『なんでこいつと一緒にいるんだ』と叫んでいたのが周旋屋だったのだ。
関係を誤解されたのだと思っていたが、琴が菖蒲のもとにいるのを驚いての発言だったようだ。
「可哀想な子たちの話を聞いた菖蒲は、いつも悲しそうに笑うの。あんなに悲しい顔を見たくないから、あたしは菖蒲の分身になるって決めた。菖蒲がやりたいこと、欲しがっていること、全部身代わりになる」
「放火事件を起こしたのも、すべて菖蒲が望んでいたと?」
鶯出巡査の絞りだすような問いかけは、少女の心に響かなかった。
「だって、菖蒲は綺麗で優しいもの。みんなもっと酷い場所に行くところだったんだよ。その前に助けてあげただけ。なにが悪いの? あたしたちを売った親や大人は悪くないの? 火をつけるのはいけないことだけど、あたしたちの命や体は家よりもっと安いの?」
巡査は押し黙って答えなかった。
小弟も、なんと返していいのかわからない。
ごろつきたちの怒号が徐々に近づいてくる。その方角をちらりと見て、もずは言った。
「いい人だと思ってたのに……やっぱり大人はだめ。あたしたちの敵」
周旋屋からすれば目をかけていた娘に利用されたも同然で、親玉の怒りも買ってしまった。だから追ってきているのだ。
ここにいるのはもずだが、奴らが捜しているのは菖蒲のはずだ。彼女に横取りされたと誤解している。
「……竜子さんを殺そうとここにやってきたのも、菖蒲の代わりにか? 彼女がそう望んだのか?」
「菖蒲はお母さんのこと恨んでないって言ってた。でも小さい頃から放ったらかしで、娘をお金に換えたひどい母親でしょ。それに年季が終わって親のところへ帰っちゃったら、残された一座のあたしたちはどうすればいいの」
少しずつ、少女の理論は破綻していく。
同時に声の調子もはずれてきた。
彼女の手には依然として危険物のはいった袋が握られており、興奮させるのは避けたかった。
「本来、きみたちは違法の人身売買に巻き込まれた被害者なんだ。もっと早く警察に相談してくれれば……」
「いらない、大人の助けなんて。あたしたちは今のままがいい。子どもだけでも生きていけるし、みんなを助けられる。自分たちの芸でご飯を食べられる。今のままで十分幸せなの」
親という一番身近な大人に裏切られている彼女たちに、綺麗事は通用しない。
子どもだけで、自分たちの手で救いだすこと。それがこの子にとってなにより正しいのだ。
「でも、もういい……。どうせ、あたしたちの場所は壊れちゃったし」
もずは急に気が抜けたようになり、鉈とずた袋をがちゃりと地面に落とした。
爆発しやしないかと背筋に冷たいものが走ったが、幸いなにも起こらなかった。
兎田谷先生が慌てて袋を拾い、声をあげた。
「さあ、鶯出巡査殿!」
「ああ……」
先生は解決を間近にして、芝居がかった大仰な口調でまとめにはいった。
「以上が、凶悪な連続放火事件の顛末だ。彼女は悪い大人から仲間を救うために罪に手を染めてしまった……!! 嗚呼、なんて可哀想な子たちだ。たしかに火付けの罪は重い。しかし幸いにも被害者はでていないし、情状酌量の余地はあるはずだ! 彼女たちは元々大人の欲望と悪意に振り回された、憐れな子どもに過ぎないのだから……!!」
「先生、そのような言い方は……」
「もういいって。好きに同情でもなんでもしたら。あたしたちが訳ありの可哀想な子どもだったほうが、大人は満足するんでしょ」
あきらめたような口調でぽつりとこぼす。
「あとは警察署で聞こう。私が一緒に行ってやるから心配ない。な?」
巡査は少女に駆け寄り、力強くも穏やかな声をかけた。
「あ、巡査殿。この袋は預からせてくれない? その子といるときに爆発したら危ないし、瓶を確かめたらすぐ持っていくからさ」
「まあ、構わんが。ほどほどにしろよ」
先生の好奇心の虫にあきれつつも、爆発する可能性を考えたようで承諾した。
「叉崎一派はどうするんです? 奴ら、神社を包囲しているのでしょう」
「先生に言われて、あらかじめ警察の応援を呼んであるんだ。大正通りで待機しているから呼べばきてくれるはずだ」
もずの肩に手をのせ、巡査は大鳥居のほうへ向かった。
「竜子さんはなにを?」
「お参りだよ。十は東京招魂社。願掛けをしていたのは竜子さんのほうだからね」
「あの……それで結局、数え唄と手紙の件は? 毎回手紙が到着したあとに参拝をしていたのは無関係だったのでしょうか」
「まあ、もずと菖蒲太夫はずっと一緒にいるんだから、数え唄の順路で火事を起こしても不思議じゃないしね」
たしかにこれだけでも、大枠は解決したような気はするが──
竜子の不審な行動の理由は不明だ。
しかし彼女が放火事件に関係ないのであれば、これ以上詮索すべきではないのかもしれない。
叉崎がすでに竜子から手を引いているのを本人が知っているのかはわからないが、少なくとも兎田谷先生への報酬は踏み倒している。
借金で逃げ回っている身でありながら、こんな時間に境内に侵入してまで、いったいなにを願っているのだろうか。
「連続放火事件の犯人も捕まえたし、俺は報酬かもらえたらいいよ。あとは竜子さんが出てくるのを待って回収できれば、依頼はこれにて解決! さっさと帰って寝正月をやり直そう。もう三箇日も終わるけど」
先生は両腕をあげて体を伸ばし、眠そうにあくびをした。
誰かのために自身の皮膚を焼いたり、鉈を持ちだすことすら厭わないのだ。下手に刺激すればなにをするかわからない。
だが、ただの攻撃性にしては、意図された法則に沿って動いているように見える。
十通の手紙、数え唄、消えた子どもたち。
連続放火事件は毎回、菖蒲が手紙を母親に出した直後に起こっていた。
そのため鶯出巡査は竜子が娘を追った結果ではないかと疑っていたのだ。
竜子ではなくこの子が犯人なのであれば、どんな理由があるのか。
「私にも聞かせてほしい。なにか切羽詰まった事情があるんだろ?」
巡査の問いかけにも、もずは黙っていた。
代わりに兎田谷先生が答えた。
「鶯出巡査殿、元日に火災に遭った家が養女にしたという姉妹の名前を知っているだろう。消えたばかりの下の子のほう」
「あ、ああ。調書を見たからな。たしか……」
巡査は必死に記憶を手繰り、口をひらいた。
「思いだした、琴だ」
「そういう名前の子が、最近わらべ屋に来たんじゃないの?」
小弟も気づいた。
菖蒲と一緒にいた桃割髪の幼子である。
『最初はつらいかもしれないけれど、はやく琴も慣れなきゃね』
二人でそんな会話を交わしていた。
一座にやってきたばかりで心細かったのか、菖蒲の手をきつく握りしめていた女児だ。
「烏丸、あの家の屋根に飾られていた鬼瓦は憶えている?」
「はい。少々変わった鬼面で、頭が三つに目が四つの……」
「漆黒の金剛夜叉明王──叉崎のシンボルだよ。名義を隠しているかもしれないが、あそこは一派の所有する長屋だ」
賭場の柱にかかっていた面、そして叉崎の背に彫られていた入墨と同じ鬼神である。
つまり住んでいた夫婦にも、叉崎一派の息がかかっていたのだ。
「夫婦には博打の借金があった。その形に、一派が買い集めている女児の世話と養親を任されていたのだろうね」
「吉江さんが話していた、吉原の大見世に売られる予定だった子の話か……」
「そう。昔より年齢規制も厳しくなったし、警察の管理下にある吉原に売るためには、親の承諾書や戸籍を提出しなければならない。はっきりした身元が必要だからわざわざ養女にするんだ。幼いうちに安く買い叩くか孤児を拾い、見込みのある子は引き取って育て、高額で転売する。その他の子は年端もいかないうちから私娼窟や顧客に流す」
なぜこの件に叉崎一派が関係あるのだろうとずっと訝しんでいたが、ようやく理解した。
「いま一座にいる子どもたちは皆、きみたちが連れてきたんだね?」
もずは深く頷いた。
「兎田谷先生。それでは、この子が民家に火を放った理由は……」
「十件の連続放火事件──わらべ屋の一座にいる子どもは十二人」
菖蒲ともずを除いた十人は、みな火災に遭った家から消えた子どもということか。
叉崎の怒りを買う行為、つまり彼らの『商品』をこの子が横取りしていたのだ。
「みんな女郎屋に売られるところだったり、悪い人に引き取られた女の子たちだよ。あたしは可哀想な子がいるおうちに火をつけて、火事で死んだように見せかけて助けだしてあげてるの。死んだらもう捜されないし、親だってあきらめるでしょ」
「いや、それは……」
鶯出巡査は否定しかけてやめた。
引っ込めた言葉がなんだったか、小弟にはわかる。
実際は痕跡がなければ死んだことにはならない。警察の現場検証で簡単に判明する事実だ。
だが、もずはそう信じ込んでいる。
子どもの浅知恵だとしても、結果的に成功していた。もう消えた子たちは捜されていない。
「だから叉崎の親分はいま血眼になってこの子たちを追っている。売られた子の情報を流していた人物がいるはずだが……大方、芸者置屋の前で激高していた若い衆あたりだろう。彼が周旋屋だね」
「あの騒いでいた奴らか。つまり消えた子どもたちは十人とも、叉崎一派の『商品』だったってわけだな……」
子どもたちが捜されないのは、違法の周旋屋の息がかかった子ばかりだから。
元締めである叉崎らが警察に訴えるはずもなく、親も身代金を受け取ったあとで子が消えてしまい、博徒から逃げるために行方をくらませてしまう。
「周旋屋のおにいさんはいい人だったよ。三年前、わらべ屋の座長に菖蒲を売った人。それからずっと菖蒲を心配してて、ときどき会ってたみたい。菖蒲の居場所をあの人の親分とか母親にばらしたりしないし、売られた可哀想な子たちの話も聞けば教えてくれるんだ」
周旋屋は意図せず少女たちに情報を漏らしていたようだ。
菖蒲を純粋に憐れんでおり、まさか他愛ない雑談からもずに伝わってこんな事態になるとは予想もしていなかっただろう。
いま思えば、縁日で石を投げようとした通行人の男──菖蒲と琴を見て『なんでこいつと一緒にいるんだ』と叫んでいたのが周旋屋だったのだ。
関係を誤解されたのだと思っていたが、琴が菖蒲のもとにいるのを驚いての発言だったようだ。
「可哀想な子たちの話を聞いた菖蒲は、いつも悲しそうに笑うの。あんなに悲しい顔を見たくないから、あたしは菖蒲の分身になるって決めた。菖蒲がやりたいこと、欲しがっていること、全部身代わりになる」
「放火事件を起こしたのも、すべて菖蒲が望んでいたと?」
鶯出巡査の絞りだすような問いかけは、少女の心に響かなかった。
「だって、菖蒲は綺麗で優しいもの。みんなもっと酷い場所に行くところだったんだよ。その前に助けてあげただけ。なにが悪いの? あたしたちを売った親や大人は悪くないの? 火をつけるのはいけないことだけど、あたしたちの命や体は家よりもっと安いの?」
巡査は押し黙って答えなかった。
小弟も、なんと返していいのかわからない。
ごろつきたちの怒号が徐々に近づいてくる。その方角をちらりと見て、もずは言った。
「いい人だと思ってたのに……やっぱり大人はだめ。あたしたちの敵」
周旋屋からすれば目をかけていた娘に利用されたも同然で、親玉の怒りも買ってしまった。だから追ってきているのだ。
ここにいるのはもずだが、奴らが捜しているのは菖蒲のはずだ。彼女に横取りされたと誤解している。
「……竜子さんを殺そうとここにやってきたのも、菖蒲の代わりにか? 彼女がそう望んだのか?」
「菖蒲はお母さんのこと恨んでないって言ってた。でも小さい頃から放ったらかしで、娘をお金に換えたひどい母親でしょ。それに年季が終わって親のところへ帰っちゃったら、残された一座のあたしたちはどうすればいいの」
少しずつ、少女の理論は破綻していく。
同時に声の調子もはずれてきた。
彼女の手には依然として危険物のはいった袋が握られており、興奮させるのは避けたかった。
「本来、きみたちは違法の人身売買に巻き込まれた被害者なんだ。もっと早く警察に相談してくれれば……」
「いらない、大人の助けなんて。あたしたちは今のままがいい。子どもだけでも生きていけるし、みんなを助けられる。自分たちの芸でご飯を食べられる。今のままで十分幸せなの」
親という一番身近な大人に裏切られている彼女たちに、綺麗事は通用しない。
子どもだけで、自分たちの手で救いだすこと。それがこの子にとってなにより正しいのだ。
「でも、もういい……。どうせ、あたしたちの場所は壊れちゃったし」
もずは急に気が抜けたようになり、鉈とずた袋をがちゃりと地面に落とした。
爆発しやしないかと背筋に冷たいものが走ったが、幸いなにも起こらなかった。
兎田谷先生が慌てて袋を拾い、声をあげた。
「さあ、鶯出巡査殿!」
「ああ……」
先生は解決を間近にして、芝居がかった大仰な口調でまとめにはいった。
「以上が、凶悪な連続放火事件の顛末だ。彼女は悪い大人から仲間を救うために罪に手を染めてしまった……!! 嗚呼、なんて可哀想な子たちだ。たしかに火付けの罪は重い。しかし幸いにも被害者はでていないし、情状酌量の余地はあるはずだ! 彼女たちは元々大人の欲望と悪意に振り回された、憐れな子どもに過ぎないのだから……!!」
「先生、そのような言い方は……」
「もういいって。好きに同情でもなんでもしたら。あたしたちが訳ありの可哀想な子どもだったほうが、大人は満足するんでしょ」
あきらめたような口調でぽつりとこぼす。
「あとは警察署で聞こう。私が一緒に行ってやるから心配ない。な?」
巡査は少女に駆け寄り、力強くも穏やかな声をかけた。
「あ、巡査殿。この袋は預からせてくれない? その子といるときに爆発したら危ないし、瓶を確かめたらすぐ持っていくからさ」
「まあ、構わんが。ほどほどにしろよ」
先生の好奇心の虫にあきれつつも、爆発する可能性を考えたようで承諾した。
「叉崎一派はどうするんです? 奴ら、神社を包囲しているのでしょう」
「先生に言われて、あらかじめ警察の応援を呼んであるんだ。大正通りで待機しているから呼べばきてくれるはずだ」
もずの肩に手をのせ、巡査は大鳥居のほうへ向かった。
「竜子さんはなにを?」
「お参りだよ。十は東京招魂社。願掛けをしていたのは竜子さんのほうだからね」
「あの……それで結局、数え唄と手紙の件は? 毎回手紙が到着したあとに参拝をしていたのは無関係だったのでしょうか」
「まあ、もずと菖蒲太夫はずっと一緒にいるんだから、数え唄の順路で火事を起こしても不思議じゃないしね」
たしかにこれだけでも、大枠は解決したような気はするが──
竜子の不審な行動の理由は不明だ。
しかし彼女が放火事件に関係ないのであれば、これ以上詮索すべきではないのかもしれない。
叉崎がすでに竜子から手を引いているのを本人が知っているのかはわからないが、少なくとも兎田谷先生への報酬は踏み倒している。
借金で逃げ回っている身でありながら、こんな時間に境内に侵入してまで、いったいなにを願っているのだろうか。
「連続放火事件の犯人も捕まえたし、俺は報酬かもらえたらいいよ。あとは竜子さんが出てくるのを待って回収できれば、依頼はこれにて解決! さっさと帰って寝正月をやり直そう。もう三箇日も終わるけど」
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