麗しの殺し屋御殿

妃月未符

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第3幕 ~栄光の蜜~

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 ——これは……いったい、どういうこと。

 取りつかれたような歓喜の表情の母親。
 その横で相手をする澄春。

 その状況を見ながら徐々に華は冷静さを取り戻しつつあった。

 恋人と名乗られたり、職場の上司だと言ってみたり――最初は驚いたが、澄春の堂々とした姿勢がそうさせるのか、今では落ち着いて考えることができる。

 完全な嘘ではないが。
 六十億というのは大幅な誇張だ。

 今華が出演中のアニメはたしかに、可能性を大いに秘めているが、まだまだ滑り出しのシリーズ。

 さすがに、少し考えればわかる。

 これは澄春の戦略だと。
 そしておそらく――路空とのやりとりから分析した、母の性質を鑑みて練られた計画だとも。

 母親の特徴として、華には常に強気ででているが、表面的権威にじつに脆い一面がある。
 横暴な父や妹には気を遣い、頭が上がらないのもそう。
 自説も主義もたやすく崩してしまう。

「愛しい彼女にはなんとしてでも、誰もが名を知る存在になってほしいと思っています。多少の後援をしてでも」

 権力者のひいき目——そんなのは言うまでもなく、大好物だ。

 結婚、自活、経済の安定、社会的地位。
 こういう言葉たちを叱責の言葉の中に多用するのは、世間一般で認められている生き方を娘に強要し、自身もそれにすがりついて生きて来た証だ。
 すなわち、娘の成功は自分の成功だと思っている。

 華が成功への階段を駆け上がりだした今を存分に利用し、約束された富や未来の地位、地位のある恋人の存在をちらつかせ、澄春が言いたいのはつまり。

「ですがそのためには投資が必要なのです。レッスン費用もそうですが。なにより、身体が資本の仕事なので。健康状態は万全にしなくてはなりません」

 今が、娘が飛躍するチャンスだということ。

「近頃お嬢さんは、重複する仕事や――度重なる誰かとの連絡などで精神的に少し治療が必要な状態でして」

 息もつかせぬ速さで、インパクトが絶大な情報を提示していく。

「いいえ、ご心配には及びません。来たる大勝負のため、少し休息させたいと、私個人が思っている次第ですので」

 これでもかというほどステータスをちらつかせ――。

「つきましては、華さんが受け取るはずであった障害年金を、お返しいただけないでしょうか」

 それを餌に、こちらの欲求を呑ませること。

「ええ、それはもう――協力させていただくことに、異存はありませんわ」


 餌を前に相手が屈服するのに時間はかからず。

「娘のためなら援助は惜しまない。それが母親というものです――」

 こうして華は一言も発さないうちに、自身が手にするはずの年金を取り戻したのだった。
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