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触れる瞬間
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静かな夜、屋敷の丘の上から見下ろす王都の灯りは、昼間の喧騒が嘘のように穏やかで、風が草を撫でる音だけが響いていた。私は膝を抱え、ぼんやりと夜景を眺めていた。
「……姉上?」
名を呼ばれ、振り返るとユリウスが立っていた。月明かりに照らされた銀髪が、柔らかく光っている。
「姉上……眠れないのですか?」
「ええ。少しだけ、ね」
そう答えると、ユリウスは私の隣に腰を下ろした。
肩が触れそうで触れない距離。わざと保たれた、その微妙な間隔に、胸が落ち着かなくなる。
「今日のこと……皆、感謝していました」
「そっか」
「姉上は、本当に優しい方です」
その言葉に、私は小さく首を振った。
「……違うわ、ユリウス」
夜景から目を逸らさず、静かに続ける。
「教会の炊き出しで老人を庇ったのも、今日のことも……ただの善意じゃないわよ」
「……」
「以前、書類で見たの。あの老人が、かつて医療に長けていた人物だと。一度だけ、名前が載っていたのを私が覚えてたの」
言葉を選びながら、私は自分を切りつける。
「だから助けた。情けじゃない。役に立つと思ったから……ソラみたいに純粋に人を助けたいという気持ちで動いたわけじゃないの」
そこまで言った時、ユリウスの指先が、そっと私の手に触れた。
「……それでも」
その声は低く、熱を帯びていた。
「姉上が“誰を選んだか”は、変わりません」
私は思わず、彼を見る。
「利用価値だけなら、見捨てることもできたはずです。それでも、助けた。その結果が良ければ良いかと」
ユリウスは、私の手を離さなかった。夜の冷気の中で、その温もりだけが、やけに鮮明だった。
「……ねえ、ユリウス」
私は、震える声で続けた。ずっと、感じていたことを、ユリウスに話す。
「私ね、結局教会と同じことをしている気がして……それが怖いの。だから、教会へ行くのを、躊躇っていたの」
「同じではありません」
即答だった。
一瞬、言葉を探すように視線を伏せてから、彼は真っ直ぐ私を見た。
胸が、強く脈打った。
「姉上が迷う時、苦しむ時……それは、人の心を切り捨てられない証ですよ」
「……ユリウス」
呼ぶと、彼は小さく息を呑んだ。
「もし、姉上が立ち止まってしまっても」
彼の指が、私の手を包み込む。
「その時は……私が、隣にいます。姉としてではなく、一人の人として」
言葉の意味を、互いに理解してしまった沈黙。
風が吹き、王都の灯りが揺れる。
「姉上、7年前、私が姉上に言った事を覚えてますか?」
「…え、それってーー」
「いますぐ返事が欲しいわけではありません。…待つのは得意ですから」
彼は、少し照れたように視線を逸らしながらも、手を離さなかった。
胸の奥が、じんわりと熱を持つ、丘の上で、二人並んで夜景を見つめながら私は、ユリウスの温もりを拒むことができなかった。
「……姉上?」
名を呼ばれ、振り返るとユリウスが立っていた。月明かりに照らされた銀髪が、柔らかく光っている。
「姉上……眠れないのですか?」
「ええ。少しだけ、ね」
そう答えると、ユリウスは私の隣に腰を下ろした。
肩が触れそうで触れない距離。わざと保たれた、その微妙な間隔に、胸が落ち着かなくなる。
「今日のこと……皆、感謝していました」
「そっか」
「姉上は、本当に優しい方です」
その言葉に、私は小さく首を振った。
「……違うわ、ユリウス」
夜景から目を逸らさず、静かに続ける。
「教会の炊き出しで老人を庇ったのも、今日のことも……ただの善意じゃないわよ」
「……」
「以前、書類で見たの。あの老人が、かつて医療に長けていた人物だと。一度だけ、名前が載っていたのを私が覚えてたの」
言葉を選びながら、私は自分を切りつける。
「だから助けた。情けじゃない。役に立つと思ったから……ソラみたいに純粋に人を助けたいという気持ちで動いたわけじゃないの」
そこまで言った時、ユリウスの指先が、そっと私の手に触れた。
「……それでも」
その声は低く、熱を帯びていた。
「姉上が“誰を選んだか”は、変わりません」
私は思わず、彼を見る。
「利用価値だけなら、見捨てることもできたはずです。それでも、助けた。その結果が良ければ良いかと」
ユリウスは、私の手を離さなかった。夜の冷気の中で、その温もりだけが、やけに鮮明だった。
「……ねえ、ユリウス」
私は、震える声で続けた。ずっと、感じていたことを、ユリウスに話す。
「私ね、結局教会と同じことをしている気がして……それが怖いの。だから、教会へ行くのを、躊躇っていたの」
「同じではありません」
即答だった。
一瞬、言葉を探すように視線を伏せてから、彼は真っ直ぐ私を見た。
胸が、強く脈打った。
「姉上が迷う時、苦しむ時……それは、人の心を切り捨てられない証ですよ」
「……ユリウス」
呼ぶと、彼は小さく息を呑んだ。
「もし、姉上が立ち止まってしまっても」
彼の指が、私の手を包み込む。
「その時は……私が、隣にいます。姉としてではなく、一人の人として」
言葉の意味を、互いに理解してしまった沈黙。
風が吹き、王都の灯りが揺れる。
「姉上、7年前、私が姉上に言った事を覚えてますか?」
「…え、それってーー」
「いますぐ返事が欲しいわけではありません。…待つのは得意ですから」
彼は、少し照れたように視線を逸らしながらも、手を離さなかった。
胸の奥が、じんわりと熱を持つ、丘の上で、二人並んで夜景を見つめながら私は、ユリウスの温もりを拒むことができなかった。
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