麗しの殺し屋御殿

妃月未符

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第5幕 ~不要な罰~

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 深夜のリビング。華が寝入った後、殺し屋チームは話し合い中である。

 碧に促され、先んじて一同が集うテーブルの正面に立った凪が報告事項をそらんじる。

「どうやらまた、豚親父さんが警察に拘留されたそうです」

 この呼称はすでに、華の父親のことであることはみな自明である。

「自身の経営している会社の部下をぼこぼこに殴ったとか。困った豚さんです」

 凪が『豚親父』の近況を知っているのには無論理由がある。

「なるほど、ほんとうに救いようのない御方ですね。——それにしても、愛人を掌握しただけでなく、情報まで流してくれるように仕向けるとは、凪くん、いつの間にそんな交渉術を身に着けたのですか? 素晴らしい。私もぜひ見習いたいものです」

 眼鏡の奥の目を細めて称賛する湊に続いて進行役の碧も頷く。

「そうだな。正直、父親からの洗脳に浸っていた彼女に関して、ここまでうまくいくとは思っていなかった。凪、どうやったんだ」

 全員の視線が集中するも、凪は手のひらを天井に向けしまらない仕草をする。

「別に、目論んでいたわけではありません。ただ、菜々緒さん、自分が大事にすべき存在に気づいてから、息子と同じ想いを華さんにもさせていたことに思い当たったようで。自ら進んで協力してくれているだけですよ」

 細い指の関節を顎に当てた凪の瞳が胡乱気に光る。

「洗脳されやすい方はもともと純粋で聡明な方も多いのです。その心のよりどころが正しい方向にさえ向けば、とたんに世界の明るいほうへ歩みだせることも。言い方を変えれば人の人生とは、ほんの少しのかけちがいで狂っていくものなのですよ」

 うーんと、軽やかに唸って、澄春が話を進める。

「つまりは、御父上は目を覚ました愛人に見限られて、身近な人間にあたっているということだね」

「ええ。獰猛さが高まっている、つまり彼の理性が飛んでいるこのあたりで、作戦も大詰に入りたいと考えます」

 会議の舵をきる碧に、澄春は笑みを向けた。

「なるほど。具体的な策は?」

「まずは事前段階として――作戦を容易に運ばせるために、父親のスマホのデータを、いつでも閲覧できる状態にしたい」

 ひゅうと凪が口笛を吹く。

「ハッキングですか。碧にいさんもなかなかに大胆ですね」

「まぁそういうことだ。父親の住所は凪がつきとめてくれたから――」

「自宅周辺で気を引き、その間に盗み出すのが妥当でしょうね」

 具体的な行動内容を引きとった湊に、碧が頷いた。

「それ自体は、彼の場合案外難しくはないかもしれないね。突発的な感情にかられがちという特性を利用しさえすれば」

「はい、あの衝動性を利用した手を考えてあります」

 澄春の指摘を受け、碧が一同を見渡すと、その瞳の色の濃度が増した。

「要するに、誰かが彼を挑発して攻撃させ――その間にもう一人がスマホをハッキングする。この要領でいきたい」

「では人員は二名。誰が行くかだけど……時間稼ぎのおとり役は無抵抗のまま戦闘を長引かせることが求められるかな」

 澄春に首肯し、迷わず碧が断じた。

「その通りです。作戦を提案した以上、その役は俺が」
 
「――いや。俺がやる」

 突如、遮った声に、一同が視線を向けた先には、ソファの背もたれに片手を投げ出し、それまでなり行を見守っていた路空の姿がある。

 碧は片眉を上げ、碧を見る。

「大丈夫か? 一切反撃をしてはいけないんだぞ」

「痛みへの耐性にかけたら経歴上自信あるし」

「路空……」

 言い換えれば痛みへの耐性を強いられた過去を持つということで。
 そこに思い立ったのか複雑そうに顔を歪める碧に路空はにっと笑いかける。

「ていうか、一度あのクソ親父にもの言わなきゃやってらんねーわ」

「だが……」

 碧のほかにももう一人、懸念を示す者があった。

「路空、わかっていますね。体術での反撃はなしですよ」
「おめーはいっつもくどいんだよ」

 諭すように言う湊に、いつものように路空は軽口で応じる。

「そのかわり、口でだったらいくらでもいいんだろ?」

「はぁ……まぁ、そうですが……」
 
 頭に組んだ両腕を狭めて、路空はぼそりと続けた。

「てか、クソ親父に碧にいがただただやられてるとこ見るとか、そっちのがキツイし……」

「俺もお前と同じで、痛みには慣れているし、それくらいはこなせるぞ」

「碧くん、そういう問題じゃないんだよ。ふふふ、路空くんは素直じゃないね」

 細めた瞳の片目だけを開けて、澄春が囁くように言った。

「今回は、お願いしたらどうかな?」

 両の目をすがめると、路空に向きなおる。

「でも路空くん、くれぐれも無理はしないように。危険を感じたらすぐに引くんだよ」

「了解っす」

 次いで凪も路空に視線を寄越した。

「そうだよ、路空くん。きみが本当に危険な状態になるのならこの僕が、すぐに豚親父さんを消してあげるから……」

「まぁ、ほどほどに頼むわ」

 各々が寄越す配慮の視線を、路空は軽く手を振って受け止めた。
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