元黒聖女シャーロットはもう祈らない

くま

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黒の一族

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男は焚き火の炎を見つめたまま、ぽつりと語り始めた。

「……僕の名は、アドルフ。よろしくね」

低く、掠れた声だった。

「どこから、話そか。そうだね、、平民で……神官だった。そして、教会にとっては“罪人”だ」

フードの下から覗く身体は、あまりにも痩せ細り、衣服は擦り切れている。長い年月、まともな暮らしをしてこなかったことが、痛いほど伝わってきた。

「僕は“黒の一族”の末裔だ」

その言葉に、ウィリアム王太子の眉が僅かに動く。

「……あの、黒の一族とは?」
「昔、聖女がまだ“道具”ではなかった頃、精霊と人を繋ぐ役目を担っていた一族だよ。聖女に力を与え、教会に力を貸し、国を守るために――ね」

焚き火が、パチリと鳴る。歴史では聖女が全てだった。
だけどこの話では、、聖女ではなく、全てその一族が裏にいたという事になるわ、、、。


「でも……時代が変わった。教会は“借りる”ことをやめ、“奪う”ことを選んだ。一人、また一人と……一族は殺されていった。力だけを搾り取られ、役目を終えれば処分される」

なんだろう、、このさきの話を私は聞いていいのかしら‥こんな事、私、、知らないわ。
そっと私の手を握り締めてくれたのはユリウスだった。

大丈夫、よね。

「生き残ったのは……僕だけだったね」

アドルフは、袖を捲り上げるとそこには、黒く焼き付いたような紋様――奴隷印が刻まれていた。
あれは、、禁忌の印よ。

「逃げられないように、刻まれた印だ。この印がある限り、僕の聖力は……教会に流れ続ける」

その瞬間、私は理解してしまった。

「……ラージル神官の、聖力……」

アドルフは、静かに頷いた。

「うん、彼の力の“源”は、僕だよ。昔からそういう役目だった。黒髪は目立つ。だから僕は、森の神官として――ひっそりと、身を隠すように生きていた」

精霊から力を貸してもらい、教会の神官に力を“与えさせられ”ながら。

「……そんな時だ」

アドルフの声が、僅かに柔らぎ、嬉しそうに話しだす。

「アンナに、出会ったのは」

ウィリアム王太子の肩が、びくりと揺れた。

「彼女は……王女だった。でも、身分を隠して森に来ていたんだ。教会の事を調査しにね」

最初は警戒していた、とアドルフは言う。だがアンナは、彼の正体を知っても逃げなかった。黒の一族のことも、奴隷印のことも――すべてを知ったうえで。

「……それでも、彼女は言った」


『あなたは、奴隷なんかじゃない』

「……それが、すべての始まりだった」

二人は、惹かれ合った。立場も、身分も、すべてを越えて、、

「やがて……アンナは、君を身籠った」

ウィリアム王太子が、息を呑む。

「うん、君は、僕とアンナの子だ。でも… “黒の一族の子”を宿すということは、、、
教会にとって、
永遠に搾取できる“器”を得ることを意味する」

だからアンナは、決断した。

「一番安全な場所へ行くと。弟のいる、城へ」

神を信じるふりをして教会へ通いながら、
密かに証拠を集め、アドルフを解放する方法を探し続けた。

奴隷印を解放できる方法を、見つけた二人は、城へ向かうことを決めた。

ようやく国王にすべてを話し、息子ウィリアムを抱きしめ、ようやく“家族”として生きられる――はずだった。

「その時……アンナの中には、もう一つの命が宿っていた」
焚き火の炎が、大きく揺れた。

「馬車に乗り、自由になったと嬉しかった。だが……それは叶わなかった」

メイリ王妃と、ラージル神官。彼らの手によって――
馬車は襲われ、崖から転落したという。

「アンナは……自分よりも、お腹の子を守ってほしいと
僕に、叫んだ」

声が、かすれる。

「……だから僕は……」

アドルフは、震える手を握りしめる。

「力を注ぎ……まだ未熟児でもある子を優先して助かった。アンナは……そのまま、息を引き取った」

シンと静かになり、私は何も言えず、ウィリアム王太子の顔も見る事ができなかった。

「生まれた赤ん坊を抱いて逃げた。でも……追手はすぐそこまで来ていたんだ」

捕まるのは時間の問題、アドルフは近くにあった孤児院に赤ん坊を置いた直後、また教会に捕まり、王妃からは罪人だと罵声を浴びられる始末。


「……アンナを助けられなかったのは僕だ。罪人は間違いないね」



ユリウスは口を開く。

「……その孤児院においてきた赤ん坊って‥…」

ウィリアム王太子もハッと顔をあげた。
アドルフは、深く頭を下げながら、涙を流す。

「その赤ん坊が――シャーロット……君だ」




焚き火の音だけが、森に響いていた‥…
私の胸の奥で、ずっと分からなかった“空白”が、静かに、埋まっていくのを感じるわ。
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