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春の学園ようこそ
しおりを挟む冬は終わり、春の訪れと共に、王都の学園は一気に華やいだ。
淡い若葉色の制服、校門に並ぶ馬車、人いきれと期待が混じったざわめき。その光景を少し離れた場所から見つめていた。
「まさか私が、学園に通う日が来るなんて」
前前世では、教会と屋敷の往復だったし、通うたびに、
治癒、雑用、調整、交渉、森の穢れを清めたり、学ぶ時間はあっても、「学園」という場所とは縁がなかった。
前世でもそうだったわね。バイトと学校の行き来をしていたり、、
「これも将来の自分のためね」
呟くと、隣でソラが腕を組んだまま笑っていた。
「まー、俺も似たようなもんだろ。平民だし。でも成績だけは妙に良かったらしくてさ」
そうね、まさかの、入学テストが良かったのよね。
「まあ、俺天才だからねー」
そう軽口を叩きながらも、ソラはどこか誇らしげだった。
平民でありながら、学園に通う許可を得たのだ。
それだけで、周囲の視線は厳しいのに、本人はまったく気にしてない様子だった。
――そして、私に向けられる視線は、それ以上だった。
「……ねえ、みてよ、あの黒髪の人……」
「聖女にならないって言ったって噂の……」
「病院? 勝手なことを……」
「ユリウス様の義理の姉よ、、可哀想に、ユリウス様」
囁きは、はっきりと悪意を帯びていた。
完全に異端児扱いというか、まあそう見られていることは、分かっていた。
「あーいうのは気にするなって。ユリウス様が学園を案内してくれるみたいだし、、でも学年違うのにいいのかな」
「確か、ウィリアム王太子は中等部の方に通ってるの。あの方と一緒に来るみたいだわ。同じ剣術部みたいだし、、」
「へー。俺、剣術は無理だな。俺達、同じクラスなのをユリウス様妬いてたのは面白かったぞ」
「ソラとユリウス、仲がよいものね」
「……いや、そうじゃないぞ、シャーロット」
待ち合わせの場所へ向かい、廊下を歩いていると、わざと肩をぶつけられる。
「……あーら、ごめんなさい?」
謝罪の言葉に、謝意は一切ない。数人の令嬢が並んでいた。
オフィーリアの取り巻きたちだわ。
「魔女が、学園に何の用かしら?」
「聖女にもならないのに、学ぶ必要あるの?」
「平民まで連れて……随分とお優しいのね」
くすくすと笑い声をし、周りも私を見て指をさしながら、馬鹿にし始めてきた。
ソラが一歩前に出かけたが、私は冷静に話す。
「学ぶ理由は、人それぞれですもの。貴女方に説明する必要はないわ」
「はあ!?」
次の瞬間、空気が変わる。
「……何をしているんです」
低く、氷のようにとても冷たい声が響き、その場の空気が一瞬で張り詰めた。
現れたのはユリウスだった。
制服姿の彼は年相応のはずなのに、纏う気配だけが異様に鋭く、剣を持っていなくとも、その殺気は十分すぎるほどね、、。
「ユ、ユリウス様……?」
取り巻きの令嬢たちは一斉に顔色を変える。
「……廊下で騒ぐなと、校則で決まっています。……それとも、文字が読めないほど馬鹿ですか」
淡々とした口調なのに、言葉は容赦がないわね。ソラは【よし、俺も加勢するぞ!】といわんばかりに前に出ようとしたので私は止めた。
その時、もう一人が前に出た。
「まあまあ、ユリウス。そんなに怖い顔をしなくてもいいじゃないか」
柔らかな声と共に現れたのは、ウィリアム王太子だった。中等部の制服に身を包み、穏やかな笑みを浮かべている。爽やかね、春がとても似合う方だわ。
ウィリアム王太子は私を見て微笑みかけてから、生徒に話しかける。
「さて、朝から学園で騒ぎは感心しないね。春は気持ちが浮つく季節だけど、だからこそ紳士淑女らしくしないと」
王太子の一言に、周囲の空気が少し緩む。
「ウィ、ウィリアム王太子殿下……申し訳ございませんでした!」
令嬢たちは慌てて姿勢を正した。
「ほら、みんな、解散解散。次は授業だろう。僕達は用があるからね」
その言葉に逆らえる者はいなく、取り巻きたちは顔を伏せ、そそくさと去っていった。
最後までユリウスだけは動かず、逃げていく背中を、冷え切った目で見送っていた。
「……次はない」
ぽつりと落とされた言葉に、ウィリアム王太子は苦笑した。
「……君は少し気を張りすぎだよ?」
「貴方は優し過ぎるかと」
なんだろう、この子達、まだ未成年よね、、。え、ここ初等部よね。何故かユリウスとウィリアム王太子が大人に見えてしまうじゃない。
「姉上に無礼を働く者を、見逃さないだけです」
その言葉に、私は一瞬、目を見開いた。
あんなにも距離を取られていたはずの義弟が、迷いなくそう答えるんだもの、、うん、なんだか嬉しいわ。
「……大丈夫ですか、姉上」
ようやくこちらを向いたユリウスは、先ほどまでの殺気をすっと消している。
「ええ。ありがとう」
「……当然です」
そっぽを向くが、耳はほんのり赤かった。
そんな四人の様子を教会へ行き、少し遅れてやってきたオフィーリアは遠くから、見つめていた。
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