元黒聖女シャーロットはもう祈らない

くま

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黒髪の男性

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森の奥へと導かれるように走り続け、どれほどの時間が経ったのか分からない。空はすでに群青に染まり、木々の隙間から覗く月明かりだけが、私たちの行く先を照らしていた。

一方その頃、城下町の病院には、重々しい足音と共に、王の到着を告げる声が響いていた。

「陛下がお越しだ!」

国王陛下は、深い疲労を滲ませながらも、真っ先に病室へと足を運んだ。

「カイロス……!無事か!?」

寝台に横たわる義父――カイロスは、ゆっくりと目を開け、かすかに笑みを浮かべる。

「……大丈夫だ。陛下」

つい先刻まで瀕死だったとは思えないほど、顔色は安定している。国王は信じられないものを見るように息を呑んだ。

「これは……まさか……」

「シャーロットのおかげだな。我が家は妻だけではなく、私も助かった、」

 病室の扉が勢いよく開くと、そこにはソラが現れた。

「……あ。気づいたんですね。カイロス様、と陛下もきてたんすね。まあ、あのガイア王子、見つかったんだな」

その言葉に、国王は首を傾げ、はっきりと答えた。

「ん?ガイアは、最初から城にいた。無事だぞ?」

「……は?いや、だって、森の方へ行ったんじゃ?」

ソラは先程までの出来事を二人に説明をすると、話を聞き終えた瞬間、国王とカイロスの顔色が一変する。

「……すぐに捜索を、、ウィリアム、ユリウス、そしてシャーロット――

 一刻も早く、全軍を動かせ」

「「はっ!」」

「私も同行しよう」

こうして、王都は再び慌ただしさを取り戻す。




一方、その頃、森の中ではーー
焚き火の小さな炎が、静かに揺れていた。
謎の男は迷いのない手つきで火を起こし、周囲を警戒しながら私たちを座らせる。

ユリウスは男をずっと警戒していた。

「……あ、ありがとうございます」
 
私の呟きに、男はじっと私を見て、照れている様子だった。
ユリウスは肩を押さえ、歯を食いしばっていると、
男は彼の前に膝をつき、フードの奥から淡い光を灯す。

次の瞬間、温かな光がユリウスの肩を包み込んだ。
「……っ」

 痛みに身を強張らせていたユリウスの表情が、次第に緩んでいく。

「これは……聖力?」

私がそう問いかけると、男は焚き火の揺らめく炎を一瞥し、静かに答えた。

「どうかな。正確には――“精霊たちに借りている力”だね」

ユリウスの腕は完全に治った。

「……ありがとうございます」

ユリウスが小さく頭を下げる。男はそれを一度だけ視線で受け止め、立ち上がると、焚き火の向こう――闇に溶ける森を見つめていた。

「礼はまだ早いよ。今夜は……ここが安全だとは限らないから」

焚き火が、パチリと乾いた音を立てた。その瞬間、男の視線が、ゆっくりとウィリアム王太子へ向けられる。

「……君は」

一瞬、言葉を探すように間が空いた。

「……アンナに、よく似ているね」


 ――ビュウッ!!
突風が森を駆け抜け、焚き火が大きく揺れた。その勢いで、男のフードが弾かれるように落ちる。露わになったのは――黒曜石のような黒髪と、深い赤の瞳の人。

「……っ」

息を呑んだのは、私だけではなかった。ユリウスとウィリアム王太子もだわ。
それは――あまりにも、私に似た顔だわ。

輪郭、目元、性別が違うだけで、鏡写しのように重なる面影だった。

ウィリアム王太子が、戸惑いを隠せずに男を見る。

「……あなたは……一体何者ですか…アンナは僕の母の名です」

男は、微かに、しかし確かに寂しげな笑みを浮かべた。

「……アンナは」

その名に、ウィリアム王太子の指先がわずかに震えた。

「僕が愛した女性だ」


男は語った。過去の話をーーー



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