麗しの殺し屋御殿

妃月未符

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終幕 ~頭の中の銃弾~

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 トルコ・イスタンブール空港。

 鉄格子に支えられたドーム型のガラス天井が一定間隔で並んでいるさなかにある、国際線ラウンジ。

 丸い円形になったカウンター席に家族三人は、娘の愛を中心に座っていた。

「今日はあたしのおごりだから。たくさん飲んで」

 にこやかに微笑む愛を挟んで、両親——将平と早妃は満足げだ。

「やはり俺の娘は優秀だな」
「ほんとうにおめでとう、愛」

 トルコでの仕事環境から、日常のあれこれへ。

 何の変哲もない、家族の会話が続く中、ウェイターの男がやってきて、英語で告げた。

「ご来店ありがとうございます。みなさんにお祝いの品です」

 出された豪勢なオードブルに、家族三者の瞳が、驚きに染まる。

「——あちらのゲストから」

 三人が視線を向けた先から、ゲストは姿を現した。

 カツリ、カツリと銀のヒールを鳴らしながら。

 薔薇色のシルクのワンピース。
 撒いた髪を散らして。
 売れっ子若手声優らしい、品よくかつ華やかなメイク。

 その身にまとう、ブラックベリーのフレグランスの香りが、雰囲気に光沢を添えるようだ。

「ごきげんよう。クソ家族のみなさん」

 ゲスト—―三月華は肩にかかる髪をふわりとかきあげて、うっとりと三人を見下ろした。

「おねえちゃん」
「愛」
「なんでここに……」

 家族のテーブルにあったグラスを茶目っ気たっぷりの笑顔で掲げ、華は妹に向けて乾杯してみせる。

「まず愛ちゃん、昇進おめでとう。お祝いの言葉は、そうね――クソ両親をおもてなしするそのお金を以前盗んだ相手へ返したらいかがかしら」
 むっと唇を引き結び、即座に言い返そうとする愛を遮り、華は続ける。

「それとも――大事な見栄を張るためには、多少の金はどうしても必要だったのかしら」

 我慢ならず、だんっとテーブルを叩いて、愛は立ち上がる。

「あなたは呼ばれてもいないでしょ。勝手に来ておいて、勝手なことを――」

 シャンパングラスを頬に傾け、華は笑顔を手向ける。

「なんでも誰かの優位に立たないと気が済まないあなたのことだものね。少しでも劣っているとみなされることが許せないのね」

 くるくるとグラスをくゆらせながら、楽し気に想いを馳せるように、言う。

「わたしが声優事務所に受かったこともあなたにとっては他人のおもしろくない成功でしかなかった。姉妹と思っていたのはわたしだけだったんだわ。自分がうまくいってる時にだけ連絡寄越さないで。あのとき、そう言ったわね」

 かつん、と響いた音は、妹が高いヒールをしならせ、一歩後退する音。

「盗んだものを返してと言っても謝罪の一言もなし。自分を批判する人が許せないあまりに、自分のした犯罪すらもなかったことにできるの、すごい能力だと思うわ」

 ゆったりと微笑む。

「あなたを称賛します。姉より」

「やめなさい、華」

「彼女がそうなったのはあなたのせいでもあるのよ。早妃さん」

 あえて母親に使う呼称を使わず放たれた華の声に、早妃は眉を顰める。

「自宅でずっと成人過ぎても家事一つせずモラハラ同然の態度をしてきた愛ちゃんを黙認してきたでしょう。わたしが家事を一度でもしなければ目くじら立てて怒鳴って。挨拶も掃除もなにも提供なし。でも愛ちゃんにはそのすべてを施すどころか、あちこち連れ歩くビップ対応だったわね」

 コトリ、と上品な音をたててグラスを置き、そのまましなだれかかるようにテーブルにもたれ、手入れされた髪をいじくりまわす仕草がなんともしどけない。

「ストレスのはけ口にして受け入れてくれる娘には甘え切って感情のゴミ箱にして。強い態度で出てくる娘にはすごすごと気を遣って」

 挑むような、薔薇の唇で、華は母に笑いかけた。

「そういうセコイところ、昔から大嫌いだったわ」

「なっ……」

「華。てめぇいい加減に――」

 つんざくような甲高い笑い声に、将平の声は押し留められる。

 高らかに笑った華は華やかな笑みを、今度こそ掌握の根源に向けた。

「早妃さんをそんなモンスターにしたのはあなたよ。将平さん」

「パートナーであるあなたが、弱い者に暴力を振るう愚図の甲斐性なしだから。早妃さんを、娘に甘えるようなモンスターにしてしまったの」

「……貴様、またわかったようなことを――っ」

 夢見るようにしなやかな右手を掲げ、華はさらに語った。

「そうよね。あなたにとっていつだって悪いのは周り。世間。自分は正しく、強く、何一つ間違ってはいないのよね」

 そしてその手を愉快そうに口元に持っていく。

「ふふふ。そうとでも思いこむしかないと思うわ」

 すっと人差し指が伸び、父親を捉えた。

「あなたってろくに働くことすらままならなくて、すがりついた自営業も横暴の力だけでやっと形を保っている有様。それも、脅しに物を言わせているから当然のごとく崩壊寸前で。世間全体から背を向けられているんですもんね」

 歯ぎしりし、今にも襲い掛からんばかりの獣と化した男に、さらに華はたたみかける。

「あなたの人とのかかわり方を見ていればわかる。お決まりのパターンなのよ。いつでも誰かと近づきになって、こいつはいい奴だとやたら称えたと思ったら、都合が悪い部分が露見してきて、途端に最低の人間と手のひらを返す。ずぅっと、その繰り返し。だって、完全にあなたにとって都合のいい人間なんかいるわけないんだもの」

 極めつけと言わんばかりの哀れむような笑み。

「妻と、そこにいる次女以外は」

「お前っ。ふざけんじゃねーぞ‼」

 ついに激昂した獣の前に、一人の男が立ちはだかる。

「おっさん。図星さされたからってやつあたってんじゃねーよ」
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