元黒聖女シャーロットはもう祈らない

くま

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シフォンケーキ

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フィナンシェ家の屋敷に、ソルさんとソラが正式に迎え入れられて数日後。彼らには屋敷内にある庭先の小さな離れの部屋があるので、そこを研究室兼住居として、義父は与えた。

屋敷の裏手には、日当たりの良い一角に薬草畑が設けられていた。土はまだ新しく、ソルさんは嬉しそうに薬草の栽培なども進めて、息子のソラも手伝いをしていた。

薬草畑の作業をひと段落させるのを、見計らって私はソラに話しかける。

「ねえ、あれから全然休んでなさそうよ。食べてる?」

私が話しかけると、汗だくなソラが顔を上げた。

「……あ、こんにちわ。えーと、、、」

「シャーロットよ。改めて挨拶するわね」

「…ソラだ。あの、、、前、酷いこと言ってごめん」

そう申し訳なさそうにソラは頭を下げる。

「気にしないで、慣れてるから。それよりも、お菓子作りでもどう?ソルさんに甘いものでもプレゼントしたくて」

「親父に?」

「うん、メイドに頼めばいいかもしれないけど、私の我儘で連れまわしたし、ソルさんにたまに薬草の事教えてもらっててお礼したいの」

その言葉に、ソラの目がわずかに輝き、頷いた。

「いいな!それ。親父、甘いもん好きだし」

「ソルさんには、あとで持っていきましょう」

そう言って、ソラとはあまり使われてない厨房へ待ち合わせすると約束をして、エプロンなど着て向かう。
部屋からでると、当然のようにユリウスもいた。ユリウス……剣術の練習や、色々と忙しいのに大丈夫かしら?

「……私も行きます」

「え?大丈夫?」

「……ご迷惑ですか…」

「朝から剣の稽古や勉学やらーー」

「大丈夫です」

「そ、そう。あ、お義母様達にもあとでお菓子を持っていきたいのね」

なんとなく圧が凄く、私はユリウスの手を握り、一緒へ行く事にした。なんだか……最近のユリウスが、、、
可愛いと思うのは姉心というものなのかな。いや親心?

自分でも少し驚きつつ、ユリウスは黙って一緒に歩いてくれた。
厨房に入ると、ソラが既に待っていた。

「あ、こんにちわ。ユリウス様」

そうソラが挨拶をすると、ユリウスはただコクンと頷くだけだった。

「姉上、ところで何を作るんですか」

「ふふー!シフォンケーキよ!苺が沢山あるし」

「……苺」

苺と聞いて、ユリウスの頬は赤くなり、なんだか可愛らしいリスのようだった。

「手作りとか貴族なんだから、メイドのお姉さん達にお願いすればいいのに。まあ、一応近くで見守ってくれてるメイド達がいるのはわかるけど‥…」

「ユリウスも参加だからね。手作りに憧れがあるから、作ってみたかったの。それに私は貴族ではないわ。フィナンシェ家で養子なの」

「……そうだったんだ」

「うん」

そのやりとりを、ユリウスは間に入り、私の方を見てムスッとした顔をして話す。

「姉上は……フィナンシェ家の者です。誰がなんといおうと」

「あ、ありがと?」

こうして、そう、シャーロット、ソラ、ユリウス三人は厨房にて小麦粉やら卵、バター、苺、砂糖など用意はするものの、近くにいたメイド達は内心ハラハラしていた。

何故なら、、

ソラが、泡立て器を持ったまま固まっている。

「なあ、これ、合ってるか?」

ボウルの中の卵白は、泡というより、ただの液体に近い。

「……んー、ねえ、何故、バターと砂糖混ぜるだけなのに、こんなになったのかしら、、」

私は覗き込みながら首を傾げる。確かに一人暮らしの時はカップラーメンとビール生活だった。でもよく本やネットでみる簡単に作れるかと思いきや、、これは難しい。

「もう少し……こう、ふわっと?マヨネーズとかいれるべき?」

「なるほどな。苺はもう潰して、卵といれるか」

「ソラは、料理が得意だと思ったけど、私と一緒で苦手なのね」

「親父も俺も料理は苦手。肉とか焼くぐらいならいいけど、お菓子作りとかは無理だなあ」

でも、前前世で貴方は手作りのシフォンケーキを私にプレゼントをしてくれたのよね。まあ、まだ今は子供だからかな?

「……姉上」

静かな声が割って入る。

「それでは、いつまで経ってもメレンゲにはなりません」

振り向くと、ユリウスが立っていた。袖をきちんと留め、エプロンの紐も完璧、、なんか可愛いわね。
その前のボウルでは、雪のようにきめ細かいメレンゲが、すでに完成している。

「……え?」
「……はや!」
シャーロットとソラが、同時に固まる。

「この角度で、一定の速さ。空気を含ませすぎず、潰さずに回してください」

さらりと説明しながら、泡立て器を動かす。
本当に、ぴん、と角が立っていた。

「……うまいな」

「ユリウス、あなた……」

「当然です」

ユリウスは相変わらず無表情のまま話す。

「菓子などの作り方は全て暗記しています」

「なんで暗記!?」

そう突っ込むソラに、ユリウスは冷めた目でソラを見て答える。

「…フィナンシェ家次期当主として当然なので」

淡々と答えながら、生地を合わせる手つきも無駄がない。私は思わず見惚れた。9歳、よね?あれ?私一応、大人だったわけで、何故か、9歳であるユリウスがこの三人の中でまともにまわせてるわ!

計量、混ぜ、型に流し、すべてが淀みなく、正確、完璧すぎる。
オーブンに入れる頃には、失敗の気配が一切ないわね。

一方私達はというと、、、

「……俺、卵殻入れた」

ソラがボソッと呟く。

「……私は、砂糖を入れすぎたかも」

二人の前には、見るからに不安な生地。なんか美味しくなさそうだわ。

「……それは、焼く価値はありませんね」

「なっ!俺よりも姉のシャーロット嬢を見ろよ!?俺より酷いぞ!?あ、、ごめん」

ユリウスは涼しい顔で、完璧な型をトン、と置いた。

「姉上は大丈夫です」

「……お前、シスコーーぎゃ!いた!足ふんだ!」


なんだかんだ、ユリウスとソラは仲良く話している。
さて、私のシフォンケーキは、シフォンケーキでない。カチコチのわけわからないものに出来上がった。

うん、お菓子作りは、、、やめよう。

「ユリウスのが1番美味しそうね」

そうシャーロットが言うとユリウスは、最後にもう一度だけ、ソラを見る。

その視線には、はっきりとした“勝者の顔”だった。
ソラは悔しそうな顔をするとユリウスは、ほんの一瞬だけ、口元を緩めた。

出来上がったシフォンケーキは、義母や義父、ソルさんに渡しみんなでお茶をする事なった。

私も一口苺のシフォンケーキを食べると、なんだか……

「懐かしい味」

ほんのり甘く、そして甘酸っぱい、あの苺シフォンケーキを思い出す。

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