元黒聖女シャーロットはもう祈らない

くま

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忌子と呼ばれるこ

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教会の朝は、いつも澄んでいる、白い石床に差し込む朝日が、ステンドグラスを透かして淡い色を落としていた。
以前はこの雰囲気が好きで、私の居場所だと思っていた。

……いまは正直、怖いというのが正解ね。

学園へ通う前、ここで祈りを捧げることは半ば習慣になっている。私は祭壇の前に膝をつき、短く祈りを終え立ち上がった、その時だった。

 ――カタン。

背後で、かすかな音がした。振り返ると、柱の影から覗くように、淡いピンク色の髪の青年が立っていた。

細い肩、青白い顔色。視線が合った瞬間、彼ははっと息を呑み、慌てて踵を返す。

「待って」

 反射的に声が出た。

「……!」

 青年の肩がびくりと震える。逃げようとした足が止まり、ゆっくりとこちらを振り返った。

「……あなたは」

記憶が、確かに繋がる。以前、ソラと一緒に助けた青年。
そして――なぜかオフィーリアに似ていると思った、その人だった。

そこへ、入口の方から足音が重なった。

「姉上?」

朝の鍛錬帰りなのだろう、軽装のユリウスがこちらに歩み寄る。その少し後ろには、腕をさすりながら渋い顔をしたソラが続いた。

「うぅ……やっぱ今日も筋肉痛……。剣って、こんなに全身使うだな、、」

「……情けないな。まだ三日目だろ」

「ユリウス様は期待されてる側だから余裕なんだよ、あいつら俺を標的しやがって」

そんなやり取りをしながら、二人の視線が青年に向き、青年は一瞬、怯えたように身をすくめた。

「……あ、えと、、」

彼は小さく息を吸い、意を決したように頭を下げた。

「……逃げようとして、すみません。……でも、あなたを見たら……」

「ねえ、貴女、オフィーリアの弟よね?」

そう私が質問をすると、青年は固まって驚いていた。
空気が、すっと張り詰める。

「私達は別に貴方をどうこうするわけではないわ」

ニッコリとそう微笑み、警戒を和らげると青年は報告を赤らめて頷く。

「あ、え、と。、双子、、です。でも、僕は“忌子”でした。生まれつき体が弱くて……姉は元気で、聖力もあって。両親は、迷わず姉を選びました」

静かな声だった。怒りも、恨みも、どこかに置き忘れたような――ただ事実を語る声だった。

「……本当なら、僕は生きていないはずでした。でも……乳母と綺麗なお姉さんの二人が、、、乳母今はもう亡くなり、お姉さんは何処かいってしまいましたが……“この子は生きていい”って、言ってくれて」

青年は、ようやく顔を上げた。

「……あの人達が、僕を殺さず、生かしてくれたんです」


朝の光が、彼のピンク色の髪を淡く照らす。
その色は確かに、オフィーリアと同じなのに――
まるで、別の人生を背負わされた色に見えた。
私は、無意識のうちに一歩、彼へ近づいていた。

「……ここに来たのは、祈るため?」

青年は一瞬驚いたように目を見開き、それから、静かに頷いた。

「……はい。生かされた意味を、知りたくて」
 
青年は、少しだけ迷うように視線を伏せてから、口を開いた。

「……僕の名前は、アルタスです」

その名を聞いた瞬間、ユリウスの眉がわずかに動いた。
どうしたのかしら、、、?

「アルタス様かー、貴族なのに、ボロい服きて、ひでえな」

そうソラから話すと、アルタスは慌てて話す

「“様”なんて、いりません!そ、それといつも、オフィーリア姉様にはパンを貰ってます!」

オフィーリアが可愛がっているなら、こんな見すぼらしい姿ではないはず、、、。

「僕は……死んだことになっている人間ですから、しょうがないんです」

その言葉は、あまりにも静かで、あまりにも軽く放たれた。教会の高い天井を見上げながら、アルタスは続けた。

「時々、こうして抜け出して……外の世界を見に行くんです。本を読んだり、コソっと人の話を聞いたり……それだけで、息ができる気がして」


 ソラが、思わず、話しかける。
「……危なく、ないか?貴族なのに、護衛もつけず、こんなウロウロと」

アルタスは、考えながら指を折り話す。

「僕を知っている人は、ほとんどいませんし、」
 
「姉のオフィーリア。ガイア王子。……それから、両親だけ」


一瞬、沈黙が落ちる。
ステンドグラスを透けた光が、床に色を落とすだけの時間。私は、ゆっくりと言葉を選んだ。

「……それなら、ここに来たことも」

「誰にも言えません」

アルタスは、微かに笑った。

「だから……あなたに引き止められた時、正直、怖かった」

「でも……以前、助けてもらった時のことを覚えていました。あの時、あなた達は……僕を“人”として見てくれたのが嬉しかったです」

ユリウスは私に小声で話しかける。

「ウィリアム王太子にご報告するべきかと……」

「そうね、、、」

教会の鐘が、低く、朝を告げていた。

シャーロットが去っていく姿をアルタスは見つめていた。


「……あの人が、、、シャーロット、様…」

そうつぶやいた。




 
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