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王妃の死
しおりを挟む【はじめまして、ビートル王太子】
【……えーと、……だれ?】
【婚約者候補ですが、メアリですわ】
――ふと、、、
森へ向かう馬上で、ビートル国王の脳裏に、遠い昔の記憶がよぎった。気取った微笑みと澄んだ声の女性。
聡明に見えた、あの頃のメアリ王妃を。
「……メアリだ」
ぽつりと、国王は呟く。
「あの女を、止めなかった……いや、何もしなかった俺の責任だ。カイロス、息子たちを巻き込んでしまった……すまん」
「……メアリ王妃様は、昔は聡明な方だったな」
カイロスの言葉に、国王は自嘲するように笑った。
「ただ外面が良かっただけだ。……計算だったんだろう。
あいつは、そういう女だ」
一瞬、国王は視線を伏せる。
「……それでもな。いつか、自分をきちんと見てくれると……信じていたのかもしれない。
俺は、愚かだ。1番、馬鹿なのは俺だ。…姉上が本来王位をつくはずだったんだ、、やっぱり俺は王など向いてない」
「……弱音を吐くなど、気持ち悪いぞ。前をみろ」
二人は、いち早く森へと進んでいく。
一方――教会ではーー、、
「はぁ……何よ。平民はうるさいし、ドレスは汚れるし……最悪」
オフィーリアは、聖力を注ぐことに疲れたというより、飽きていた。
胸元のペンダントを指で弄びながら、叔父であるラージル神官を探す。
――聖力を“補充”してもらうためだ。いつも叔父からもらっていた聖力をねだるために。
「叔父様、いらっしゃる?なんだか聖力が底をついたの、また――……あら?」
廊下の先で、ラージル神官と他の神官たちが慌ただしく動いている。ラージルの額には汗。苛立ちを隠す様子もなかった。
「くそっ……あの女、勝手に動きやがって!バレたらどうする……!」
そこへ、オフィーリアが姿を現し声をかけた。
「叔父様? どうしたの?」
ラージルは一瞬だけ動きを止め、低く息を吐いた。
「……あぁ、オフィーリアか」
周囲を警戒しながら、彼女の腕を掴む。
「来なさい。ここではまずい」
「??」
人払いされた小部屋、揺れる蝋燭の炎だけが、二人を照らしていた。オフィーリアは、叔父の焦燥を見逃さなかった。
「……我々の一族は代々、次の世代にふさわしい者にだけ“真実”を伝える」
ラージルは静かに語り出す。
「……今が、その時かもしれないから伝えよう」
「真実?お母様も知っているの?」
「いや。姉さんは知らないよ。私は父から、父は元聖女だった父の叔母から……受け継いできた」
彼は、彼女を見据える。
「だが君は“次期聖女”だ。いや、もう決まっていると言っていい」
オフィーリアの瞳が、期待に輝く。
「だからこそ、知る資格がある」
ラージルは椅子に腰掛け、指を組み、話す。
これまで自分の聖力の元は、聖力を生み出す“器”達がいたこと。
教会が何百年もかけて縛り、削り、使い続けてきた存在。
その器の正体。歴史。
そして――
「亡くなったアンナ王女の子が、ウィリアム王太子。
……そして、死んだと思われていた赤子が……シャーロットだ」
オフィーリアは、息を呑む。
「“黒の一族”は危険だ。我々は神の代わりとなる存在。
常に、最上に立つ者だ。秩序を壊す者には、罰を与えねばならない」
彼は彼女の肩に手を置いた。
「オフィーリア、君は導く側だ。祈り、従い、選ばれる側にいる。だからこそ、聖女にふさわしい。
捨てられる存在と、選ばれる存在の違いを覚えなさい。
君は――“選ばれた側”だ」
オフィーリアは、にっこりと微笑む。
「もちろん。私は、次期聖女ですもの」
「私は“奴”を探しに行く。一族が一人でも生きていれば、教会は成り立つ。王妃が馬鹿な行動をしなければ、、、少し愛を捧げれば単純なやつだ。今は災害で混乱している。一人二人死んでも、問題はない」
「わかったわ。気をつけて、叔父様。神に祈ってます」
ラージル神官はオフィーリアに鍵を渡し去った後、
オフィーリアは、神像を見上げ、歪んだ笑みを浮かべた。
「みんな、死ねばいいのに。そうでしょう?神様」
そう呟いていた。
森の闇は、異様なほど静まり返っていた。
――私の母が、アンナ王女で、、、
父が……私とウィリアム王太子は、信じられないという表情で見つめ合う。
「……どんな理由があろうと」
ユリウスが、冷たく言い放つ。
「そんな“大人の事情”は知りません。なぜ、陛下に相談しなかったのですか」
父と名乗る男――アドルフは、俯いた。
「……すまなかった」
その時だった。焚き火の向こうから、ゆっくりと拍手の音が響いた。
「……見事ね。感動の再会」
現れたのは、メイリ王妃だった。
視線は、まっすぐウィリアム王太子へ。
「アンナ王女は、私の憧れだったわ、、でも、今度こそ終わり」
アドルフが一歩前に出る。
「この子たちには……もう、指一本触れさせない」
「相変わらず、無駄に優しいのね。“源”のくせに」
王妃が指先を掲げる。次の瞬間――アドルフの全身に、黒い紋様が走った。
「……っ!!」
「新しく刻み直した“奴隷印”を忘れた?あなたが、私に逆らえないように……ね」
膝をつき、苦悶するアドルフ
「アドルフさん!!」
彼は、私たち三人を振り返り、微かに微笑んだ。
「……大丈夫だ……」
王妃は舌打ちする。
「感動ごっこはそこまで。ウィリアム、あなたは邪魔なの。王位は――ガイアのもの」
「……そんなことをすれば、父上が悲しみます」
「黙りなさい!!あの人は、私を愛してなどいなかった!」
王妃が剣を振り上げた、その瞬間――
グサリ
腹部を貫く刃が見える。
「……な……に……?」
刺したのは――ラージル神官だった。
「勝手に“全ての器”を殺そうとするなど……教会を潰す気か、メイリ王妃、この馬鹿が」
王妃の瞳が、憎悪に歪む。
「……裏切るの……? 愛人のくせに……!」
「なっ!?がは!」
彼女は、最後の力で剣を振る。
――心臓を貫かれ、ラージル神官はその場に崩れ落ちた。
それでも息のある王妃のもとへ、ついに――国王陛下たちが駆けつけてきた。
私が話しについていけなく、混乱している中、ユリウスはただ黙って、私の手を強く握りしめてくれた。
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